エピソード31-9

 静流は、アスガルド駐屯地の次に、流刑ドーム、薄木基地、そして五十嵐家との【ゲート】を構築した。


「ふう。これでとりあえず終わりか」 

「お疲れ様、静流クン」

「ありがとう、ミオ姉」


 澪は静流に飲み物を渡した。


「とりあえず解散します。今後の調査等のスケジュールは後日発表します!」

「了解!」


 コキュートス調査班のミッションはとりあえず完了した。 


「私たちは帰って早速今後の対策を考えましょう。中尉?、報告書の作成、お願いしますね?」

「わかっておるわ」


 アスガルド組はとりあえず駐屯地に戻るようだ。


「活動拠点として、インベントリ内の仮設宿舎は建造するからね?」

「はい、お願いします」


 今後の対応は少佐を始め、各司令を含めた特別チームを編成し、あらゆる角度から検証を重ねる事になっている。

 無論、『元老院』対策も含めてである。


「じゃあね。静流クン、また来るわ」

「静流クン、こっちにも来てよね?」

「儲け話、期待してるわよん」


 三人は投げキッスをして穴に入って行った。

 続いて流刑ドーム組が帰るようだ。


「俺たちも巣に戻るか?」

「そうだな兄貴、聞かせてくれよ、今日の事」

「退屈でしたのよ? わたくしたちは」

「先に行ってて頂戴、あとで薫子と戻るから」

「じゃあな、静流」

「またね、薫さん」


 次に薄木組が帰る準備をしている。


「おい澪、忘れ物は無いか?」

「大丈夫だと思います、隊長」


「静流様、夏休みの間、ココはクローズ、でありますか?」

「え? そんな事無いと思いますよ。多分」

「何をぬかしてる、管理者はお前、だろ?」

「へ? そうなんですか?」

「当り前だ! で、どうなんだ?」

「ココって、そんなに面白いですか?」

「面白いわよ! それに、ここを使えばいつでも静流クンに会いに行けるんでしょ?」


「ま、まあそうだけど、仕事あるでしょ、ミオ姉?」

「心配ないわよ。私たちにだってあるんだから、夏休み」

「夏休みの予定、あとでメール、しますね? 静流様」ポォォ

「萌さん、わかりました」

「ではな! 静流」


 残りは静流、ロディ、ブラムの他、モモ、薫子、忍であった。


「急に静かになって、少し寂しくなったな」

「静流、あなたには本当に感謝してるのよ」

「伯母さん、もうイイから、そう言うの」


 静流は頭を掻き、照れ笑いを浮かべる。


「じゃあ、私たちも戻ろうかしら」

「ここのセキュリティは問題無いの? ブラム」

「大丈夫。管理室が完全に起動してるから」


「私は、帰りたく、ない」

「忍? 何言ってるの?」

「私は、静流と一緒にいたいの」

「わがまま言わないでよ! 私だって、静流と一緒にいたいのに」

「ちょっとアナタたち、静流が困ってるじゃない!」

「わかった。静流を困らせたくないから、帰る」


「すいません、何て言ってイイのか、わからないんですが」

「じゃあ、一つお願い聞いて?」

「何ですか? 忍さん?」


「私を、『忍ちゃん』と呼んで!」


「な、何言ってるの忍! ちゃん付けって……」

「無理なら呼び捨てでイイ」

「そっちの方がハードル高いよ!」

「じゃあ、呼んで?」

「わかったよ、忍ちゃん?」

「それでイイ、静流」ヒシッ


 忍はすかさず静流を抱きしめた。


「あん、もう。私が先に抱き付こうとしてたのにぃ」

「お姉様、泊まりとかじゃなくて、遊びに来てくれると、うれしいな。睦美先輩も会いたがってたし」

「もちろん行くわ。来るなって言われても行くわよ?」

「フフ。楽しみにしてるよ。忍、ちゃんも」

「嬉しい。必ず行く」





              ◆ ◆ ◆ ◆





「じゃあ僕たちも帰ろう」

「シズル様の家に行くんだね」ワクワク

「いきなりその恰好だと、母さんと美千留がびっくりしちゃうかなぁ?」

「じゃあ 女の子タイプにする?」

「余計びっくりされちゃうな……」


 ブラムをどう紹介したものかと悩む静流。


