第29話 新薬『AOV』
第Ⅶ班は怪しい製薬会社が本当にヴァンパイアの住処なのか調査を続けた。そしてついに、銀次達は複数体のヴァンパイアを視認する事に成功した。
視認した全てのヴァンパイアが
さらに朝から出勤する社員が極端に少なかった事から、製薬会社としてはすでに機能していないと判断。そしてもう一つ、窓には遮光が施されている事からヴァンパイアの住処、及び人間の協力者がいるとしてSBは突入を決定した。
そして作戦当日。
作戦の概要は二十一時より突入を開始。
高遠隊長の件もある為、二つの班をSBの護衛に割り当てたいとして、先般被害の大きかった第Ⅱ班と第Ⅲ班が護衛を担当、第Ⅳ班から第Ⅶ班の四つの班で突入する事。
第Ⅳ班と第Ⅴ班は地上の建物を一階から上層を制圧、第Ⅵ班と第Ⅶ班は地下に進んで制圧する事。
敵勢力は不明。建物内にいるヴァンパイアは全て理性持ちと考えて対処する事。
なお、一般市民が混じっている事があっても区別がつかない場合やヴァンパイアに協力していると判断した場合は射殺を止む無しとする。
新薬「Alternative・Over the・Vampirevirus」通称
「以上が班長会議で決まった事だ! 質問あるか?」
第Ⅶ班オフィスにて銀次が皆にそう問いかけた。
その作戦に対し真っ先に手を上げたのはハジメだ。
「建物内に一般市民がいた場合、一般市民も射殺しろと?」
「あぁそうだ、それがSBの判断だ。俺達は警察や自衛隊じゃない。あくまで対ヴァンパイア組織なんだ」
「銀次さんはそれでいい訳?」
ハジメだけではなく、第Ⅶ班全員が同じ気持ちだった。
ルナも銀次の表情を伺うようにそう問いかけた。
銀次は少し間を空けてから「そうだな」と切り出す。
「緊迫した状況下で物陰から突然何かが出てきたら俺は撃ってしまうかもしれない。それにお前らが襲われている時にソイツがヴァンパイアかどうか確認せずに撃つかもしれない。俺達は組織の人間なんだ。通常なら組織の決定に従うのは当たり前の話」
そこで銀次は一度言葉を句切った。俯くルナ達の表情を眺めながら銀次は右手で頭を搔いて次の言葉を発する。
「なんだがなぁ……結局従わないから俺は出世出来ないんだとよく言われる。まぁ、夜間に攻めるのは出来るだけ一般市民を巻き添えにしない為のSBの配慮だと思う。俺も一般市民は巻き込まないようにするつもりだ。なるようにしかならんがな」
いつもの銀次の言葉にその場の空気が少し緩む。
「細かい指示は現地で言う……各自準備して出発だ!」
皆が銀次に応えた後、武器庫にて準備をしてから車に乗り込んだ。
現地に到着するとすでに各班が突入準備を済ませて待機していた。
作説開始まで待機を言い渡されたルナはAOVシリンジ銃を片手に、改めてそのフォルムを眺めていた。
本体外観はシルバーでやや角ばった形。リボルバー部には四本のシリンジがセットされていて中に満たされた液体はルナの瞳と同じ碧い色をしていた。引き金を引けば針が刺さり、新薬が体内に注入される仕組みになっている。
不安げにシリンジ銃を眺めるルナを見て鉄平が声をかける。
「どうした?」
「これ、いらないんだけど」
ヴァンパイアの力を使う。それはコアを投与されたあの時と同じように暴走してしまうのではないかとルナは危惧している。
何も言わなかったが、そんなルナの思いを鉄平も感じ取っていた。
「自分に打つ為に持って行くんじゃない、皆の為だ。もしかしたら俺が死にそうになるかもしれないだろ? そん時の為にも一応持っといてくれよ」
「でも……」
「このAOVは仲間の命を守る為の治療薬だ。そう思って、な?」
「分かった。鉄平は弱っちいから。しょうがないから持ってく」
ルナはそう言って右太ももに取り付けたベルトにAOVシリンジ銃を収納した。
少し緩んだルナの表情を見て、鉄平も目尻を下げた。
程なくして各班長達が動きを見せる。第Ⅶ班の班長である銀次もまた自班が待機する場所に戻ってきた。
「よーし! そろそろ時間だ! 俺とハジメ、ルナと鉄平、コウタとレイでバディを組む! ノエルは全員の援護と補給! 出来るだけ新薬は危機を感じるまで使うな! 相手はシーヴェルトだけじゃない。コアを投与して感染させる事が出来るゲヒルン。そしてまだリッターも残っている。厳しい戦いになるかもしれない……けど……誰も欠けるな。必ず全員生きてこの任務を終わらせるぞ! 突入だ!」
ルナの瞳に決意が宿る。それはこの場にいる全員と同じものだ。
――――今日ここで……終わらせる。
各班長の合図を皮切りに、銃声にも似た足音を響かせて隊員達が建物へと突入していく。
第Ⅳ班から順番に、第Ⅴ班、第Ⅵ班、そして第Ⅶ班が建物内に侵入した。
銀次達が広いロビーに進入すると第Ⅵ班が階段を使って地下へと向かっていく。設置されているエレベーターは電源が落とされていると、先に突入した第Ⅳ班から報告があったからだ。
それも想定内で、事前に図面を調べていたサラから地下へ続く階段の場所を聞いていた。第Ⅵ班を先頭に地下へと進む。それほど長い階段ではないので降りる事に苦を感じない。面倒なのはその階段が地下一階までしか繋がっていない事だった。
地下二階に降りるにはまた違う階段を使わなければならない。
第Ⅵ班はクリアリングをしながら銀次に手で合図を送る。この地下一階は第Ⅵ班が制圧するとして銀次達に先へ進むように促した。
さきほど降りてきた階段と対角線上に地下二階へ降りる階段が設置されている。
いくつかの蛍光灯が明滅しているだけでフロアの中は暗い。銃の先端に取り付けたライトの光線がいくつも行き交う。だがそれでも視界がいいとは言えなかった。
「がぁっ!」
「うわぁぁっ!」
銀次やルナ達が第Ⅵ班とは違う通路から階段を目指そうとしたその時、銃声と呻く声が響く。それを皮切りに音は広がっていくように至る所で聞こえてきた。
銀次達は立ちはだかるヴァンパイアを退けて通路を抜け階段に辿り着いた。
「このフロアの制圧は第Ⅵ班に任せて俺達は地下二階へ降りるぞ」
銀次はそう言うと階段を降りる。ルナ達もその後に続いた。
地下二階は研究室が並ぶフロアだった。奥へと続く通路を挟むように上半分がガラス張りの部屋が並んでいる。ルナ達の見える範囲にヴァンパイアの姿はなく、物音もない。
銀次がライトで照らしながら中を覗くと、部屋の中には研究に使う機器や薬品が数多く並んでいた。
突如として静けさを切り裂く銃声とガラスの割れる音。
全員が反射的に身をかがめて銃弾を避ける。
銃弾は部屋の奥から発射されたものだった。
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