エピソード42-5

学園内 ドラゴン寮特設セット――


 撮影は順調に進んでいた。


「はい、カッート! お疲れ様!」


 司令たちのシーンは、全て終わったようだ。


「ふぃぃ、全く、何をやらすんだ! 寿命が50年縮まったわい」

「まぁまぁ、食堂につまみとビール、用意していますんで」

「おう、気が利くではないか。相手はココの生徒がしてくれるのか? グフフ」

「八、お前という奴は……カミさんが泣くぞ?」

「何言ってんだロク兄、通常ココは男子禁制なのだぞ? これほど興奮する事はなかろう? グシシシ」


 二人がそんな事を言っていると、


「じゃあ、あたしの相手をしてもらおうかね?」


「「ひぃっ、エスメラルダお姉様……」」


「八郎、お前は一番近い割には一度も顔見せなんだな! どういう了見だい?」

「し、職務に追われ、機会を逃しておりましたゆえ……」

「六郎、お前には聞きたい事が山のようにあるんだ」

「はて? 何の事やら?」

「しらばっくれんじゃないよ! 静流の件だ」

「か、彼の事ですか?」


「とにかく来い! 存分に相手してやる」ガシッ

「「ひ、ひぃぃ」」


 司令たちは、エスメラルダの左右の手で首根っこを掴まれ、ずるずると引きずられ、食堂の方に消えて行った。 


「三船兄弟に、合掌」


 スタッフたちは、司令たちの方を向いて、一礼した。





              ◆ ◆ ◆ ◆





 残すところ、保留になっているシズルーの出演シーンのみとなった。


「レヴィ、脚本上がった?」

「ムフフ。バッチリ整いました!」

「そう、見せなさい……な、 ここまでやるぅ?」

「いかに仕事を頼み辛くするか、という事ですよね? でしたらこの位はしないと」

「そうね。わかったわ」


 レヴィの修正した脚本には、シズルーの出番が追加されていた。


「じゃあロディ、お願い」

「わかりました。 ―シュン― コレで、よろしいでしょうか?」


 ロディは瞬時にシズルーに変身した。


「ふむ。イイんじゃないかしら? 写真で見たのもそんな感じだったわ」

「オシリス先輩から頂いた情報で構築しましたので、再現度は高いと思います」

「あとは、【分身】で数人同時に出してもらいたいの」

「造作もない事です」 


 アマンダとロディが話しているのを、右京とレヴィは少し離れた所で見ていた。


「はぁ、シズルー様だわ……素敵」

「私も、肉眼ではまだお目にかかっていないんです。ぬふぅ」

「そう言えば同朋に、シズルー様の『施術』を受けた方がいたようですが?」

「ルリ殿、太刀川に勤務なさっている方ですよ。職権乱用です! ああ、羨ましい」


 そんな事を話していると、アマンダが二人を呼んだ。


「じゃあ、シズルーのシーン、撮るわよ?」

「はいっ!」


「ロディ、台本よ」

「失礼。あーむ」


 アマンダが台本をシズルーに渡すと、口を大きく開け、台本を飲み込み、数秒ののち、口から吐き出した。


「ロード完了です。べー」

「ホント便利よね? 何でも芸能事務所に貸与されるって聞いたけど?」

「ええ。ですがそこのトップの方に、一目で生命反応が無い事を見抜かれてしましました」

「さすがプロね。それが四郎か。 今はシレーヌと名乗ってるみたいだけど」


 シズルーのシーンも撮り終わり、編集の際の詰めをリリィと右京が行っている。


「引きの絵面、ちょっと殺風景ですよね?」

「じゃあココに何か置く?」

「PMCだったら、機動力が必要ですよね?」

「インベントリに放置してある『月光』なら、自由に使ってもらって構わないよ」

「ムフゥ、それ、イイですね。ナイスです。シズルー様に『月に代わってお仕置き』してもらいたいです。グフフ」


 シズルーを前にすると、途端に制作意欲が湧いたのか、積極的に案を出す右京。

 リリィはロディに追加で何か頼んだようだ。


「ロディちゃん、あと何テイクかお願いしたいのがあるんだけど」

「どうぞ。静流様の品位を落とす様な事以外でしたら、何なりと」

「問題無いわよ。じゃあコレ、お願い」

