大きな一歩

次の日、私はお医者さんにもらったお守りクスリを持って学校へ行った。

薬を飲んでから効果が出るまで約30分と言われている。

気持ち悪くなってから飲んだって意味が無いから、授業が始まる直前にクスリを1錠口の中にいれて水とともに流し込んだ。


キーンコーンカーンコーン。

授業が開始の合図が鳴った。

1時間目は、古典。

授業中に寝る生徒人数NO.1の教科である。

多い時には起きているのが2,3人という時もあるくらいだ。

まぁ、隣の席の神田くんは体育以外全部寝てるんだけどね。

授業が始まって30分が過ぎようとしていた。

そろそろ薬効いてるかな。

そう思って隣を見ると案の定寝ている神田くん。

右手の人差し指をそーっと伸ばして神田くんの左腕に触れた。

吐き気はしない。

『よしっ。』

そのまま人差し指を引いたり押したりして左腕につんつん。

「んっ…」

神田くんが起きた。

「起こしてくれるなんて珍しいじゃん。」

そう言って神田くんは私にニヤッと笑いかけた。

「いや、いつも起こしてるんだけど。起きないあんたが起きる方が珍しいわ。」

いつもは声かけてるだけだけどね。

そう思いながら、珍しく授業中10分以上起きていた神田くんを見てすごく嬉しかった。


授業が終わった。

私は一目散に水道へと向かった。

確かに吐き気はしなかった。

でも、手を洗いたいという衝動は抑えられなかった。

吐き気がしないだけすごく楽になったんだけどね。

大きく成長した気がしてすごく嬉しかった。

このまま行けば…!

期待に満ち溢れた私は念入りに爪の中まで洗って、水道の蛇口をひねった。

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