エピソード28-7

学園内 アンドロメダ寮――


 寮に戻ったヨーコたちと静流は、作戦会議に入った。


「イイですか?静流様、作戦はこうです」

「もうやめようよヨーコ、僕は本当に車で寝るから」

「いいえ、ダメです」フーフー


 ヨーコは興奮しながら作戦を説明した。


「私は、『眉目秀麗』モードの静流様と混浴したいのです!!」

「は? ダッシュ7と? 何じゃそりゃ!?」

「ヨーコの強引さに、静流様が可哀そうになっていたんですけど、そう言う事なら、是非にでもお願いしたいですわぁ」


 ナギサは熱に浮かされたように、遠い目で壁の向こうを見ている。


「わ、私も! 見たいです」


 サラまでもが両手を握り締め、勇気を振り絞ってそう言った。


「わ、わかったよ、で、どうすればイイの?」

「作戦はこうです。ごにょごにょ……」

「ええっ!? 本当にやるの? それ」

「有言実行! 強行します!」



 大浴場―― 


 ついに入浴の時が来た。

 今使っている女生徒が出ると、先生たちが入って来るまでは「至福の時」となる。

 約束なのでカチュア先生には前もってスタンバってもらっている。


「最後の子が上がったわよ。それ、レッツ・ゴー」


 ヨーコは先陣を切って浴場に入って行く。


「あの子って、いつもこうなの? ナギサちゃん」


 澪はヨーコの無茶っぷりをナギサに聞いた。


「ええ。ある一つの目標に関しては、ですけどね」

「わかりやすいよね、静流クン、でしょ?」

「はい。静流様はヨーコにとって、『全て』ですから」


 ナギサはそう言って、愛想笑いを浮かべた。


「ホントに、どストレートな子ね。羨ましい」


 二人が話していると、ヨーコが後ろを振り返り、声を掛けた。


「さあ、遠慮しなくてイイんですよ? お入りになって」


 ヨーコが連れて来たのは、ダッシュ6、『容姿端麗』モードの静流だった。


「お、お邪魔します」


 入ってきた鎧武者は、桃色を基調とした和風ビキニアーマーに身を包み、『愛』と大きな文字があしらわれている兜からのぞく長い桃色の髪は、縦ロールが掛かっている。足元は太ももまでストッキングで覆い、ガーターベルトで吊っている。


「ムホゥ。またお目にかかれる時が来るとは……感激であります!」


 一度見ている佳乃は、ダッシュ6を見るなりきゃっきゃとはしゃぎ出した。全裸で。


「見てません、見てませんよ、佳乃さん」


 静流は目を閉じ、呪文のようにブツブツ言っている。


「何じゃ! この鎧武者は!? サムライか?」


 隊長は腰に手をやり、大股でポーズをとっている。全裸で。


「見えてません、何も見えてません」

「ちょっと隊長!? 前くらい隠しなさい! 佳乃もよ! もう」


 そう言って二人をたしなめている澪は、バスタオルで前をがっちりガードしている。


「さあさあ、お召し物を取りましょうね」


 ヨーコはてきぱきと鎧アーマーを外していく。


「じ、自分で出来るよ」


 鎧アーマーを剥がされ、中の着物を脱ぐと、胸にはサラシが巻いてあり、下はなんと、フンドシにガーターベルトであった。


「ムフゥ。たまらないわぁ」


 ナギサは前を隠すのを忘れるくらい興奮している。


「ちょっとヨーコ、7に反転するタイミングって、いつなの?」

「もちろん、浴室に入る直前です!」ハァハァ

「さあ、残りのお召し物も取りましょう」フーフー


 ヨーコは両手の指をわきゃわきゃといやらしく動かした。


「ああもうじれったい! 私がやりますっ!」ゴゴゴゴ


 ナギサは先ずサラシの端をほどき、えいっと引っ張った。すると静流がコマのように回りだす。


「あゎゎゎゎ」


 目を回している静流はそっちのけで、次に取り掛かろうとしている。

 ご丁寧にガーターベルトは一番下で、その上にフンドシを着けている為、フンドシを脱がしに掛かる。


「きゃあ」


 一瞬でフンドシを引きはがされ、静流は思わず乙女のような声を出してしまった。


「うふ。静流様も、可愛い声で鳴くんですね? たまらないわぁ」


 ナギサはそう言いながら、残りのガーターとストッキングを脱がし、静流はカードスロット以外、一糸まとわぬ姿となった。


「ち、ちょっと、手ぬぐい取ってよ」

「ムハァ。イイ。イイわぁ」

「静流お姉様ぁ」むにゅ


 サラが全裸の静流に抱き着いた。


「サラ、変なとこ触らないで」

「静流様、今です! 反転してください!」

「わかった。反転! 裏モード『眉目秀麗!』」パシュゥ!


