エピソード30-5

流刑の街―― 廃墟マンション


 シズルカに変身した静流は、【メテオ・ブリージング】により、ブラムから【隷属】の呪縛を解くことに成功した。


「静流、ブラムを起こしてみなさい」

「わかった。ブラム、起きて」


 変身を解いた静流は、ブラムを起こした。


「う、う~ん。もう食べられないよう」


 ブラムはテンプレ的な寝言を言った。


「は! ましゅたー、ご用は何?」


 パチと目が開き、瞬時に半身を起こしたブラム。


「気分はどうかな? ブラム」

「ふぁぁ。良く寝た」

「さっきのロボみたいな対応じゃなくなってる。成功なのかな?」

「ましゅたー、お腹、空いた」


 ブラムはお腹をさすり、空腹を訴えた。


「もう大丈夫そうね。主従契約も問題無いみたい」

「むこうで御飯、食べる?」

「うん。食べる」パァァ

「う、か、カワイイ」


 静流は目の前にいる伝説級ドラゴンを、迂闊にも可愛いと思ってしまった。

 ブラムは、夕食の残りをがつがつと食べ、空になった皿が次第に積み上がっていく。


「おい、どんだけ食うんだ? コイツ」

「かなり食費がかさみそうね?」


 薫と雪乃は、動物園の飼育係のような心配をしている。


「もしかして【隷属】、解除しなかった方が良かったんじゃない?」

「う~ん、ちょっとヤバいかも」


 静流は、澪にそう言われ、戸惑いを隠せない。 




              ◆ ◆ ◆ ◆



「ふう。ごちそうさま!」

「お、終わったみてえだぞ」


 パンパンのお腹をさすり、満足感に浸っているブラム。


「ブラムちゃん、アンタ、そんなに大食漢だった?」

「え? うわぁ、ウチ、こんなに食べたの?」 


 自分の両側にうず高く積まれた皿を見て、ブラムは驚いている。


「自覚、無いわけ?」

「ちがうよぉ、だって、久しぶりのごはんだよ? お腹いっぱい食べたの、いつ頃だったかなぁ?」

「そうか、この子、ずうっと寝かされてたんだっけ?」

「そうだよぅ、前に起きた時だって、美味しくないごはん、ちょっとしかくれなかったし」

「60年前の事を言っているのかしら?」

「ふつうは甘いものがあれば、ウチは大丈夫だよ」

「確かに甘いものが好物だったわね。糖分をエネルギーに変えてる? とか?」


 オシリスは昔のブラムを思い出し、うなった。


「ましゅたーのステータス、確認したい」


 ブラムは、唐突にそんな事を言い出した。


「ステータス? って何?」

「生体情報。契約に必要なの」

「主従関係はもう結んでるんじゃないの?」

「今のは仮の仮くらい」

「どうすればイイ?」

「そんなの、簡単だよ。ましゅたー、ベロ出して」

「こう? べぇー」

「ぺろんちょ」


 ブラムは静流の舌に、自分の舌をあわせた。


「「「何ィィィ!?」」」


 周りの女どもは、全員ドン引きした。


「うわっ、舐められちゃた」

「はい、認証完了。あとは『聖痕』を刻むだけだよ」

「ブラムさん? 生体情報の認証って、他の方法は無かったのかしら?」ゴゴゴゴ


 澪の目がつり上がり、顔が赤を通り越して紫に変わろうとしている。


「ん? 最低限唾液でオッケー。ほんとは、せ……モゴ」あわわわわ


 オシリスはブラムに飛び付き、口を押えた。


「と、とにかく認証はOKよね? ブラムちゃん」

「うん。完了した。あとは聖痕を刻む。どこがイイ?」

「聖痕? なるべく目立たない所がイイな」

「わかった。じゃあ、ココにしよっ♪」ピッ


 ブラムは、両手の人差し指で静流のある所を指した。


「ん? あ、あちちちち」


 静流は急にお尻を押さえて飛び上がった。


「ん? どうしたんだ静流?」

「お尻が、急に熱くなって、くふぅ」


 静流は這いつくばり、お尻を突き出す「尺取り虫ポーズ」をしている。


「ん? どれどれ……おい、ケツに竜の入れ墨が入ってるぜ?」


 薫がズボンとパンツをめくり、確認すると、お尻にくっきりと竜のマークが入っていた。


「あの祠にあったマークと同じみたいね」 


 オシリスが入れ墨を確認した。


「ブラムさん? まさかそれが『聖痕』なの?」

「そうだよ。これで仮契約は全部完了。よろしくね、ましゅたー」パァ


 ブラムは満面の笑みを浮かべた。


「どれどれ? って、あ、ズルい! オシリスちゃんだけ見てるし」

「武士の情けよ」


 澪が聖痕を確認しようとした瞬間、オシリスにパンツをはかされる静流。


「うう。うっかり伝説級のドラゴンを、しもべにしちゃったよ」


 お尻をさすりながら、静流は溜息混じりにそう呟いた。


「頼れる味方が出来て良かったわね? 静流」

「でも、僕が主人じゃ、持て余しちゃいそうだよ」


 静流とモモが話していると、ブラムはまた唐突にこんな事を言い出した。


「ましゅたー、それで、いつ本当の契約、結ぶ?」

「何? それ」

「ほら、『すこやかなるときも……』てやつ」

「それって、結婚?」

「へへぇ。そうとも言う」


 ブラムは顔を斜めにして上目使いに静流を見た。


「待って待って! それはまだ早いと思うの。大体まだ法律上は結婚できないし」


 澪はあわてて静流より先に出しゃばった。


「ウチは、ましゅたーに聞いてるの!」

