第94話待ち合わせ

永倉は河川敷へ上がる道で待つ。小川洋子を待つのだ。しばらくすると彼女が白杖で少しずつこちらへ来る。永倉からするとやはりこの時間帯は危険である。


「行きましょうか、永倉さん」


「うむ、行こうか」


二人並びながら河川敷を目指す。坂道を上がれば夕日を見るのにちょうど良い。永倉は聞いた。


「目が見えないと言うのはもう全く、光すらわからぬのか」


「はい、全く感じません」


仕事は書籍を点字に翻訳する仕事だと言う。どうしてもこもりがちになるので二度三度外に出るのだと言う。


「私の事は話しました。次は貴方あなたの番」


「貴方、新選組の永倉新八さんでしょう?」


「いかにも」


アハハ、と笑顔で洋子は答えた。


「まさか、タイムリープしてきたんですか」


「左様」


洋子、笑いが止まらない。


「貴方の名前を調べたら新選組の隊長だとか。生きてるわけないじゃないですか」


永倉は答えた。


「そうだ、生きているわけは無い」


穏やかにそう言った。河川敷に上がった二人を夕日は迎えた。見事な夕日だ。


「まあ、永倉さんが本物でも偽物でも良いんです。こんなに優しい人なら」


「そう言う事にしておこう」


二人は他愛も無い会話で河川敷を下って来た。その時素早く隠れた人間が居た。

詩織と斉藤である。


「まさか二人、どんな仲なのでしょうね」


「盲目でも美しい女子おなごではないか」


二人は素早くその場から立ち去った。永倉と洋子はそのまま歩いて行く。小野田家とは家が近く、何の不自由も無い。斉藤からの報告を聞くと近藤は


「なんと、永倉君、やるではないか。堅物だと思うたが」


「まあ永倉先生の事です。大丈夫でしょう」


斉藤は言った。しばらくすると永倉が帰宅した。


「今日も夕日が素晴らしく、見とれていました」


詩織は永倉は嘘が下手だなとククッと笑った。

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