 スロットから『容姿端麗』のカードを一度抜いて、裏返しにする。


「ちょっと、まだなの?」


 浴室の中では、カチュア先生が首を長くして待っていた。


「もう、じらさないでよ」

「もうすぐ来るでありますよ」


 佳乃は鼻息を荒くして、今か今かと待ち焦がれている。


「はい、皆さん、お待たせいたしました。ささ、どうぞ」

「うむ。邪魔をする」ガラッ


 入って来たのは、ダッシュ7、『眉目秀麗』モードの静流であった。

 鎧はすでにパージされている状態で、腰に手ぬぐいを巻いている。

 長い桃色のストレートヘアに左目を眼帯が覆う、まさに超絶美形男子であった。


「クハァ、最高であります!」


 佳乃は興奮のあまり、前を隠していた手ぬぐいを落とした。


「この俺に、斬られたい者はおるか?」


 静流は、どうしていいかわけもわからず、アドリブで演じている。


「ハイハイーイ! ワタシを斬ってぇ♡」


 カチュア先生はもう辛抱たまらんとばかりに静流に抱き着いた。当然全裸で。


「ならばその望み、叶えよう。【旭日昇天】ポゥ」


 静流は手に桃色の霧をまとい、先生のオデコに触れた。しゅうぅぅ


「あっ、くぅ~ん」ガク


 カチュア先生は、両目を♡マークにしたまま、昇天した。


「静流クン、なの? 今の技って何?」


 澪はこの男を静流だとすぐ見破った。


「はて、静流とは、誰の事であるか? ヨーコよ」


 ヤバくなった静流は、ヨーコに無茶ぶりした。


「いやですよもう。静流様が堂々とこの浴場にいらっしゃるわけ、ないじゃありませんか」

「そ、そうよね。じゃあ、あなたは誰?」

「名乗る程の者ではござらん。ただの、サムライでござる」

「そのサムライがうら若き乙女の花園に、何か用でも?」


 澪は自分を含めているのだろうか?


