第217話 シュテフィが放つ魔術の威力がとんでもなかった。
「村長、そろそろ出発のお時間です。」
ウェアウルフ族が俺を起こす声が聞こえる、結構寝たつもりだがやはり野営はそこまで疲労が取れないな……。
自宅のベッドが恋しい、だが俺が居ないとダンジョンコアを持ち帰れないし我慢するしかない。
隣ではラウラがまだすぅすぅと寝息を立てている、昨日は混乱してたが落ち着いたようで良かったよ。
「ラウラを起こして準備をしたらテントを出るよ。」
「分かりました、お待ちしております。」
俺はラウラを起こして軽く身だしなみを整える、少し汗をかいてるので着替えたいが水浴びを出来る場所がなかったので我慢だ。
ラウラも目をこすりながら櫛で髪を梳かして準備をしている、ラウラの髪は結構長いんだが片手でやるとは器用だな。
「落ち着いたか?」
「はい、昨日は混乱して申し訳なかったです……。
ですが自分の属性が知れて良かったですよ、うまく使えるように鍛錬をしなければですね。
方法を考えるところからですけど。」
確かにな、当たったものを消滅させる属性なら的も考えなければいけないし……誰かが受けるにしても威力を減衰しきれなければ大事故だ。
強力なだけに鍛えにくいという難点もある、そのあたりは他の人の意見も貰ってより良い方法を取ればいいだろう。
準備と片付けが終わったのでテントから出る、俺とラウラが出ると同時にテントの解体が始まった。
待たせてしまってすまない、手伝おうとしたが「大丈夫ですよ。」とやんわり断られた。
片付けの仕方は知らないけどちょっと悲しい。
「皆準備が整ったようだな、片付けも良し……では出発するとしよう。
これから出会った魔物はシュテフィ殿とラミア族に任せる、ドワーフ族とアラクネ族により正確な報告が出来るまで存分に魔物を討伐してくれ。」
「分かりました、ふふ……久々に本気を出してもいいのですね。」
ラミア族が不敵な笑みを浮かべて手甲を見る、長い舌で舌なめずりをしているのでより不気味だ……ダンジョンを倒壊させないようにな。
「上級魔術を使っても大丈夫かしら……下手したら落盤なんて洒落にならない状況に陥りそうで怖いんだけど。
でもどれくらい威力が上昇してるか確かめるべきよねぇ。」
「中級とかに威力を下げればいいんじゃないか?」
シュテフィが心配そうにしていたので意見してみる、威力が高すぎるなら下げればいいと思うし。
「中級魔術以下の魔術なんて長らく使ってないから程度が分かんなくて。
上級魔術ならすぐ分かるのよ、いちいち敵に手加減するほど魔力量に困ったことが無かったから。」
潤沢な魔力を持つゆえの悩みだな、確かに敵意を持った者と戦闘になって手を抜く理由はないだろう……さてどうしたものか。
「私は上級魔術を打つつもりですが……シュテフィさんも打ってみてはどうです?」
案外ラミア族って血気盛んなんだな、戦闘が好きな種族なんだろうか。
村の住民はそういう種族が多い気がする、戦いなんて無いに越したことはないが戦力を確保できるのは防衛面を考えるといい事だ。
「大丈夫かしらね、封印される前は他の人と比べても威力が桁違いだったから不安なんだけど。」
「ではラミア族から先に確認をさせてもらっていいですか?」
「えぇ、大丈夫よ。」
とりあえず最初の魔物をラミア族が請け負うらしい、やっと攻撃魔術が見れると思うと少しワクワクする。
しばらく歩くとこの先に魔物が数体固まっているとラウラから報告が入った。
「この通路の先ですね。」
「では早速……はぁぁっ!」
ラミア族が構えて通路を全て塞ぐような極太レーザーを放つ……え、上級魔術ってそんなとんでもない物なのか?
壁にレーザーが当たったのがズドゴォォォン……とものすごい轟音がダンジョン内に響き渡る。
これは……物凄いんじゃないか?
