第24話詩織、ストーカーに遭う その四

それから数日が経った。何か事件が起こるわけでもなく、詩織は買い物に出掛けた。その日は斉藤が尾行につく当番だった。


「あの女は…」


スーパーで幾度も会う女性は多いが、こう何回も会うという事はやはり何かおかしい。斉藤は尾行する事に決めた。スーパーの店内でその女は執拗に詩織の後をつける。同じ商品すら手にする時がある。詩織が買い物を済ませて帰途に着くのも女は後を追う。小野田道場の前に着くと何やら書いている。


「貴公、話が有る」


その時すかさず斉藤は言った。長身の斉藤を前にして女は震えていた。


女の襟首を捕まえて道場の門を斉藤はくぐる。強烈な力で引っ張られる女は抵抗できない。


「尾行していた者を捕らえました」


斉藤が近藤に報告した。


「でかした!斉藤君!」


近藤は上機嫌である。


道場の中央に女は連れられ、隊士一同に取り囲まれ、逃げようにも手段が無かった。

詩織は彼女に茶と茶菓子を持ってきた。


「詩織さんが私にお茶など!」


女は動揺している。聞くと歳は十五と言う。


「何故詩織殿を付け回した」


「詩織さんは私の全てなんです」


少女が詩織に出会ったのは十四歳の時だった。歳が近いながらもモデルとして活躍している詩織を始めは羨望の目で見ていたという。やがて自分でも衝動を抑えきれなくなり、詩織の身辺調査を独自に行った。雑誌に載っているインタビュー等で直ぐに住居の目星がついたと言う。大したものである。尾行の日は小野田道場まで見送ると言う。


「私が言うのもなんだけれど」


詩織が言った。


「道場で稽古をしたら?私も道場に出る日も有るし」


「良いんですか!本当に!」


小柄な女子は興奮して言った。


「でもSNSで言ったりしちゃだめよ」


こうして小野田道場に新しい門下生が加わった。

「僕」を手紙に書いたのも彼女なりの羞恥心しゅうちしんかららしい。

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