エピソード41-2

生徒会室――


 静流は、真琴・シズムに加え、白黒ミサを連れ生徒会室を訪れた。


 コンコン「失礼します!」ガラッ


 扉を開けると、睦美と楓花が何やら打合せをしていた。

 意外にも沖田の顔もある。


「あら静流キュン、御機嫌よう♡」

「やあ静流キュンに、おや、面白いメンツだね?」

「すいません、何かやってました?」

「イイのよ静流キュン、ちょっと次の生徒会役員の選出を、ね♪」

「それ結構重大なやつでしょう? 後にしましょうか?」

「問題無いよ。なあ、沖田?」

「ああ。ところで久しいな、白井ミサに黒瀬ミサか……」

「う、沖田、貴様いつから生徒会に接触している!?」

「日和見主義の貴様が、何故!?」


 この場に沖田がいる事が、白黒ミサには予想外であった。


「なぁに。ちょっとした気まぐれだ。気にするな」

「あ、先生! こんにちは!」

「し、静流殿。バイタルは安定している様だな。くふぅ」


 静流が沖田に向かって気さくに挨拶をしているのを、白黒ミサは、苦虫を噛み潰したような顔をした。


「で、何だね? 要件は」


 静流は、先ほどの経緯を睦美に説明した。


「その件なら、静流キュン次第と回答したはずだが?」

「僕の一存じゃ決められませんよ! 知恵を貸してください!」

「で、当の本人は何て言ってるんだい?」

「う、うーん……」


 睦美はニヤリと皮肉交じりの笑みを浮かべた。


「先輩、ちょっとコッチ来てください」

「な、何だい? 緊張するな」

「イイですから」


 静流は睦美を生徒会室の端っこに連れて行った。


(睦美先輩、忘れてないですよね? シズムは『本』だって事)コソ

(勿論。何か問題でも?)コソ

(大アリですよ。ミサ先輩たちに、事情を説明した方が良くないですか?)コソ

(まあ待ちたまえ、それはいずれ分かる事だ)コソコソ

(もう、知りませんよ?)コソコソ


「静流様と何をやってるんだ? 書記長?」


 黒ミサが怪訝な顔で睦美に声を掛けた。


「ああ済まない。ちょっとね、静流キュンと内緒話をしていたんでね」

「そんなもん、見てりゃあわかる!」

「そうカリカリするなよ、短気は損気って言うだろう?」


 睦美は席に着き、例のポーズで静流に聞いた。


「ふむ。で、静流キュン的にはどう思ってるんだい?」

「お二人の進路がかかってる、とか言われちゃうと、僕も無下に出来ないですよ」

「何とお優しい。教悦至極にございます」

「そうゆうの、イイですから」


 いちいち纏わりついて来る二人が、少しうっとうしく感じている静流。


「でも、シズムには芸能活動とかは無理だと思いますよ?」

「そうかな? 歌やら演技等は、学習させればそこそこは出来るのでは?」

「確かに出来るとは思いますけど、臨機応変に対応出来るかどうか不安です」


 静流と睦美が話している内容に、白黒ミサは怪訝な顔をした。


「お言葉ですが、シズムンをモノ扱いしていらっしゃるのは、静流様たちでは?」


 白黒ミサたちに、じぃーっと見られている静流と睦美。

 ミサたちは、シズムが『聖遺物』である事を知らない。


「ぼ、僕は、この子の『保護者』みたいなものですから、親心みたいなもんですよ」

「それならば、あえて言いましょう。『カワイイ子には、旅をさせろ』と」


 フン、と胸を張っている白黒ミサ。


「フ、笑わせる。まぁ、芸能界なんぞは、媚びる所から始めるものだからな」

「何が言いたい、 沖田!」

「おい黒、静流様の御前だ、控えろ!」


 『静流派』と『黒魔』は、かつては同じ組織であった事は、忍から聞いている。

 先ほどから両者での火花散る攻防に、静流は顎に手をやり、考え込む。


「どうしたんだい? 静流キュン?」


 睦美が心配そうに静流を見て言った。


「ええ。ちょっと思う所がありましてね。よし、決めた」


 静流は大きく頷き、ゆっくりと口を開いた。


「活動は、学校行事が優先ですよ?」

「勿論です。学生である内は、学業優先がマストです」

「という事は、レア出勤みたいな扱いになりますけど、そんなので成り立ちますか?」