「イイじゃないそのままで。長い付き合いになるんだから」

「そっか。別に隠す事無いもんな。堂々と紹介しよう」


 オシリスにそう言われ、吹っ切れたようだ。


「じゃあ、行くよ?」

「うん」


 着いた先は静流の部屋だった。静流のベッドに誰かが寝ているようだ。


「おのれ! 何奴」ババッ


 勢いよくタオルケットをはぎ取ると、美千留が寝ていた。


「うにゃ? しず兄、おかえり」

「美千留? 何で僕のベッドで寝てるの?」

「ふぁぁ、しず兄待ってたら寝ちゃった」

「しょうがないな、さ、とっとと起きた。まだ夕方だし、寝るには早いでしょ?」

「ん? あれ? 一人多いな」

「紹介するよ。僕の新しいしもべ、ブラムだ」

「キミが美千留ちゃんだね。ウチはセクシーブラックドラゴンのブラムちゃんでーっす!」


 可能な限り素の格好をさせたブラムを、美千留は目を細くしながら舐めるように見た。


「しず兄、またわけのわからない女の子連れ込んで、スケベ」

「し、心外だなぁ、この子は僕の従者。そう言うのじゃないの!」

「でもぉシズル様ぁ、従者ならそう言う事もしてイイんだよ? ウフゥ」


 ブラムは静流の首に手を回し、しなだれかかる。


「ダメ、離れて」

「ウチ、シズル様のいう事しか聞かないもん」

「こら、だめでしょ? そう言う事言うんだったら、インベントリに入ってもらうよ?」

「う、それは勘弁してなの。ちょっと調子に乗り過ぎたの」シュン


 静流に叱られ、小さくなっているブラム


「ここに住むからには、僕以外の母さんとか美千留のいう事だって、ある程度聞いてもらわないと」

「わかった。よろしく美千留ちゃん」パァ


 静流の部屋がうるさいので、ミミが様子を見に来た。


「何事? 静流? 帰って来たの?」

「母さん、あのさぁ」

「ほんとだ、モモにそっくり!」

「どなた? そちらの方」

「説明するから、下に行こう」




              ◆ ◆ ◆ ◆




 静流は、家を出てから今までの出来事をかいつまんで説明した。

 美千留は満足したのか、奥で寝っ転がりテレビを見ている。


「そう。モモや薫クンは元気だったのね?」

「うん。あと薫子お姉様も、いろいろあったけど、もう大丈夫だよ」

「で、薫子ちゃんは、あなたの子なの? ブラムさん?」

「そうみたい。ウチ、寝てたからよくわかんないけど」

「髪の色が桃色って事は、お父さんか庵クンよね? 父親」

「うん。多分」

「あの野郎、浮気しやがったな!」ゴゴゴゴ


 ミミが持っていた湯呑にヒビが入った。


「ウチの記憶が無いって事は、タマゴに何かしたのかもね。安心して、変なコトはしてないと思うから」

「そんなの、記憶をいじられたらわからないじゃない!あなたの記憶、覗かして?」

「イイけど、耐えられるかな? 二千年分くらいあるから」

「さ、さすがに二千年分は無理ね。恐るべし伝説級ドラゴン」

「ちょっと、落ち着いて。どうどう。詳細がよくわからないんだ、浮気って決めつけるのはどうかな?」


 ミミが発狂しそうになっているので、静流はあわててなだめた。


「それで? その星にお父さんの拳銃があったの?」

「うん。墜落した宇宙船の近くで見つけた」

「あいつめ、どこで何してるんだか……」ブツブツ


「そのうち宇宙船の調査するって言うから、僕も参加するよ」

「それで? モモたちはどうするのよ?」

「伯母さんはちょっと考えさせてって言ってたよ」

「全く、水臭いわね」

「あまり目立ちたくないんだよ。『元老院』の件で」

「やっぱりあの組織が絡んでいたのね? 厄介だわ」

「その辺の対策は、軍の信用の置けるひとたちに考えてもらってる」


「静流、あんたは大丈夫なの?」

「ん? 何が?」

「これからは、ただの高校生じゃ済まなくなるかも知れないのよ?」

「そりゃあ、不安じゃないって言うと嘘になるかな」


 今でも十分ただの高校生ではない、と思うが。

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