マンドラゴラ研究序説

木船田ヒロマル

マンドラゴラ、襲来

『マンドラゴラの記事を書きませんか?』

「はい?」


 編集のKさんと話すのは久しぶりだった。

 僕がラノベの賞を獲ってデビューしたての頃、ライターの仕事をやってみないか、と声を掛けてくれたのが冬季火出版のKさんだ。

 あれから10年。受賞したラノベの方では芽が出なかったけれど、良縁に恵まれてやもめ男一人ならなんとかライター業の文筆で食って行けている。そう言った意味で、Kさんは僕の恩人と言えた。


「久しぶりですね。相変わらず冬季火出版で?」

『まあね。楽しいことばかりじゃないけど歳も歳だし、女房子供がいたら簡単にはやめられないよ』


 本人は加齢を強調したが、電話越しに聞く声は最後に話した五年前と何も印象が変わらない。


「で、なんです? マンドラゴラ?」

『そ。知ってる? ネットでは今マンドラゴラが、ちょっとしたブームなんだよ』

「……マンドラゴラが、ですか? マンドラゴラってあのハリポタとかTRPGとかに出てくる抜くと叫ぶ人面ニンジンみたいなやつ?」

『そうそう。8千から1万字で。週明けに一回見たい。1万円の仕事』

「載る媒体は?」

『新しい好事家向けのwebマガジンでね。詳細は言えないんだけど』

「マンドラゴラについて何を書けば?」

『なんでもいいよ。エッセイでも小説でも。1万字に収まってたら』


 週末には仮面ライダーの映画でも観に行こうかと思ってたんだけどな。1万字1万円なら美味しい仕事だ。Kさんはライターの世界への扉を開いてくれた恩人だし。


「分かりました。やりましょう」

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