「問題ありません! オールグリーンです!」

「わかりました。 シズムを貸しましょう」

「本当ですか? あり難き幸せです、静流様!」


 二人のミサの目が、ウルウルしている。

 手を取り合い、喜びをかみしめている。すると、


「ただし、条件があります!」ビシッ


 静流は二人のミサに指を指し、『異議あり!』のポーズを取った。


「な、何なりと、お申し付け下さい」


 身構える白黒ミサは、ゴクリと唾を飲み込んだ。



「『静流派』と『黒魔』を合併する事! それが僕の条件です!」



「「「「何ですとぉ!?」」」」



 一同が静流に注目した。


「ち、ちょっと静流、一度分裂した組織よ? それは難しいんじゃないかしら?」

「止めるな真琴、僕はね、自分の知らない所で二つのグループがいがみ合っているのは、納得いかないんだ!」


 静流の爆弾発言に、睦美は驚きながらも嬉しそうな顔をした。


「何とまぁ、どうしたもんかね? 沖田先生?」

「ふむ。お前たちも元々はウチの者だ。私は構わんよ? 静流殿のたっての希望とあらば、な」

「忍お姉様も、そう願っておられるだろうからな」


 忍、と聞いて黒ミサの眉毛がピクッと動いた。


「書記長? アノ方が、なぜ話題に?」

「近々戻って来られるのだよ。お師さんがな」

「何と!? お師様はご無事でいらしたのか? 沖田?」

「ああ。先日お会いした。相変わらず掴みどころのない方だったよ」


 少しの沈黙があり、ミサたちはお互いの顔を見て、頷いた。


「わかりました。そう言う事でしたら、要求を飲みましょう」

「わかってくれましたか。良かったぁ!」ニパァ



「「「「ぱっふぅぅぅん」」」」  



 一同は、今日イチのニパを食らい、大きくのけ反った。


「ま、まぶしい」

「むふぅ、たまらないわぁ♡」

「ぬふぅ、私たちは、このニパの為に生きているのだな……」

「はふぅ、洗練された良いニパだった……」


 それぞれがニパの感想を述べた。そのあと睦美が口を挟んだ。


「提案なのだが、どちらかに合流するとなると、つまらないイザコザになるであろう?」

「うむ。始めは仕方のない事だ」

「そこでだ、名称を新たに考えてはどうだろう?」

「それはイイ。残された者たちに、遺恨を残さぬ為にも、な」

「わかった。お互いに案を出し合う事としよう」


 白黒ミサと沖田は、先ほどよりは落ち着いて意見を述べ合っていた。





              ◆ ◆ ◆ ◆





 二つの組織を統合する条件で、シズムを貸す事にした静流。


「つきましては、最終オーディションが土曜日にあるのですが」

「土曜日? あと3日じゃないですか? 準備が間に合うかな?」

「シズムンは、着の身着のままでイイと思いますよ」

「オーディションですよ? 試験なんですよね? その場で何かしたりとか無いんですか?」

「御心配であれば、同行されますか? 静流様?」

 

 急に風向きが静流に向かい出した。


「実は、オーディション会場内で、『無免ライダー・レジェンド』の撮影があるんですよねぇ?」

「何だって!? あの歴代ライダーが勢ぞろいするっていう?」

「ええ。静流様、お好きでしょう? 関係者権限で観覧できますよ?」


 静流は、緩んだ顔を悟られないようにしているつもりだが、下心見え見えだった。


「し、しょうがないな。シズムが心配だ。僕も付いて行くよ」


 白黒ミサの術中にハマる静流。

 静流の死角になる所で、ニィと笑い合う二人のミサであった。

 不穏な気配を感じ、睦美は白黒ミサに言った。


「お前たちは、何を企んでいるのだ?」

「いや別に、何も?」

「これ以上、静流キュンに面倒な事を押し付けるんじゃないぞ!」

「言われなくとも、そのつもりだ」

「フ、どうだかな」

「む、沖田! 何が言いたい!」

「いや別に?」

「これ! お前たち!……ふう、やれやれだな」


 睦美は、深くため息をついた。

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