エピソード19-1

魔導研究所内 武器開発室―― 午後


 測定結果を待つ間、少佐は静流の装備を調整することを提案してきた。  


「静流クン、今使っている矯正メガネを軍で調整してあげる。完璧なものを用意するわ」

「実にありがたいです!」


 静流は武器開発室に向かった。


 コンコン「失礼します、五十嵐静流ですが」

 ノックして中に入ると、カウンターに座っていたメガネを掛けた小柄な女性が対応してくれた。


「武器メンテナンス担当の有坂リリィ曹長です。よろしくね」


 髪の色が赤紫で、桃色に近く、メガネ属性ということから、妙に近親感が沸いた。


「有坂曹長って、雰囲気が僕と似てません? 何か他人とは思えなくて」

「そう思ってくれるなら、リリィって呼んでよ静流クン。アタシもそっちのが楽だし」

「じゃあ、リリィさん、少佐に装備の調整をしてもらえって言われて来たんですけど」

「うん、聞いてる。じゃあ、そこに並べてくれる?」

 


・矯正カラコン <花形光学機器製>


・不可視化モード付補助メガネ 同アイマスク <花形光学機器製>


・光学迷彩を付与した人工皮膚 偽装肉体モード 不可視モード 幻影モード ボイチェン 腕時計型操作パネル <花形光学機器製>


・ナンブ式小型拳銃 (ベビーナンブ) <統合軍支給品>



 ずらっと並べた装備は、いずれも静流を守って来たものである。

 今は以前使っていた瓶底の矯正メガネを使っている。


「花形光学機器は軍の開発にも関わっているんで、そっちの担当と調整出来るね。他には無いの?」

「コレも装備に入るのかな? オシリス!」

「呼んだ? 静流」


 首に巻きついて不可視化と休眠モードになっていたオシリスを起こした。


「使い魔型ゴーレムのオシリスです。ウチの高校の科学部が作りました」

「うわぁ、どんな構造してるの?分解してみたい!」

「やっぱりその反応なのね? 怖いこと言わないでよ」

「自律思考型? 学生がこんなものを? ますます構造が気になるわぁ」


 リリィはオシリスに興味深々である。話題を変えようと静流が質問した。


「リリィさん、この拳銃について教えてくれませんか?」


 静流はベビーナンブをリリィに渡した。


「アタシも現物を触るの初めてなんだけどね。ムハァ、状態は奇跡的に極上ね」


 リリィはベビーナンブを色んな角度から眺め、うっとりしている。


「シリアルナンバーは No.0005 この銃が最後よ。この世に現存するのはこれを合わせて3丁で、あとの2丁は軍の施設で厳重に保管されてる」

「うへぇ、何でそんなに少ないんですか?」

「最後のベビーナンブが製造されたあとすぐ国王が変わって、そういうの止めたらしいわ」


 仕分けの対象にでもなったのだろうか?


