エピソード40-18

生徒会室――


 睦美は、軍事衛星を使った首脳会議の真っ最中である。

 国尼メンバーは静流を除いた、睦美、真琴と、技術担当にカナメ。

 アスガルド組は、アマンダとリリィ、薄木組は郁と澪だった。

 さらに今回の騒ぎの原因となった、太刀川組のジェニーとルリが参加している。


「そこで、皆さんにご相談があるのですが……」


〈何じゃ、言うてみぃ〉

〔お金の匂いがするわね? 言ってみなよ〕


 睦美はコホンと咳ばらいをして、話し始めた。


「例えば小規模ながら実際にPMCを立ち上げ、シズルーを社員にします。そして実際に軍と契約し、仕事をこなす、と言うのはどうかと」

〔書記長さん、随分大胆な策を企てるのね? 確かにPMCに依頼する案件も、全く無いわけじゃない〕

「つまり、『条件が揃えば』シズルーを派遣しても構わない、という位置付けです」

〔こりゃまた大風呂敷を広げたもんだ。アナタって、やっぱ策士よねぇ?〕

「またまたぁ、リリィさんには敵いませんよ」


 何やら探り合っている睦美とリリィ。

 先日静流に紹介された際に、連絡先を交換していたようで、もう何回かやり取りしているらしい。


〔そうしてもらえると、こちら側としてはオフィシャルに、堂々と静流クンを軍にエスコート出来るというメリットがあるわね〕

〔その時は、ウチはお得意さんなんだから、負けてちょうだいよね?〕

「それはもう。勉強させてもらいます」


 軍側の反応は上々だった。すると澪が手を挙げた。


〈睦美さん? 概ね賛成ですけど、静流クンの場合、学業が当然優先なんですよね?〉

「勿論です。彼だってそれを望んでいますので」

〈でも、本当にPMCなんか立ち上げたら、その内そっちが忙しくなって、結果的に留年、なんて事にならないかしら?〉

「お気遣い感謝します。ただ、それについての対策は幾つか用意してありますので、ご心配無く」

〈どんな対策なの?〉

「まだ内緒ですが、あの学校の態勢をかなりイジる事になるかと」

〔そんな大掛かりな事を企んでいるの?〕

「まあ、他でもない静流キュンの為、ですからね」

〈ふぅーん……〉


 睦美の自信たっぷりの振る舞いに、半信半疑の澪。 

 すると澪は、手をポンと打ち、何かひらめいたようだ。


〈そうか! 簡単に依頼しずらくすればイイんじゃないかな?〉

「具体的に、お願いします。澪さん」

〈例えば……そうね、 そのPMCの社長に、スゴい人を据えるの。軍のトップたちが躊躇してしまう程の〉

「なるほど。一考の価値はありそうですね」


 睦美は顎に手をやった。


〔ナイスなアイデアじゃないさ澪! やっぱ静流クンの為?〕

〈リリィ先輩、からかわないで下さい! そりゃあ、勿論静流クンの為、ですけど〉


 リリィはマス目に向かって「このぉ」と肘で澪をつつく仕草をしている。


〔少佐殿、本気で立ち上げます? PMC〕

〔ふむ。面白そうね。それ〕

〔で? 誰にします? 社長は?〕

〔掛け持ちは出来ないから現役どもはダメか。そうね、元軍人とか、退役軍人とかじゃないと……」

〈抑止力になるような、現役を黙らせる程の人物……〉



〈〔〔あっ!!〕〕〉



 三人は同時にポンと手を打った。


〔いるじゃないさ、超大物が♪〕

〈いわゆる、灯台下暗し、ですか〉

〔早速交渉の準備よ!〕




              ◆ ◆ ◆ ◆




五十嵐家 静流の部屋―― 


 首脳会談を終えた真琴は、少し睦美と打合せをした後、帰宅した。

 部屋に戻り、着替えるとすぐに静流の部屋を目指す。

 外から部屋を覗くと、静流はベッドに寝そべり、マンガを読んでいて、その横でオシリスが丸くなっていた。


「オシリス、会議の結果、どうなったかなぁ?」

「知らないわよ。第一、やるかどうかは静流、アンタ次第でしょ?」

