エピソード30-1

ドラゴン寮前――


 ヒゲ静流の活躍で、ブラムを【隷属】させることに成功し、【ゲート】を修復させた事について、意識を失っていた静流には何があったのかさっぱりわからなかった。


「ねえ、お姉様、僕が気を失っていた間、一体何があったの? 教えてよ」

「うーん、そうね、例えるなら静流が、『無免ライダー』になった、みたいな?」


「何それ? 覚えてないんだよ? 僕は」

「憑依されたんじゃないかな? ライダーに」

「勝手に僕の身体を使ったの? ちょっと気持ち悪いな」


「とにかく! 行って来なさい、みんなが待ってるわよ?」

「お姉様も行こうよ。薫さんに会えるよ?」

「そうね。わかったわ。次は行く約束だったもんね」


 薫子Gは不安を隠しながらも、行く決心をした。


「ナギサ、ヨーコを頼むよ」

「わかりましたわ。静流様もお気を付けて」


 相変わらずノビているヨーコをナギサに任せる。すると、


「カオルコ様!」

「サラ。可愛くなったわね」


 サラは薫子Gに抱き付いた。薫子Gに髪を撫でられている。


「また、いなくなっちゃうんですか?」

「大丈夫よ。静流が付いてるから」


 上目づかいで薫子Gを見てそう言うサラに、薫子Gはサラの髪を撫でながらそう言った。


「さあ行こう、お姉様!」

「わかったわ。静流」

「僕らが寮に入ったら、ニニちゃん先生に結界閉じてもらってくれよ」

「わかりました。いってらっしゃい」


 二人は調理室に向かった。


「静流様、カオルコ様を守って」

「大丈夫よ。静流様なら」


 ナギサたちは、走っていく二人の背中を見ながら、そう言った。



調理室――


 調理室のオーブンを確認する。


「うん。直ってるみたい。行きと同じ感じがする」

「じゃあ、行こっか静流」

「うん。一人ずつ行かないと、あっちで大変な事になるんだよ」

「先にワタシが行く。静流、付いて来て」

「うん、わかった」



向こうの世界―― ゲート付近


「あれ? 前に来た所じゃない!」

「そうなの? 静流?」


 前回来たときは電話ボックスのような所であったが、今は6畳間ほどの部屋に出た。


「ちょっと出てみよう」ガチャ


 部屋から出ると、前回見えた廃墟のようなマンションの外に出た。


「ああ、ココか。ココなら覚えてるわ。多分コッチよ」


 薫子Gは静流の手を取り、ある方向に向かって歩いていく。

 巨大廃墟マンションの中庭に、ガラクタが山のように積もっている場所が見えた。


「あ、兄さん! ヤッホウ!」


 薫子Gが手を振る先に、桃色の髪をした青年が、車の手入れをしていた。

 兄と呼んだ青年の前に、薫子Gは静流を連れて行った。


「おい、お前、薫子……なのか?」

「本体じゃないよ。抜け殻」

「抜け殻? ん? お!そっちは静流だな? 大きくなったなぁ!」


 青年は静流を見て、白い歯を見せて笑った。


「どうも薫さん。お会いした事、ありましたっけ?」

「飛ばされる直前だったから、10歳くらいだったか? オレが12歳の時だから」

「そうですか、すいません多分、記憶をいじられていますね」

「気にすんなって、こうして会えたんだからな」ニパァ

「う、眩しいです、薫さん」


 静流はこの時、初めて「ハニカミフラッシュ」を浴びた。


「そう言えば、みんなは?」


 静流は一緒に潜入した隊長たちが心配になった。


「おう、奥にいるぜ?」


 薫は親指を立てて、後ろにグッとやった。その先を見ると、


「あ! 皆さん! 今戻りました!」


 静流はみんながいる方にパタパタと走り出した。


「おお、静流か、お疲れさん」

「静流クン、お帰り」


 隊長と澪は、地べたに敷かれたマットレスにごろ寝していた。


「随分リラックスしてるんですね? 調査は?」

「何を言っとるんだ? お前が帰って来なければ、調査もへったくれもあるか!」

「これでも隊長、さっきまで静流クンの事が心配だって、10分置きに呟いてたのよ?」

「ば、ばか者、それ以上言うんじゃない!」


 隊長は顔を赤くして澪を睨んだ。


「心配してくれてたんですね? ありがとう、イク姉」パァァ

「うわぁ、眩しいぞ、静流」

「わ、私だって、心配したのよ? 静流クン?」

「ありがとう、ミオ姉」パァ

「くふぅ、とろけるわぁ」


 二人が静流の光線に当たり、蒸発してしまいそうになっている時、後ろから気配を感じた。