「ブラム?アンタは従者なのよ? 結婚って、対等の立場なの。始めから違うわ」


 今度はオシリスが出しゃばった。


「そうなの? ましゅたー?」

「う、うん。まだ早い、と思う」

「そっかぁ。じゃあまだイイや」


 ブラムはとりあえず納得したようだ。


「ブラム、その『ましゅたー』てやつ、止めない? ちょっとこそばゆいというか」

「じゃあ何て呼べばイイの?」


 ブラムは首を傾げて?のマークを浮かべている。

 ブラムは思いつくままに候補を挙げていく。


「サー」      「却下」

「ご主人様」    「却下」

「我があるじ」   「却下」

「旦那様」     「却下」

「シズルぼっちゃま」「却下」

「親びん」     「却下」

「マイハニー」   「却下」

「セニョール」   「却下」


「う~ん、ウチ、もう思いつかないや。どうしよう」


 ブラムは腕を組み、上を見てうなっている。


「『静流様』でイイんじゃないの? 一部では定着してるみたいだし」


 澪も付き合ってられないと、当たり障りのない「静流様」をプッシュした。


「もう、それでイイや。僕的には様呼ばわりも本当は好きじゃないんだけど」

「『我があるじ』も捨てがたかったわね? カワイイし」

「それじゃあブラムちゃんが中二病みたいじゃない?」

「学校のみんなに紹介する事があった時、ご主人様系はマズいと思って」

「確かにそうね。もしかして、あの子も学校に通わせるの?」

「わからない。場合によっては、ね」


 ロディのように、ブラムも学校に通わせる気なのか?


「それでさブラム、ちょっと言いにくいんだけど」

「何でも言って。怒らないから」


 静流はモジモジしながら、思った事を言った。


「これから人族の中に入って生活するのに、キミの姿は、目立ち過ぎるんだ」

「なぁんだ、そんな事か」

「変えられるの? 姿」

「そんなの簡単。で、シズル様はどんな姿がお好みなの?」

「好み?」

「ちょっとオデコ貸して?」


 ブラムは静流のオデコに自分のオデコを付け、目を閉じた。


「ふむふむ。なるほど」


 そしてしばらくそのままのポーズが続いたあと、オデコを離した。


「じゃあ、こんなのとかは、どお?」ボム


 ・髪はワインレッド

 ・肌は透き通るような白

 ・背は静流より少し低い

 ・顔はややつり目

 ・体形はスレンダー

 ・メガネ着用


「ぬっふ~ん」 


 変身したブラムは、髪をかきあげ、セクシーなポーズをとった。


「う~ん、微妙?」

「ある意味、究極とも言えるわね」


 静流の品評にオシリスが賛同した。


「この姿って、静流クンの理想の彼女……なの?」


 澪はフルフルと小刻みに震えている。


「え?こんな子イメージ、した事ないけど」

「そりゃそうだよ。これは、シズル様の頭の中にいる女の子のイメージを、ごちゃまぜにしたものだもん」


 ブラム的にはいいとこ取りをしたつもりだったようだが、静流の好みではなかったらしい。


「髪の色は誰だ?」

「肌の色もここにいるヤツじゃねえな」

「背はまあ、こんなもんだろ」

「顔付きもごくありふれてるよね? メガネ属性なのかな?」

「ん? 体形は自分みたいでありますな? 澪殿」ムハァ

「私の特徴って? どこだろう?」


 みんなはそれとなく、ブラムの姿から、自分の特徴と照らし合わせている。


「ひとの頭の中覗いて、勝手に理想の彼女作るな!」

「え? マズかった?」


 静流は、顔を赤くしながら、ブラムを叱った。


「もっとシンプルに、角と羽を引っ込めて、肌の色を変えるだけで十分カワイイのに」

「ヘヘェ。そう? じゃあコレでイイんだ」ボム

「そう。それでイイの。ん?なんで髪の色が桃色?」


 ブラムは、静流のオーダー通りに変身したつもりだった。


「だって、将来は桃髪家に嫁ぐんでしょ? 今から合わせとこうって。エヘ」

「止めて下さいブラムさん、これ以上私の立場を揺るがさないで」


 薫子Gはペコペコと頭を下げ、懇願した。


「えー、ダメなの? わかったよじゃあ、これにしよ」ポン


 ブラムは口をとんがらせて、しぶしぶ髪の色を青紫に変えた。


「シズル様の頭の中の女の子を全部見て、被らない色にしたよ」

「澪殿の髪色より明るめの、重モビルスーツにありそうな紫でありますな」

「紫が静流クンの好み? お母さん、ありがとう」


 澪は空を見上げ、母に礼を言った。すると、


「あれ? 何か天井?みたいなのがあるわね?」

「ホントだ。ドーム状になってるの?ここって」

「そうよ。ここの外は砂漠で、砂嵐がたまに起こるの」

「塔はここの外?」

「そう。ここを出て、『砂の川』を渡るの」

「それが、『嘆きの川コキュートス』なの?」

「そうよ。別名『三途の川』地獄との間に流れている川よ」

「なんだか物騒ね。地獄なんて」

「大丈夫よ。サンドワームにさえ気を付ければ」

「そんなのもいるの? ヤバくない?」

「昼間なら多分大丈夫よ。何より、頼もしい『しもべ』がいるでしょ? ここに」

「任せて! ウチ、強いもん」ニパ

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