第27話吉村の塾、盛況

「奥さん、聞いた?小野田さんの塾」


「聞いた聞いた。論語?の勉強をするらしいね」


「でも子供の成績が上がったそうよ」


小学校から帰る途中、龍田俊彦はその話を聞いた。クラスでも話題になっている。数学も英語も国語も勉強しないと言う。しかし通う子供たちは礼儀正しくなると言う。


「お父さん、もう一つ塾へ行きたいんだけど」


夕食の時、俊彦は父親に聞いてみた。


「俊彦が行きたいと言う塾だ。先ずは見学に行ってみなさい。月謝はいくらだい」


「二千円」


「安いな」


「お父さん、私もその塾の話は聞いています。子供の躾に良いそうよ」


翌日、早速俊彦は見学に行った。授業は五時から六時。短時間で俊彦の塾にも支障が無い。小野田家の道場内へ入った。道場には折り畳みの机と座布団がある。子供たちが続々とやって来る。道場に活気が出てきた。


「見学ですね、どうぞ前の席に来てください。皆さん、席を譲ってあげてください」


吉村がそう言うと子供達が席を譲ってくれた。吉村がプリントを配り始める。漢字で書かれたプリントには読み仮名が書いてある。


「ではみんな、何時もの様に斉唱せいしょうしましょう」


一斉に皆が声を出して論語を斉唱し始めた。元気な声が道場に響く。斉唱の後はその論語の自分の気に入った文字を習字で書く。書道を学んでいる子供は上手く書く。俊彦も精一杯頑張って書いてみた。


「うんうん、初めてにしては上手ですね」


丁髷ちょんまげ姿の吉村は一人一人丁寧に見て回る。子供達も吉村先生と声を掛ける。和気あいあいとした不思議な塾だった。俊彦の行っているピリピリした塾の雰囲気は一切なかった。終わりの時間に吉村が俊彦に声を掛けてきた。


「授業はどうでしたか」


「よくわかりませんでした」


「そうですね、良くわからない。当然です。お家に帰ってご両親と相談してください」


俊彦は夕食の時、両親に塾の内容を伝えた。


「ほう、論語の勉強を。父さんも大学で少し学んだだけだよ」


「月謝も安いし、俊彦の負担にならないなら良いわよ」


俊彦には吉村に集まる子供達と笑顔の丁髷の吉村の顔を思い出した。

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