「承知しました」




              ◆ ◆ ◆ ◆



食堂――


 全工程が終わり、スタッフたちは食堂に行った。

 そろそろ学生たちの夕食の為に、撤収しないといけないのだ。


「ふう、お疲れ様。生徒たちはお祈りの時間?」

「そのようですね。この隙に撤収しましょう」


 そう話しながら、アマンダとリリィが食堂に入ると、目を疑う様な光景が広がっていた。


「お姉様、もうその位で……」

「うるへー! ワイン持って来い、早く!」


 エスメラルダが酔いつぶれ、司令たちが介抱している状況だった。


「お、おいアマンダ、何とかしろ」

「そんな事言ったって、【解毒】が使えるのはココには……」


 アマンダが困り果てていると、後ろから近付く者がいた。


「もう、こんなに飲ませて、相当ご機嫌だったみたいね。寮長先生」

「姉さん?」


 学園の保健師であり医者の、アマンダの姉、カチュアであった。


「どれ、診せなさい。【メディカル・トリートメント】」ポゥ


 カチュアの手に緑色の霧が発生し、エスメラルダのオデコにポンと手を置く。


  シュゥゥゥ


 緑色の霧が全身を覆い、やがて霧散した。 


「先生! もうすぐ夕方のお祈り、終わっちゃうわよ?」

「はっ! 今何時だい? しまった、こうしちゃおれん!」


 カチュアに起こされ、覚醒したエスメラルダは、すくっと立ち上がり、バタバタと動き出した。


「お前たち、邪魔だ、とっとと帰んな!」

「わわ、帰ります! 帰りますって」


 食堂を追い出された一同は、とりあえず【ゲート】がある保健室に行った。





              ◆ ◆ ◆ ◆



保健室――


「やれやれ、ヒドい目に遭ったぞい?」

「ハチ、お前は普段の行いが悪いせいであろう? 私は被害者だ!」


 二人の司令はグダグダと言い争っている。


「でも、あんなになってる寮長先生、卒業式の打ち上げくらいだわよ?」

「その位嬉しかったんじゃないスか? きっと」


 カチュアがそう言うと、リリィが相槌を打った。


「大体何じゃ! ワシらに芝居などさせおって」

「あら? 結構迫真の演技だったわよ? 二人共」

「茶化すな、説明くらい聞かせろ」

 

 アマンダは、事の顛末を二人の司令にかいつまんで説明した。


「……つまり、私が入れ知恵をして、アナタたちの署名を貰わせたのが発端。それに同調したアナタたちは、間接的ではあれ、静流クンを窮地に陥れる可能性を招いた」

「私は、静流にとって良かれと思ったから、賛同したまでだ」

「ワシは、サブ兄がどうしても軍に恩を売っておきたいと言うもんだから、つい」


 今の話を聞いたカチュアは、腕を組んで言い放った。


「今の説明を聞く限り、こうなった原因はアナタたちにもありそうね。但し、回復魔法を学ぶきっかけになったとすれば、静流クンにとってはプラスだったのかも知れないわね」

「姉さん……」

「アマンダ、これだけの人たちに片棒を担がせたんだから、失敗は許さない。 全力で静流クンを護るのよ? あと、貸し二つだからね?」

「わかってるわ。言われなくても、そのつもりよ」


 アマンダはそう言うと、大人げなくそっぽを向いた。


「はい、この話はお終い。 んもぅ、静流クンったら水くさいわねぇん。回復魔法なら、私が手取り足取り教えてあげたのにぃ」


 司令たちを各々の基地に送り届ける為、レヴィと仁奈が司令たちをエスコートしようとしている。

 ふいに右京は八郎に話しかけた。


「すいません司令さん、ご兄弟に四郎さんっていらっしゃいますよね?」

「シロ兄? あ、今はシレ姉さんか」

「魔法で性転換されたらしいですね?」

「シロ兄の考えとる事など、わかるもんか、男を捨てるなど、言語道断じゃ!」

「止めろハチ、シロ兄にもいろいろあったんだ。して、姉、シレーヌは息災であるか?」

「ええ。それはもう」

「ならば、良い」


 そう言って司令たちは各基地に帰って行った。

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