エピソード24-4

統合軍 極東支部 薄木航空基地 第7格納庫――


「さあ、存分に語り給え」


 隊長は、このひと月余りの出来事を報告せよと迫って来た。


「じつは、あまり時間がないんで、手短に」


 静流は、あとのスケジュールを考慮し、簡単に説明した。


 ・佳乃と共に戦闘ヘリ『ジェロニモ』にてアスガルド駐屯地に行く際、レッドドラゴンと遭遇、

  これを撃破する。

 ・その際にドロップした『聖遺物』で、【転移】他様々な能力を獲得。

 ・今後の移動手段に革新的な進化をもたらすであろう発見。


 静流は、主にそのような事を語った。


「何とまあ荒唐無稽な話だ事。良く無事だったわね、佳乃」

「全て静流様のお陰であります!」

「いえいえ、あの時【トワイライト・レーザー】が発動出来たのは、佳乃さんのアノ言葉があったからですよ」

「いえいえ、自分だってアノ時は必死でありましたから」


 二人が回想に耽ってお互いを褒めあっている様子を、他の三人はジト目で眺めていた。


「静流クンと息ピッタリね? 佳乃は」フーフー

「これが『吊り橋効果』なのかしら?」

「むう、つまらん」

「後は自分が報告書にまとめるでありますゆえ、静流様はお早く学校にお戻りくださいであります」

「え? 今から学校に行くの?」

「はい。【転移】があるから、午後の授業には間に合うんで」

「つまらんな。もっと聞きたいぞ」

「もう、帰っちゃうんだ。静流クン」

「また来るよ。ミオ姉」

「約束、だからね?」

「うん。約束。佳乃さん、次来るときは『人型兵器』見せて下さいよ?」

「そうでありますね。次回にじっくりとお見せするであります」




          ◆ ◆ ◆ ◆




 静流は、学校に戻る為の準備を始めた。


「先ずは睦美先輩に念話だ」 


〔睦美先輩、すいません〕

〔ん? 今授業中なのだが〕

〔緊急ですので、手短に。1130時にそちらに【転移】します〕

〔何ィ!〕ダンッ

〔どうしたんですか?〕

〔すまん、つい興奮してしまった〕

〔その時間なら校庭、誰もいませんよね?〕

〔ああ。だがちと問題があるな〕

〔何でしょう?〕

〔教室から丸見えだ。目立ち過ぎる〕

〔しまった。どうしよう〕

〔屋上ではどうだ? 静流キュン〕

〔それなら大丈夫そうです〕

〔影に鍵を開けさせるから、心配無用だぞ〕

〔ありがとうございます。では後程〕ブチ


「よし、これでOKだな。オシリス、座標を学校の屋上にセット!」

「セット完了!いつでもイケるわよ!」


 今回は静流が前に乗り、ムムちゃん先生を後ろに座らせた。


「安全なのよね? 五十嵐クン」


「大丈夫です! 行きますよ!」


 オシリスが魔素のチェックをしている。静流は座席に座ろうとした時、佳乃が近づいて来た。


「静流様、お気を付けて」


「佳乃さん、いろいろお世話になりました」


 静流は握手を交わそうと右手を出した。


「短い間でありましたが、実に有意義な時間でありました!」


 佳乃が右手を出し、静流の右手を握ると、グイッと抱き寄せた。


「餞別であります。むちゅ」


 佳乃は、静流を抱きしめ、頬にキスをした。


「また不意打ちを食らっちゃったな」カァァ


「フフ。この位のご褒美をもらっても、バチは当たらないでありますよ。」


 赤い顔をした静流は、座席に座り、ベルトを締めた。


「じゃあ、行きます」


 静流はキャノピーを閉めた。


「オシリス、魔法陣、展開!」


「オーライ」ブーンッ


 オシリスが魔法陣をバギーの下に展開した。


「静流、カウントダウン、始めるよ」


「お願い」


「行くよ、10秒前! 9、8、7……」


 オシリスがカウントダウンを始めた。


「5秒前! 4、3、2、1、ゼロ!」


「【転移】!」ブンッ


 静流とムムちゃん先生を乗せた小型バギーは、残像を残し、消えた。


「うわぁ、ホントに消えたわ」

「つまらん、実につまらん!」

「ああ、あの子が静流様なの? あまり話せなかったな」

「私の事を『イク姉』と呼んだのは、奴しかおらん! ハハハ」


 二人が騒いでいる横で、佳乃は自分の勾玉を握り締め、遠い目をしている。


「ああ、静流様……行ってしまわれた」


 その様子を見ていた澪は、先ほどの暴挙については、不問としようと思っていたところ、


「静流様の場合、遠くから『愛でる』といった方がしっくりくるかな……と思っていたであります」

「うんうん。私も佳乃ってば二次元にしか興味無いと思ってた。だから安全パイだと思ったのよね。誤算だったわ」

「しかし、静流様の人となりを知れば知るほど、この方に尽くしたい、そばにいたいと思ったのであります」

「わかるわぁ。あの子はそう言う子なの」

「つまり、『惚れ申した』という事であります」

「そんなの、見てればわかるわよ。だって、静流クンに関しては、私の方が先輩なんだから」


 沈み気味の佳乃の肩をポンと叩き、何か気の利いた事を言おうと思った時、


「へへぇ。澪殿、見て欲しいであります! キレイでありましょ? 何と、実はコレ、静流様が自分の為に作って下さったものなのでありますよ!」


 佳乃は勾玉を澪に見せびらかした。


「な、何ですって? 私には……無いの?」

「次の機会にはもらえるのでは? うーん、どうでありますかなぁ?」

「んもう! さっきドサクサに紛れて、静流クンにチュウしたでしょ? 佳乃ばっかり、ズルいぃ~!」


 澪は頬を膨らませ、地団駄を踏み、盛大に悔しがった。

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