第二章 養成所

第10話、養成所

11月1日、俺とサクラ姉さんは養成所の門をくぐった。

俺は学生であるが、サクラ姉さんは教会長とサキ&ヨーコ財団名誉顧問として挨拶する事になっている。

どちらも、剣関連の功績が認められたもので、下手な国会議員以上の地位と言える。

当然、養成所の所長さんよりも立場的には上なのだが、所長さんは以前姉さんが属していたパーティーのリーダーだったようである。

とは言っても、サクラ姉さんは冒険者ではなく、ヒーラーの実地研修にすぎないのだが。


黒のシックなスーツに身を包んだ姉さんは、とても19才には見えない落ち着きを見せている。

俺とは立場が違うので、門を入ったところで別れた。


「寄り道しないで帰ってくるのよ」


「家までの間に、道路しかないのに何処へ寄るっていうのさ」


「どこかへ遊びに行くとしても、一回帰りなさいね」


「うん、分かってる」


サクラ姉さんには、夕べから教会派遣のゴーレムが一体付き従っている。

スケジュール管理や移動サポート、各種フォロー用だ。

教会長とは、NJP教会長であり教会では国のトップになる。これは異例の昇進といえる。

元々、エルフは対外的な付き合いが少なく、街中で暮らすのはごく少数である。


モリビト家は、その中でも代々対外的な窓口となっており、前任のNJP教会長は姉妹の父親であった。

2年前、父親と母親を同時に失ってから、教会はサクラに跡を継ぐよう要請してきたのだ。

自然信仰心の強いエルフにとって、教会色はあまり魅力的といえない。

従って、教会としてはサクラ以外の選択肢はないともいえる。

教会派遣のゴーレムといっても、新規に制作されたもので、教会の色はついておらず、完全な個人用といえる。


一方で、財団からもゴーレム派遣の申し出があった。

名目は名誉顧問であるサクラのフォローであるが、剣の贈与とかシランの貢献とか俺のフォローとか、色々な思惑があるらしい。

楽しみにしてなさいと言って沈黙したマリアの言葉が気にかかる…

そのゴーレムが今日の午後届くことになっている。


さて、今期の養成所入学者数は、1,214人と聞いている。

それが冒険者コース、職業コース、職人コース、魔工技師コースに分かれるため、各コースは300人程度。

さらに細分化され、例えば冒険者コースなら戦士科、探検科、魔法科、モンスター研究科、迷宮研究科に別れる。


ここは結構悩んだが、結局モンスター研究科に決めた。

一番の理由は、人数が少ないからだ。


入所式は簡単に進んだ。


所長の挨拶は、2年間がんばれ!だけだった。

サクラ姉さんは、困ったことがあったら、いつでも教会へ。シスターも神父も募集中で、優秀な人はぜひ教会にというお誘いだった。

加えて、卒業するまでは財団の庇護下にあるため、何かあったら裏の自宅でも構わないし、モンスター研究科のタケルに言ってください。と締めくくった。

最後の一言は余計だろう。なんか注目されている……


それに続いて、各コース担任と各科主任の紹介が行われたが、約半数がヒト型ゴーレムだった。

式典はこれだけだった。

続いて教室へ入り、顔合わせが行われる。

モンスター研究科の担当主任はゴーレムさんだった。

ゴーレムさんで困るのは、顔や体形で見分けがつかないことだ。

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