エピソード41-15

静流派部室―― ある日の放課後


 黒魔やオカルト研究部の部室がある旧校舎に、静流派の部室もあった。

 静流派の総長である沖田エライザは、部員を集めた。


「沖田総長! お疲れ様です!」

「うむ」


 部員たちの前に立ち、沖田は深く息を吸い、部員たちに言い放った。


「諸君、時は満ちた。 私は、静流派総長を降りる」



「「「「「な、何ですってぇぇぇ!?」」」」」



 突然の辞意表明に、部員一同はざわめいた。


「何故です!? 総長」ざわ……

「納得いく説明、お願いします!」ざわ……


 沖田と同期の者が、代表して沖田に聞いた。


「私は出会ってしまった。あの方にな。そして触れてしまった『禁断の果実』に。あの味を知ってしまった以上、もはや裏方には戻れんのだ」

 

 沖田は絞り出すように言葉を紡いだ。 


「お前たち、遠くで見守るだけではダメだ。勇気を出して一歩、踏み出すのだ!」

「で、ですが、我々には最早、残された時間は……」

「今からでも遅くはない! よし、私が用意してやろう、お前たちの花道を! 残された者どもも、ついて来るが良い!」


 沖田は、部員一同に向け、宣言した。


「静流様との盟約により、『静流派』は、『黒魔術研究会』と合併する事となった」



「「「「「ななな、何ですとぉぉぉ!?」」」」」



「今更『黒魔』と?」ざわ……

「元はと言えば、奴らが出て行ったのですよ?」ざわ……


 追い打ちをかけるかの合併宣言に、部員一同は更にざわめいた。


「騒ぐな。わかっている。この件は、白井ミサ、黒瀬ミサ両氏と、静流様立ち合いの上で決めた事だ。文句は言わせんぞ!」

「は、ははぁ」


 沖田の意思は固いと見て、部員たちは簡単に折れた。


「静流派と黒魔が融合し、新たな組織を設立する。その名称を公募するので、皆のネーミングセンスを借りたい」

「そんな、無茶な……」


 部員たちはそれぞれ顔を見合わせ、首を傾げている。


「期限が迫っている。それぞれ知恵を絞るのだ! わかったな?」


「「「「「御意!」」」」」





              ◆ ◆ ◆ ◆




黒魔術同好会部室―― 


 時同じくして、黒魔の部室では、白黒ミサから部員に重要な報告があるとの事で、部員たちは少なからず緊張していた。


「何だろう? 重要な報告って?」ざわ……

「部長たちのオーデションの結果、出たのかしら?」ざわ……


 そんな事を話していると、白黒ミサが、シズムを連れて入って来た。


「みんなご苦労。今日は嬉しい報告と、少々微妙な報告がある!」


 黒ミサの第一声を聞いた部員たちは、顔を見合わせ首を傾げている。


「先ずはグッドな報告よ。我らがシズムンが、芸能事務所『ミフネ・エンタープライゼス』に入社することが決まりました!」


 白ミサがシズムの肩に手を置き、部員に合格の報告をした。



「「「「おぉぉぉ!」」」」パチパチパチパチ


 

 部員たちは素直に喜んだ。


「おめでとう! シズムン!」 

「スゴいね! 芸能人だよ?」


 部員たちが次々に賛辞を贈る。


「いやぁ、実感、湧かないなぁ」


 シズムは照れながら後頭部を搔く仕草をした。

 

