第45話 ミノタウロス族の移住が決定した。
グレーテが来て数日、もうすっかり陽の季節だ。
この時期になると雨が少なくなり、農作物に大打撃を被っていたらしいがこの村には関係ないのでいつも通り。
農作物と言えば、種蒔きと収穫の過程をカタリナの生活魔術で構築出来たとのことなのでやってもらった。
結果、食堂と貯蔵庫に運び込む人員だけ居れば事足りることが判明。
さらに住民の手が空いたので技術交換をさらに密にしてくれと伝える。
グレーテは「私の仕事が減りました……。」としょげていたが、鍛錬と狩りを手伝ってくれているので大丈夫だぞ。
それに、状態異常回復スキルがつわりに効くことが判明して、メアリーと妊娠しているケンタウロス族がものすごい感謝をしていた。
ウェアウルフ族を始め、他の女性から「私の時も頼むわね!」と詰め寄っていた、グレーテは気圧されて顔が引きつっている。
ずっとここで暮らすわけじゃないんだから、頼りすぎるなよ?
「なら今のうちに仕込まなきゃ……。」とか生々しい言葉を小声でつぶやかないでやってくれ。
子どもが出来るのは喜ばしいことだが、授かりものなんだから無茶をするな。
「グレーテ、頼んでたものが出来たぞ。」
そう言って、オレイカルコス製の短剣を渡す。
2本作って
「エンチャント付き!?
え、いいんですか……これ1本のせいで戦争が起こりそうなんですけど……。」
未開の地で強くなったと言えばなんとかなるだろう。
グレーテは「大丈夫かなぁ……。」と不安そうにつぶやいていたが、手に負えないと思ったら返してくれたらいいからな。
嬉しいのは事実らしいので、早速試し切りに行ってくるみたいだ。
気を付けるんだぞ。
農作業も片付いたし、散歩でもするかと村の中を散策していたら俺を呼ぶ声が聞こえる。
どうしたんだ?
警備が呼んでいるので、そちらを見るとミノタウロス族が2人門の前に立っていた。
この前の提案の話をしにきたのかな?
門の前に行くとミノタウロス族が2人とも跪いて礼をしてきた、なんだどうした。
「私はミノタウロス族の長、ヤンと妻のペトラです。
この前は一族の者が無償で食事を頂いたとのことで……ご迷惑をお掛けしました。
その者から聞いたのですが石炭と食糧の交換か、この村への移住を提案してくださったとか。
移住の方向で話を進めたいのですが、お時間よろしいですかな?」
「俺はこの村の村長の開 拓志だ。
時間は大丈夫だし、移住も問題ないぞ。
ここで話すのもなんだし俺の家へ来てくれ、そこで話を詰めよう。」
そう言って2人を俺の家へ招き入れる。
「失礼いたします。」
「ま、遠慮なく。
村としても移住してくれて人手が増えるのはありがたいからな。
しかし炭鉱を捨ててまで移住するのか、氷の季節を見据えてか?」
「それもありますが、石炭の採掘量がここ最近減ってきているのです。
炭鉱夫のトップの話では、近いうちに食糧と交換をするほど掘れなくなるだろうという見解でした。
世話になった一族の者から、こちらに移住すると石炭も採掘出来て移住も認めてくださるとのことなので、相談に伺った次第です。」
なるほど、確かに採掘量が減るのは生業にしてる以上死活問題だ。
「石炭を採掘出来るようにするのは確かに可能だが、他の鉱石も採掘出来るんだ。
今はドワーフ族がその仕事を担っている、そちらに合流して選別と採掘をすることは可能か?」
「大丈夫ですよ、石炭が主に採掘出来るだけで他の鉱石も発見すれば採掘はしていますからね。
その意見が出るということは移住を認めてもらえるのですか?」
「もちろんだ、準備が出来次第いつでも来てくれ。
荷物が多いならこちらから警備と運搬の人員も派遣することが出来るぞ。」
そう言うと、ヤンとペトラは泣きながらお礼を言い、人員の派遣もお願いされた。
ウェアウルフ族とケンタウロス族といい、かなりギリギリのところでずっと生きてきたんだな……。
採掘している石炭もあるので、他の生活用品を考えると1往復じゃ厳しいらしい。
家で休んでたラウラとクルトに頼んでローガーとハインツを呼んできてもらおう、相談して人員派遣に行ける部隊を組んでもらわなきゃな。
「何から何までありがとうございます。」
「遠慮しなくていいぞ、これから村に住むんだから助け合って当然だろ?」
いろいろ話していると、ローガーとハインツが家に来てくれた。
「お呼びでしょうか?」
「ミノタウロス族が里から村に移住することになったんだが、その時に警備と運搬の人員が不足しているらしいんだ。
ウェアウルフ族とケンタウロス族から人員を割けることは出来るか?」
「それならドワーフ族と交易をしていた際の部隊を再編成すれば問題ないと思います。
荷車は何台ほど必要でしょうか?」
「ミノタウロス族が存在しているのは知っていたが、里までの距離と人数がわからないな。
警備の人数を決めるためにも大まかに教えてもらっていいか?」
各々意見をヤンに投げかけて、それぞれに説明する。
村から2日ほどらしいので、前の交易部隊でも問題ないらしい。
荷車はあればあるだけありがたいとのことなので、運搬人員としていくケンタウロス族の分だけ追加で作っておこう。
話がまとまり、交易部隊もすぐに編成出来たのでミノタウロス族の里に向けて出発出来る状態になったが問題が一つ発生した。
「他の種族が石炭や鉱石を求めて里に来ることがあるんですが、その説明をどうしましょうか。」
ハインツが困ったように俺に問いかけてくる、ドワーフ族の里と同じように看板を立てればいいんじゃないか?
「それはそうなんですが、あれは開様が行く途中に敷いてくださった街道があってこそ成り立つものです。
街道が無いと村の位置がわかりませんから……。」
あ、そうか。
なら俺も行って街道を敷きながら行ったほうが良さそうだ。
「しかし、いきなり村長である開どのが村を空けるのは問題があるのではないか?」
ローガーが心配してくれているが、カタリナも居るしメアリーも相談役くらいならこなせるだろうから問題ないだろう。
まだ産まれるわけでもないから、説明すればわかってくれるはずだ。
それに直近で解決しなきゃいけない問題も特にないしな、ちょっと話してくるから待っていてくれ。
確認したら問題ないらしい、だが別働隊を付けて街道を敷き終わったら帰ってくればいいのではないか?という意見が出た。
向こうに着いたら俺が居ても何かすることもないし、ドワーフ族の時は長老のホルストへの挨拶があったが今回は特にない。
やることと言えば片付けや荷造りの準備だろうが、俺の力じゃ力になれそうもないしな。
別働隊で俺の護衛を付けて街道を敷いたら帰ることにしようか。
じゃあみんな、日はまだ高いしさっさと準備して出発するぞ。
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