エピソード39-3

流刑ドーム―― 薫子の部屋


「聞いちゃったぁ、聞いちゃったぁ♪」


 薫子は、後輩たちにもらったアカウントを使い、静流の『完全密着ライブ中継』を初めて見ていた。


「スゴいわね、さっき見始めたら、もうこんな情報が入って来るなんて」


 そう呟いたと同時に、部屋のドアが乱暴に開いた。バァン!


「薫子、土曜日に静流が……見てたのね」

「当然よ。ちょっと忍、いきなり入って来ないで頂戴!」


 忍が薫子の部屋を見渡す。


「う、コレ、どうやって手に入れたの!?」

「ちょっとした伝手よ。いいでしょう? ムフゥ、静流なら無加工でも遜色ないのに」


 忍が指差しているA4の写真立てには、例の隊員募集のポスターが入っている。

 恐らくブラム辺りを使って、軍から仕入れたのであろう。


「何で静流が軍のポスターに?」

「あの子が軍の広報に頼まれたって言う事みたいよ。まだどこにも出回ってないの。ムフゥ」

「くっ! 不覚だわ」

「アナタだって、あのタペストリーはどうやって手に入れたのよ?」

「見たな? アレは『黒魔』からもらった販促用。当然非売品。ヌフゥ」


 このあと、静流グッズの自慢話で盛り上がった。


「で、どうするのよ? 忍は?」

「当然行く。偶然を装って」

「そうか。学校じゃないから、偶然バッタリもOKよね?」


「「ぬふふふ」」


 二人が珍しく意気投合している。


「ねえ、アノ恋愛シュミレーションに、静流がいたんだけど?」

「ああ、アレ? 静流出すの大変だったでしょう?」


 以前、『塔』でリナがプレイしていた恋愛ゲームの事である。


「その辺はリナがやってた。誘うのに失敗して、その後出なくなった」

「愛が足りないのよ、リナやアナタじゃ、ね」

「ぐぬぬ、そう言う薫子は、上手くいったの?」

「そりゃもう、って言いたいんだけど、ダメだったわ」

「何が正解なの? やっぱ『力仕事』?」

「あ、違うの。鉄板の選択肢が1個増えるって。鉄板のセリフは文字がピンク色らしいのよ」

「え!? 私の時は、全部白だった」

「開発者のブログにあったわ。見れたら超レアだってね」





              ◆ ◆ ◆ ◆




ワタルの塔 二階――


 薫子と忍は、そのあと塔に寄った。


「リナに数十回トライさせてもダメだった」

「多分あそこの分岐から静流ルートがあるのよ」


 娯楽室には、日中をほとんどココで過ごすリナと、珍しや雪乃の姿があった。


「おう、遅かったな」

「アナタたちに声を掛けたのですけど、何やらPCにかじりついていたので」


 画面にはスタッフロールが表示されていて、エンディングテーマらしきものが流れている。


「ち、ちょっと待ってリナ、アンタまさか……」

「ああ、今さっき終わったぜ。『静坊のルート』」グッ!


 リナはドヤ顔で親指を立てた。


「「何ィィ!?」」


 二人は驚愕した。


「何で呼んでくれなかったの?」

「あ? だからヅラに部屋を覗いて来いって言っといたんだぞ?」

「アナタたちがあまりにも熱心に何かしてるから、邪魔しちゃ悪いかしら、って」


 スタッフロールが終わり、『制作 桃魔術研究会』と表示される。


「まさかこのソフト、『黒魔』が作ったの? 『桃魔術』って?」

「そうよ。後輩ちゃんから入手したの」

「学生なのによくできてたわ。メジャーで売るならもっと手を加えないとダメですけど」

「お、まだ残りがあるみたいだぜ?」


 リナがそう言うと、薫子と忍はガバっと画面の前に正座した。



 ……朝、小鳥のさえずりで起きる静流。


 「う、う~ん。おはよう、〇〇〇」


 ベッドで隣に寝ていた静流が、プレイヤーの方を向き、そうささやく。


 「素敵な夜をありがとう。僕にとって、一生忘れられない夜になったよ」


 そう言うと静流は、プレイヤーに近付き、目を閉じた。




  FIN




 イイ所で画面が真っ黒になり、今度こそ終わった。


「うわぁぁん! 静流ぅぅぅ!」

「誰かのモノになってしまったの!? 誰!?」


 二人は頭を抱えて、悶え苦しんでいる。


「たかがゲームじゃないの。そんなに悔しがる事無いでしょうに」

「おい、ズラ、ここまで大変だったんだぞ? 少しは労えっての」


 雪乃の言い草に、リナは少しキレた。


「私の指示通りやったお陰で、無事にエンディングまで見られたんですから、感謝してもらいたい位ですわ」フン


 雪乃は髪をファサッと後ろに流し、若干ドヤ顔でそう言った。


「雪乃、アナタが指示したの?」

「ええ。大体このプログラムですと、静流さんの攻略は不可能よ」

「何ですって? それでどうやったらエンディングまでこぎ付けられるの?」

「あ? ああ、アタイが58回目でやっとこさ静坊を出して、そのあとの選択はヅラにまかせっきりだったな」

「増えたセリフ、何色だった?」

「そうなんだよ、コイツの指示通りやると、選択肢が1個増えるんだ」

「で、何色だったの?」

「紫? だったな」

「へ? ピンクじゃないの?」

「確かにピンクもあったな。けど選択は常に紫だった」

「雪乃? さてはアンタ、いじったわね?」

「少しよ。大体、製作者サイドだけで楽しもうっていうのが気に入らなくて。少し改変しましたわ」


 雪乃はゲームのプログラムに若干手を加えていたようだ。


「電子戦の初歩よ。このくらい、淑女のたしなみですわ」

「ははぁ。御見それしやしたぁ」


 フン、とドヤ顔の雪乃に、リナがわざとらしく頭を下げた。


「で、どうだったの? 静流とは、シたの?」

「それがよぉ、もう少しって所で『検閲』の字が肝心な所にな。セリフも真っ黒になるし」

「学生なんですから、当然でしょう?」

「検閲って、確か生徒会がやってたわよね?」

「って事は、もしや……睦美め」


 睦美のニヤついた顔を想像し、薫子は憤慨した。


「雪乃様、何とかして下さいましまし」


 忍が慣れないお嬢様言葉を使った。


「お止めなさい忍、気持ち悪いですわ」

「お願ぁい、雪乃様ぁ」


 薫子までが雪乃にすがり付き、懇願する。


「んもう、仕方ないですわね。ちょっと待ちなさい………これで良し、と」


 あまりにしつこいので、雪乃は根負けしてソフトの内部を改変させた。

 ゲーム機ハードに魔力を流し、ものの数分で終わったようだ。



「むほぉ、丸見えじゃんか」

「うわ。あの子たちったら、マセガキどころじゃ済まないわね」

「下品ね。ムードもへったくれもあったもんじゃない。検閲が入るのも当然ですわ」

「スキャンしといて。睡眠カプセルに入れるから」



 四人は文句を言いながらも、他のエロシーンを余すところなく全て鑑賞した。

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