「何かシズムン、静流様みたい。可愛いぃ♡」

「うんうん、雰囲気そっくりぃ♡」


 元々のベースが静流なのだから、似るのも当然である。


「で? 部長たちはどうなんです? 結果」

「ま、まぁな。受かってると思うぞ? 多分?」


 黒ミサの歯切れの悪い返答に、部員たちは顔を見合わせた。


「まさか……バッドなニュースって?」

「うっそぉ……」

「違う違う! 結果はまだ出ておらんが、問題無かろう! これで落ちたら静流様を、もといシズムンを口説き落とした事が、全て無駄になってしまうではないか!」


 黒ミサは、慌てて部員たちを落ち着かせた。


「黒、落ち着いて。どうどう」

「す、済まん白。取り乱した」


 黒ミサは、白ミサになだめられ、落ち着きを取り戻した。


「部長? ではバッドなニュースとは、どのようなものなのでしょうか?」


 部員は、不安げな面持ちで黒ミサに聞いた。


「コホン、よく聞け。この度、シズムンをミフネに勧誘する際、静流様からある条件を言い渡された。それは……」


 部員全員が、黒ミサの次の言葉を固唾を呑んで聞いている。



「我が『黒魔術研究会』は、『静流派』と合併する事となった」



「「「「「ななな、何ですってぇぇぇぇ!?」」」」」



「今更『静流派』に?」ざわ……

「私たちは、あの組織を飛び出して行った立場ですよ?」ざわ……


 部員たちの困惑度は、いまやピークに達している。


「動揺するのも無理は無い。私共は、あ奴らのやり方に賛同できずに、離脱した身である事は事実。しかし、静流様は仰った。『二極化はやがて荒廃を招く』とな」


 実際に静流がそう言ったかは不明であるが。


「要するに、生産性の『黒魔』に機動力の『静流派』、この両極を融合する事で、『あの方』の為により一層貢献出来る事となるでしょう!」


 白ミサがそう言うと、部員たちから感嘆の声が上がった。 


「おぉ、何と崇高な思想だろう」

「しかし、可能なのだろうか……『覆水盆に返らず』とはこの事なのでは?」ざわ……


 一度は高まったテンションだが、一人が不安な事をつぶやくと、すぐさま下降していくテンション。すると、


「みんなは静流クンを悲しませたくないよね? だったら答えはひとつ! 一緒にがんばろー!」



「「「「う、うおおぉぉー!!」」」」


 

 シズムが部員たちを鼓舞してくれた為、部員たちのテンションは持ち直した。


「シズムン……また助けられたな。キミに」


 白黒ミサは、見つめ合い、頷いた。


「合併に伴い、部名を一新する事となった。その名称を公募するので、皆のネーミングセンスを借りたい」

「そんな、唐突に……」


 部員たちはそれぞれ顔を見合わせ、首を傾げている。


「期限はそれほどないぞ。わかったな?」


「「「「「御意!」」」」」





              ◆ ◆ ◆ ◆




五十嵐家―― 夕方


 学校から帰宅した静流は、いつも通りベッドで寝転がり、マンガを読んでいた。

 最近の関心事は、もっぱら『化装術』であり、今も頭の隅に引っかかっている。


「よし、ブラムと念話してみるか」


 ブラムとは主従契約にあるので、勾玉なしでも遠距離念話が可能である。


〔ブラム! 応答せよ!〕

〔あ、シズル様からだ。ハーイ、感度良好ですヨ♪〕

〔今、何処にいるの?〕

〔只今ゲボコンドルと戦闘中。カオル様も一緒だよ?〕

〔ダンジョンにいるのか? 大丈夫なんだろうね?〕

〔問題ナッシング、っと危ない〕

〔お取込み中なら後にするよ?〕

〔心配してくれたの? ちょっと嬉しいかも♪ どっせい! はい終わりっ〕

〔やっつけたの? ブラム?〕

〔こんなザコ、片手間でも倒せるゼ!〕


 どうもダンジョン攻略中のようだ。


〔薫さんは元気なの?〕

〔元気なんてもんじゃないよ、ウチも相手したくないもん〕

〔そっか。良かった〕

〔今も、『無駄口叩くな!』って言ってる。ドラゴン使い、荒いよね……〕

〔オシリスもかなりこき使われたらしいよ。引き受けたからには、ちゃんと薫さんのサポートするんだよ?〕

〔モチロン。楽しみにしててね? シズル様♪〕

〔ああ、土産話ね。わかった。そう言えば、さっき見たよ。『流天五十嵐流』〕

〔見たの? いやぁん、恥ずかしい。甘ぁい誘惑につい釣られちゃたの〕

〔またお菓子か? 結構ノリノリでやってる様に見えたけど?〕

〔そう? 新しい才能に気付いちゃったかもね♪〕


 静流は本題に入った。


〔ちょっと聞きたいんだけど、ブラムの変身魔法は『化装術』なの?〕

〔『化装術』? ああ、ケモミミちゃんたちが使う技か。うん。ほとんど同じかな?〕

〔僕がそれっぽい事が出来るのって、ブラムと契約してるせいなの?〕

〔可能性はあるね。へえー。変身出来る様になったんだ。スゴい成長だね、シズル様♪〕

〔よくわからないんだけど、光学迷彩を展開している間、それに変身してるみたい〕

〔そんなの、もう取得してるレベルじゃん。やったね〕

〔そうかな? 道具に頼らないで出来るようになるには、何が必要?〕

〔経験値と、魔力量だろうね。あと、強いイメージ力が必要かな?〕

〔そうか。貴重な情報ありがとう〕

〔う、マズ。じゃあね、何事も修行ですゾ? ますたー?〕


 ブラムが薫にどやされたらしく、早々に念話を終わらせた静流。


「ふぅ。でも、どうやって修行するんだ? 経験値って?」


 静流の頭上に『???』の文字がくるくる回っている。


「ま、焦る事無いか。そのうち機会が来るだろう」


 静流は、いつもの調子で問題を後回しにし、悩む事を止めた。

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