「ちと頼まれ事をな。では、拙者は失礼する。さらばだ!」


 目標である、カチュア先生をイカせたので、早々にこの場を去ろうとする静流に、


「お背中、流しましょうか? おサムライ様」

 ナギサであった。上気した顔は、湯気でのぼせているとも思える。


「あいや結構。拙者はこれにて失礼……っておい!」


 ナギサは物凄い力で静流を強引に椅子に座らせ、石鹸で泡を作っている。


「さあ、じっとしていて下さいまし」ムニュ

「ひぃぃぃ」


 ナギサは自分の身体に泡を塗りたくり、静流の背中にこすりつけた。


「さあ、隅々まで洗いますよぉ。前もね」ババッ


 ナギサは手慣れているのか、手ぬぐいをいとも簡単にはぎ取った。


「さぁ。前も綺麗にしましょうね? ウフ」


 ナギサの石鹸の泡がついた手が、腰から前の方にゆっくりと迫って来る。


「ナギサ、ち、調子に乗るなよ? 【旭日昇天】ポゥ」


 静流は手に桃色の霧をまとい、ナギサのオデコに触れた。しゅうぅぅ


「はっ、はひぃ~。幸せ」ガク


 ナギサは、両目を♡マークにしたまま、昇天した。


「ふう、危なかった。って何この状況」


 ナギサを無力化した静流は、周囲に禍々しいオーラが充満していくのを見た。


「ナギサばっかりズルい、私にもして? お願い」

「どうです?私がデザインしたんですよぅ、イイでしょう」


 ヨーコとサラが、目を♡マークにして静流ににじり寄って来る。


「どうしたんだよ、みんな!? メガネは付けてるし」


 一瞬、【魅了】が漏れているのかと思った静流だが、杞憂だった。すると、


「ああ、私も斬られたいわぁ」

「自分もぉ、刀のサビになりたいでありますぅ」

「おい、サムライ!おとなしく前を見せろ!」


 なんと、女性軍人たちもが目を♡マークにして静流ににじり寄って来る。


「マズいな、しょうがない、アレをやるか」


 静流は意を決し、ある魔法を準備した。

 静流の手には水色の霧がまとわりついている。ポゥ



「行くぞ!【旭日昇天連弾】!!」パパパシュウ



 静流の指から水色のオーラがそれぞれのオデコに正確に命中していく。


「はうっ」

「きゃん」

「うっ」

「はひぃ」

「あふぅ」


 連弾を受けた者たちは、バタバタと倒れていく。すると。パシュウ

 一瞬で男から女のサムライに戻った。


「あれ? ダッシュ6に戻っちゃったよ」

「恐らく、魔力を消耗したからでしょう」


 湯船に浸かっているシズムことロディは、冷静に分析した。すると、脱衣所から声がした。


「あら、まだ入ってるみたいですね、あの子たち」

「客もいるんだし、たまにはイイさね」


 声からして、ニニちゃん先生と寮長先生である事は、間違いなかった。


「マズいな。こんなタイミングで。とりあえずみんなを起こすか」パチン


 静流は指を鳴らした。すると、

 

「う、う~ん」

「あれ、私ったら、お風呂場で寝てたのかしら?」

「夢? いいえ、違うわ。確かに手ごたえがあったもの」


 みんながムクムクと起き始めた。


「あれ? おサムライさんは?」


 ヨーコが辺りを見回すと、湯船に女サムライが浸かっていた。


「静流様、どうなってるんです? 今の状況」

「マズいよ、脱衣所に先生たちが来てる。って大丈夫?ヨーコ」

「うげ、それはヤバいですね……どうしよう」


 時すでに遅く、二人が入ってきてしまった。


「何だい、この騒ぎは」

「皆さん、大丈夫、ですか?」


 二人がいぶかしげにみんなを見ている。


「え? 何が大丈夫かですって? きゃ、きゃぁ~!」


 ナギサは、曇った鏡を手で拭って自分の顔を見た瞬間、悲鳴を上げた。


「何だって言うんだ? うぉ?」


 ここにいた静流とロディ以外の乙女たちは、全員鼻血を出していた。


「誰だい? アンタ」


 寮長先生は湯船に浸かっている女性に声を掛けた。


「私、ですか? 私は静流のいとこの、静江です。自己紹介が遅れてすみません」

「いとこ? 確かに桃色の髪、それにしてもお綺麗な方。さすが『桃髪家の一族』の方ですね」

「今日、ずうっと車の中で待機していたもので、お風呂だけ頂きました。では、これにて失礼します」ザバァ


 静流は、挨拶も早々に切り上げ、足早に浴室を出て、脱衣所に入った。


「うわぁ、ヤバいなぁ」


 静流はタオルで体を拭き、着替えに持って来ていた自分のTシャツとスウェットに速攻で着替えた。すると、


「アンタ、静流だね?」


 寮長先生は、ごまかせなかったようだ。


「ひぃぃ、す、すいません」


 げんこつが来ると思い、頭を出して衝撃に耐える準備をしていた静流を、寮長先生は殴るのではなく、撫でた。


「へ? 先生?」

「明日、行くんだろ? 向こうに」

「はい、行きます」

「くれぐれも、気を付けるんだね、ほら帰った!」

「はい、ありがとうございます」


 静流はあたふたとキャンピングカーに帰っていった。


「あれぇ? どこに行っちゃったのかしら? 変ねぇ?」

(静流様、上手く逃げられたようね)


 ヨーコは白々しい演技で静流がいなくなった事を伝えた。

 暫くポカンとしていたみんなは、カチュア先生に【キュア】を掛けてもらい、脱衣所で着替えている。


「ムハァ、素敵だったわ。今夜は眠れそうにないわね」


 カチュア先生は先ほどの出来事を半分以上美化して妄想に耽っている。


「グッジョブよ、ヨーコ! イイ思い出になるわぁ」ポォォ


 ナギサは親指を立てて、先ほどの行為を頭の中でプレイバックしている。


「くうっ、ナギサに美味しい所、持っていかれたわ」


 ヨーコは千載一遇のチャンスを逃した事を心底悔いていた。

 そのあとは、それぞれが寮に帰り、就寝となった。

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