「確かに。ただ出席日数がネックだな」

「留学期間は免除でしょ? アレも学校行事だったんだから」

「それはね。今後の事だよ、今心配してるのは」


 真琴は、「今だ!」とばかりに窓を開けた。ガラッ


「とおっ!フェアリー真琴、只今参上!」スタッ


 奇妙なポーズを取っている真琴に、静流は真顔で言った。


「お帰り真琴。進展は?」

「はぁ!? 渾身のボケはスルーですか?」


 今一つウケなかった真琴は、静流のベッドにちょこんと座った。


「そう言うのイイから。で、どうだった?」


 ベッドに座った真琴に向かって、静流は身を乗り出した。


「ち、近い、わかったから今説明するって……もう」


 真琴は一度深く息を吸って、自分を落ち着かせた。


「まだ本決まりではないんだけど、技術少佐がメインで、あるプロジェクトを立ち上げる事になりそうなの」

「プロジェクト? 何だいそりゃあ?」

「静流が『やってもイイ』と思うものだけ、軍のオファーを受ける事が出来る仕組みよ?」

「そんな『イイとこ取り』なんて、上手くいくかなぁ? まるで冒険者ギルドのクエスト発注みたいじゃないか?」


 二人が話している時、突然念話が割り込んで来た。


〔そう。まさにそれだよ、静流キュン〕

〔睦美先輩?〕

〔やあ静流キュン。概ね真琴クンが説明した通りだよ〕

〔つまり、僕の意思が反映される、という事ですか?〕

〔そう言う事。軍は予想以上に動いてくれた。どうやら私たちの取り越し苦労だったようだ〕

〔へぇ。アマンダさんやイク姉がね。ゴネて見るもんだな〕

〔という事だから、あとは軍と私に任せてくれたまえ。進展があったら、随時報告するよ〕

〔わかりました。少し安心しました〕

〔ところであの技術少佐、相当な策士だぞ? 野心家だしね〕

〔先輩よりも?〕

〔フッ、そうだな。悔しいが、向こうの方が一枚上手だね。今の所は〕


 念話が終わり、静流は軽く伸びをした。


「ふう。良かった。真琴もお疲れだったな」

「口だけじゃなくて、ご褒美に、何かして頂戴」


 真琴は、珍しくご褒美をおねだりした。


「もう、しょうがないな。はい」シュン


 静流は腕の操作パネルをいじり、以前やった牛の着ぐるみ姿になった。


「きゃあ! これ好きなのぉ♡」

「ほら、こっち来いよ」


 大きく手を広げ、ウェルカムポーズをとる。


「い、イイの? じゃあ、お言葉に甘えて。うわぁーい♡」


 着ぐるみの静流に抱き付いた真琴は、そのままの勢いで静流を押し倒した。

 静流の胸元に顔をうずめる真琴は、頬が次第に赤くなっていく。


「はぅぅ。気持ちイイ」

「おい、あんまりスリスリするなよ。くすぐったいじゃないか」


 しばらくモフモフ感を味わっていると、いきなりドアが開く。バァン!


「しず兄! ちょっとお使いって、うわっ! 真琴ちゃん!?」

「はひぃ、幸せ~」


 美千留が見たのは、静流に覆いかぶさり、顔がとろけそうになっている真琴だった。


「もう! 真琴ちゃんばっかズルいぃー!」

「お前も好きだったな、コレ」

「むはぁ、でもスゴいね静流ぅ。光学迷彩なのに、質感も本物そっくり……んふぅ」

「ま、なぁな。修行の成果? みたいな?」


 静流は改めて自分が『化装術』とやらを使っている事を実感した。

 美千留はシビれを切らし、静流の胸に飛び込んだ。


「私にもイチャコラさせろ! とおっ!」

「おい! ベッドが壊れるだろ? 全く、お前たちは……」


 美千留を撫でてやると、猫のように目を細め、うっとりしている。


「はひぃ、こりゃたまらん。ゴロゴロ」


 水面下では、とんでもない計画が進行中である事とはつゆ知らず、五十嵐家は束の間の平穏を取り戻したのだった。

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