第400話 式典も終わり村に帰って日常の仕事へ戻った。

人間領で行われた式典の次の日。


現在俺は自分の家に居る、妻達は各々の仕事に向かっている時間だけど。


俺は未だ寝間着で寝室に留まっている。


何故か。


ぐでんぐでんに酔っぱらったダンジュウロウ・リッカ・シモンの3人が、俺をがっしりと掴んで寝ているからである。


リッカに至っては色々と危ない位置に頭があるので下手に動けない……変な誤解が起きなければいいけど。


式典を終え新しい味のフライドポテトに釣られた2人は、急ぎの公務が無いのをいいことにそのまま村へ着いてきた。


そこまでは別にいい、自分の職務怠慢で周りに迷惑がかからないならな。


実際そのフライドポテトの他にも、色々と新作が出ていたので全て人数分持ってきてもらっていると……そのまま宴会状態になった。


堅苦しいことが終わった後だからと、俺も安易に許可して結構などんちゃん騒ぎになったのがいけなかったかもしれない。


そのまま盛り上がり、ダンジュウロウからリッカとシモンの昔話を聞かされていた。


あんな流暢に喋るダンジュウロウを見たのは初めてだ、村に訪れている時は人間領に比べてかなり喋るようになっていたが昨日はそれ以上だったな。


ちなみに食べきれなかった分は、一緒に村まで来たマックスが食べていたのを確認している。


流石だ。


マックスの講義のスケジュール調整もしなければならないのだが、この状態じゃあな。


それとエルケからも大事な報告があがってきている。


パーン族の上位が島の地図及び漁業技術の確立を完了する一歩手前だそうだ。


思ったより早くてびっくりしているし、脱走者も0なことにさらに驚く。


上位はともかく私兵の数人は逃げると思っていたんだがな、村の料理に引っ張られたか上位の人望か……それとも他に理由があるのだろうか。


そのあたりは機会があれば聞けばいいだろう。


とりあえず今はこの状況を何とかしないと……リッカの頭の位置がそこじゃなければさっさと起こすんだが。


下手に動いて誤解されるのはごめんだからな、人間領の長であり親のダンジュウロウも隣に居るし。


「んぅ……。」


やばっ……リッカがもぞもぞと動き出した!


そのまますっと起き上がってくれよ……。


ぐにっ。


「うおぁっ!」


リッカの体重が俺の股間に圧し掛かって、俺は思わずうめき声をあげてしまった。


「どうした村長っ!」


「手、手をどけてくれ……!」


「え?」


リッカは俺のうめき声を心配していたが、俺の言葉を聞いて手の位置を確認した後、顔を真っ赤にして無言でビンタされた。


事故だし理不尽だと思う。




「村長……すまない……。」


「いや、いいよ。」


あれから親子3人は全員起きた、昼までには起きてくれてよかったと思っている。


リッカはぺこぺこと頭を下げて謝っているが、実際事故なので怒りもしなかった。


「さて、それじゃマックスの所に行って講義の日程を決めてくるとするよ。」


「そうだ村長、マックスの件で私が言っていた事を覚えているか?」


「あぁ、もちろんだ。

 それもついでに聞くつもりだよ。」


ダンジュウロウの言葉に返事をすると「よろしく頼む。」と真剣な顔で念を押された。


この間もそんな感じだったけど、一体何があるんだろうな。


「では遅めの朝食に行くとしよう。

 シモンは……まだ起きれそうにないな。」


シモンはお酒が弱いのに無理をしたのか、顔を青くしてまだベッドで横になっている。


腕を離してくれたのはいいけど、そこで吐かないでくれよ?


「僕も朝食に行くよ。

 着替えてくるから食堂で落ち合おう。」


そう言ってリッカは部屋を出て自分の家へ着替えに戻った。


俺も着替えるとするか。


そういえばダンジュウロウの着替えはあるのだろうかと思い尋ねようとすると、外行きの服を脱ぐといつも村で着ているラフな服が見えた。


「動きづらくないのか?」


「仕方ないだろう、こんな服を持ってるのが人間領の家臣にバレたら何を言われるか。」


そんなものだろうか、無理に隠さなくてもいいと思うけどな。




食堂に到着すると、リッカが先に到着して席を確保していた。


「おーい、村長ー。」


リッカが手を振って呼ぶので俺もそちらへ向かう、だがリッカの他にもう一人居る。


「村長、ご無沙汰しております。」


「マックスか、帽子をかぶっているから分からなかったよ。」


マックスは席を立って俺に一礼をしてきた、相変わらず礼儀正しい。


「マックスもまだ朝食を取ってなかったのか。」


「これはこれは、ダンジュウロウ様……。

 昨日少し遅くなりましてな、年寄りなのですが珍しく遅く起きてしまいまして。」


「元気ならそれで良い。

 それにこんなまたとない機会だ、例の件は村長に伝えるのだろう?」


ダンジュウロウとマックスの世間話の中で、俺に何か伝える話題が出てきた。


それを聞いたマックスは真剣な顔で頷く、ダンジュウロウは少し残念な顔をしている――ますます何を伝えてくるか分からない。


少し呼吸を整えるマックス、気にはなるがそこまで覚悟を決めて伝える事ってなんだろう。


「村長――この老いぼれを村へ移住させてくれませぬか?」


「え、いいぞ?」


特に断る理由も無いので二つ返事で快諾すると、ダンジュウロウもマックスもポカンと口を開けたまま固まってしまった。


え、もしかして伝える事ってこれか?


なんでそんな悩んでたんだろう。


それより今は朝食だ、ちょうど運ばれて来たし。


ほら、2人とも冷めないうちに食べるぞ。


驚いた理由は後で聞かせてもらうけどな。

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