「静流様ぁ~!」ガシィ

「ウグェ、佳乃さん?」


 いきなり佳乃から危険タックルを受け、肺にあった息がすべて無くなった。


「ヒグッ、また、静流様に助けてもらったでありますぅぅ」

「ああ、【絶対障壁】が役に立ったんですね? 良かったぁ」

「一度ならず、二度も……これは、運命、であります!」


 うっすら涙を浮かべている佳乃は、右手を握り締め、強く言った。


「そんな大げさな。でも、今後はあまり無茶はしないで下さいね」

「しません、しません」ブンブン


 佳乃はあわてて手振りで否定した。


「そうだぞ佳乃、無茶はいかん!」

「隊長? 誰のせいで佳乃はああなったんでしたっけ?」


 澪に指摘された隊長は、自分の為に負傷しそうになった佳乃と、それを救った静流に礼を言った。


「す、済まんかった。礼を言う。ありがとう佳乃。それに佳乃を救ってくれた、静流」ぺこり

「素直過ぎて、なんだか気持ち悪いでありますよ」

「フフフ。あ、萌さん、腰は大丈夫ですか?」

「はい、澪先輩に回復してもらいましたので。あの、静流様?」

「はい? 何でしょう?」


「やっぱり、本物の方が、断然カッコイイ……です」ポッ


 萌は勇気を出し、静流を称賛した。


「そ、そうですか? ありがとうございます」パァ

「ふぁぅぅ」


 今日は良く光る日だ。


「本当に良かった。 皆さんが無事で」


 静流は、みんなの状態を確認し、安堵した。すると、建物から数人の人影が近づいて来た。


「お前がシズ坊だな? ホントに兄貴に似てんな」


 そう言ったのは、長い金髪をポニーテールにしたつり目のヤンキー風美人だった。


「ムフゥ、薫と系統は同じだけど、あどけなさが残っていてイイ感じですわ。ごきげんよう、静流さん」


 次に出て来たのは、薄紫の長い髪の毛先がクルクルと縦ロールしている、ハイソ系美人だった。


「リナ、雪乃、久しぶりね!」


 薫子Gは二人の友達に声を掛けたが、二人はいぶかしげに薫子Gを見た。


「お前、薫子……なのか?」

「アナタ、本当に薫子、なの?」


 二人は複雑な表情を浮かべている。


「本体じゃない、残留思念なの」

「あの時、分離したのかしら?」

「て事は知らねえんだな、こっちの薫子を」

「う、うん。何かやらかしたの? 寝かされてるって聞いたから」

「兄貴に聞いてみるんだな」


 三人が神妙な顔つきになっているのを見かねて静流は、


「リナさんと、ヅラさん、でしたっけ?」

「おうよ、篠田サブリナだ。よろしくな、シズ坊」

「わたくしは、葛城雪乃、ですわ。もう、静流さんまでわたくしの事を……」

「す、すいません雪乃さん。あとは、忍さん、ですよね? 今はどちらに? ってうわっ」


 静流がもう一人の話をした途端、うしろからぎゅうっと抱きしめられた。


「私はここにいる。やっと会えた。静流」


 長い黒髪を編み込み、二つの団子状にまとめた、チャイナドレスが似合いそうなミステリアスな美人だった。

 背中に当たる双丘を感じながら、やんわりと拘束を解く。


「し、忍さん? いきなり抱き付かれても困りますよ」

「問題ない。もう離さない」ガバッ

「何か、お姉様に会った時と似てるなぁ」


 後ろから抱き着かれ、頬をスリスリしている様は、デジャブーのようだった。


「忍、静流から離れて?」 

「薫子、いつ起きたの?」

「ワタシは本体じゃない、抜け殻よ」

「抜け殻風情に指図されたくないし、離れない」ギュウ

「ウグェ、忍さん、く、苦しい……です」


 静流の顔がみるみる青くなっていく。


「あ、ごめんなさい。つい嬉しくて」


 あわてて緩めるも、静流はぐったりしている。


「ふう。まあ、ワタシも静流に会った時、同じような事してたし」

「じゃあ、イイんだね? 姉公認?」パァァ

「それとこれとは別よ? あげません!」


 ぐったりしている静流を、二人で引っ張り合っている。

 建物の奥から、また一人こっちにやって来た。


「はいみんな、ごはんよ!」


 そう言った女性は、静流を見て、足早に近づいた。


「静流? 静流なのね?」

「伯母さん、やっと会えた!」

「そうよ静流、私が伯母さんのモモ。ミミの姉よ」

「やっぱ母さんにそっくりだ」

「当り前じゃない、双子なんだから」

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