「……っふぅ。
確かに威力は上がりますね、一回り以上光線の太さが変わってますし速度も上がってました。」
「ダメだわ、その感想を聞いたら私はここで上級魔術を打てない。」
ラミア族の魔術を見たシュテフィが諦めたような態度を取る、どういうことだろう。
シュテフィの態度を見たラミア族も少しムッとしている、威力が上がってこれくらいかと思われたのが嫌なのだろうか。
「そんな怖い顔で見ないでよ……次の魔物に手甲も装飾品も無しで上級魔術を打つから、それを見れば理由が分かると思うわ。」
「弱いと思われるのは癪ですが、シュテフィさんの魔術を見て判断しましょう。
もし期待外れなら怒っちゃいますからね。」
ケンカはやめてほしいが、ラミア族の気持ちも分からないでもないな。
若干……いや、大分煽られてるようにも取れるし。
「シュテフィ殿、そこまで威力が出せるのか?
地下で戦った時はそれほどでもなかったが。」
「あれは地上に影を送ってたしノームに相当魔力を渡してたからよ。
身体能力こそ少し落ちてたけど魔力量と魔術の威力は全盛期と変わってないからね?」
少し得意気な表情で話すシュテフィ、ラミア族が少し怖い顔をしてるからそのくらいにしておけよ?
「魔物ですよ、さっきより強い個体みたいですが。」
「問題無いわ、ちょっと私より後ろに居てくれないかしら?
オスカーは別に前に居てもいいわよ?」
ラウラからの報告を聞いたシュテフィが手に魔力を込め始める、それを見たオスカーは目を見開いて後ろに下がった。
「冗談はよせ、そんなものワシでも止めるのに一苦労だ。
もうすぐ最奥だ、ダンジョンを壊しすぎるなよ?」
「少々手加減するから安心して。」
オスカーにそこまで言わしめる程なのだろうか、ちらっとラミア族の顔を見てみると顔色が真っ青になっている。
俺には何か凄そうだという感想しか出てこない。
「魔力増幅を行わないでこんなことになるんですか……!?」
ラウラに続いてラミア族が少し混乱し始めている、俺には分からないがそんなにすごいのか?
「はぁぁっ!」
シュテフィがラミア族の放った上級魔術と同じものであろう魔術を放つ、それはラミア族が放ったものより一回りどころか二回りほど太い極太レーザーが放たれる。
速度も段違いだ、ラミア族のレーザーは俺の目にも少し伸びていくのが見えたが……シュテフィの放ったそれは既にそこに存在していたかのように展開されていた。
「ふぅっ……手甲と装飾品をしたまま打てない理由は分かってくれたかしら?」
ラミア族の時よりすごい轟音を轟かせながらシュテフィが問いかけてくる、俺に聞かれても困るが頷くことしか出来なかった。
魔物の存在は消滅したとラウラからの報告も入る、それは全員分かってると思うけど……律儀だなラウラは。
ラミア族は首を人形のようにブンブン縦に振っている、そんなにしなくても分かってもらえると思うぞ。
「炭鉱夫なぞしなくとも地上で充分その力を活かせる仕事はあるだろうに。」
オスカーも感心したのかシュテフィに仕事の鞍替えのようなことを持ちかける、俺もそう思うけどシュテフィは採掘に役立ってくれてるから強くは出れない。
「徒手格闘で勝たないと面白くないじゃない、生まれ持った才能を否定はしないけど……これで勝っても満足感が得れないのよ。
それに消し飛ばしてしまうとはく製に出来ないし。」
思ったよりシュテフィは肉体言語が好きなのかもしれないな、そういう印象はなかったんだが……。
「とりあえず今回の報告はラミア族にお任せするわ。」
「分かりました、まさかあそこまで威力が高い魔術を打てるとは思いもしませんでしたよ。」
俺も思わなかった、だが個々の戦力が知れたという意味では収穫はあったと考えよう。
その後最奥まで到達してダンジョンコアを回収し再錬成、魔物の発生は無くなったのでそのまま地上まで向かいもう一晩外で寝て村へ帰ることに。
「何か私の属性の判明がシュテフィさんに全部持っていかれた気がするんですが。」
テントの中で少し不服そうに頬を膨らませるラウラ、そんな事は無いから安心してくれよ?
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