「他に試作なんだけど、大型甲 (ダディー) と大型乙 (マミー) があるわよ」

「なるほど。家族に見立ててるんですね?」

「ダディーナンブは、ロングバレルのストック取付可能で長距離射撃用。マミーナンブはダディーの省略型だけど、フルオート射撃が可能なの」

「銃にも派生とかあるんだなぁ。適材適所ってやつですね」

「そういう事。じゃあ、確かに預かったわ。オシリスちゃんは調整しなくてもイイの?」

「結構よ。分解されたら困るから」

「おやまぁ、残念」


 静流は各装備をリリィに預け、武器開発室を出た。ロビーで佳乃に会った。


「お疲れ様であります。静流様」

「佳乃さん、お待ちどお様」

「リリィ先輩はどおでした?」

「見た目がウチの一族に雰囲気が似てるんで、親近感がありましたよ」

「そうでありましたか。リリィ先輩は仁奈先輩と同期であります」

「あ、そうなんですか。話題には出なかったな」

「昔からお二人はちと仲が悪いのであります」



魔導研究所内 厚生施設内 洋食屋ポセイドン―― 夜


 佳乃と夕食を摂りに洋食屋に入ると、


「リリィ先輩! 御無沙汰であります!」

「佳乃! 久しぶりだねぇ、元気そうで何よりだよ。あ、静流クン! ヤッホウ」

「こんばんは。リリィさん」

「まぁまぁ座んなよ、ココ。空いてるから」 


 リリィと相席になった。


「聞いたよ、アンタ、ジェロニモで400出したって?」

「まあ、条件が良かったんでありますよ」

「型遅れでも頑張れば出来るって事だろ? イイ話じゃんか」

「あれが型遅れなんですか?」


 戦闘ヘリには疎い静流はポカンとしていた。


「そうでありますね。最新鋭と比べるといろいろ劣る所があるかと」

「そうやって兵器は常にアップデートしていくのよ」


 リリィはそう言ってワインをあおった。


「あら? そこにいるのは、リリィじゃない?」

「仁奈……」

「あ、仁奈さん、こんばんは」

「静流クン、リリィと仲良くお夕食?」

「はい。楽しいですよ。どおです? 御一緒に」

「結構よ。またね、静流クン」


 仁奈は出て行ってしまった。


「何か、悪い事しちゃったかなぁ?」

「気にしなくてイイでありますよ。さぁ、食べましょう!」


 急にリリィは立ち上がった。


「ご馳走さん、シラケたなぁ、アタシも出るわ。部屋で飲み直す」ガタッ

「あらら、リリィ先輩まで帰っちゃうでありますか?」


 後ろを向いたまま右手を挙げて、リリィも出て行ってしまった。


「どうしてあんなに仲悪いんです?」

「さあ、昔っからあんな感じでありましたね」

「意見の相違ってヤツよ」


 後ろから声がして振り向くと、少佐が座っていた。


「リリィは常に最新の技術を追ってる、いわばデジタル派、かたや仁奈は古き良き時代のロマンを追う、アナログ派。そりゃあ合わないのも無理はないわ」

「確かに音速を超えるジェット機にはプロペラ機は敵わないでありますから」

「でもさっき、『型遅れでもやれる』って喜んでたんですよ、リリィさん」

「お互いに認めてるんだけど、つまらないプライドが邪魔をしているのよ」

「何か手はないかしら? ねえ? 静流クン?」

「え? 僕ですか?」



         ◆ ◆ ◆ ◆



魔導研究所内 ブリーフィングルーム―― 午前


 少佐の提案で急遽「射撃大会」を行うこととなった。

 出場者はペアを組み、ライフルと拳銃をそれぞれ使い、標的を射抜くというもの。

 銃は新旧織り交ぜたものをシャッフルし、くじ引きで決める。

 くじ引きの結果は、


 静流・リリィ組 ライフル:1897式狙撃銃   使い手 リリィ 

         拳銃  :ワルサーP-2099 使い手 静流


 仁奈・佳乃組  ライフル:PSG狙撃銃    使い手 仁奈 

         拳銃  :ルガーP-1908 使い手 佳乃


 他諸々である。


 競技は、ライフル部門は800m先の的を狙い、命中精度(中心に一番近いものと遠いものの距離)を競う。

 拳銃部門は50m先の動く的をいかに多く倒すかを競う。

 いずれも弾薬はカートリッジ式魔弾の通常弾を使用する。

 

「カート式の魔弾はまだ撃ってないな」

「大丈夫よ静流クン、キミの銃は最新式でブレとかそういうの補正してくれるから」

「リリィさんの銃は随分クラシックですね」

「まあね。結構勘とかオカルト要素も必要だね」

「あら? リリィ、アナタにはその銃を使いこなせる自信があって?」


 PSGを肩に掛けた仁奈が薄笑いを浮かべながら近寄って来た。

 佳乃は浮かない顔で静流に話しかけた。


「静流様ぁ、自分、射撃については初心者レベルな上、古式銃ではまともに当たるかどうか。圧倒的に静流様有利であります」

「そうなの? 射撃が苦手なのに、何で佳乃さんがエントリーしたのさ?」


「ハンデよ。そうしないと圧倒的に私が勝ってしまい、『賭け』がつまらないから」

「そう言う事だったの。わかった、佳乃、アンタはワルサーを使いな!」


「うぇ? それじゃあリリィ先輩が、不利になってしまうのではありませんか?」

「余計な事してくれるじゃないさ仁奈! ハンデ? そんなもの要らない」


「イイんですかホントに? 僕はあまりあてにしない方が……」

「問題ない。こちとらには『秘策』があるからね」

「『秘策』ですか?」


「リリィ、この最新式に敵うと思って?まあ、私の場合97式の方が得意なのだけど」バチ

「仁奈、アンタこそそいつの性質を理解してるのかなぁ?」バチバチ


 二人がにらみ合っている横で、巻き込まれた二人は、


「静流様、お手柔らかにお願いするであります」

「まあ、お互い無理しない程度に頑張りましょう」

「やってみなきゃわかんないでしょ? そんなの」

「そうね、楽しみにしてるわ。行くわよ、佳乃」

「ま、待ってくださいであります! 仁奈先輩」


 仁奈はきびすを返し、右手を挙げながら去っていく。そのあとをおどおどしながら佳乃が付いていく。


「静流クン、アタシたちも作戦会議、始めるよ!」

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