《魔力無限》のマナポーター ~パーティの魔力を全て供給していたのに、勇者に追放されました。魔力不足で聖剣が使えないと焦っても、メンバー全員が勇者を見限ったのでもう遅い~【書籍化&コミカライズ】

アトハ

一章 《魔力無限》のマナポーター、新天地へ

1.マナポーター、勇者に無能だと蔑まれて追放される

「我がパーティに戦う気もない能無しは不要! よって貴様を追放処分とする!!」



 僕――イシュアにそう言い放ったのは、世界の希望を背負って立つはずの勇者であった。


「な、何故ですか。僕はマナポーターとして、きちんとパーティに貢献してきたではありませんか!」

「魔力譲渡しか出来ない落ちこぼれが調子に乗るな!!」


 勇者は不機嫌さを隠そうともせず言い放つ。


「魔力供給役なんて、いくらでもいるんだよ! 魔法も使えず、前線にも立たない落ちこぼれの分際で。恥ずかしくないのか!」


 マナポーター、魔法を自分で使えない落ちこぼれが仕方なく成る最底辺のジョブ。

 勇者はそう思い込んでいるが、そんなことはない。


「僕がいないと、このパーティは魔力不足でまともに戦えなくなります」

「黙れ! 落ちこぼれの分際で口答えをするな!!」


「このパーティの消費魔力は、あまりに多すぎます。マナポーターが居て初めて成り立つと、国王陛下からも念を押された筈です」

「戯れ言を。おおかた貴様が取り入ったのだろう? 立ってるだけの貴様が経験値を持っていくのは目障りなんだよ!」


 立っているだけ、というあまりの言い分に言葉を失う。

 僕が必死に魔力供給をしていたのに、勇者からは何もしていないように見えたというのか。


「考え直した方が良いですよ? 魔力なしで戦っていけるほど、これから行く魔界は甘くありません」

「不要な心配だ。俺には聖剣エクスカリバーがある!」


「それを振るうにも魔力が必要だと思いますけど?」


 勇者の振るう聖剣・エクスカリバーは、膨大な魔力を消費する。

 多くの敵を葬ってきた聖剣も、魔力なしではあっさり輝きを失うのだ。



「黙れ!! レベルが上がって魔力上限も上がったのだ! 現に、今まで一度も魔力切れで困ったことはない!」

「それは僕が魔力を渡していたからです」


 聖女・大賢者・魔導剣士。

 勇者パーティには、とにかく魔力を潤沢に使うジョブが揃っていた。

 すぐに枯渇する魔力を補うために、僕がどれだけ気を遣ったことか。



「はっはっはっ。バカも休み休み言え! 落ちこぼれの貴様に、そんなことが出来るはずがないだろう!」

「それで皆は、何と言ってるんですか?」


「……ふん、話し合った結果がこれだ。満場一致だったよ。貴様はこのパーティには必要ないとな」


 勇者は一瞬言い淀んだが、そう言った。


(そうか、僕の働きは誰からも認められていなかったのか)


 勇者パーティのメンバーになった以上は、役に立とうと頑張ってきた。

 メンバーからの相談にはできる限り乗ってきた。

 良好な関係を築けたと思っていたけど――役立たずの烙印を押された僕を、慰めるためのものだったのか。



「分かりましたよ、勇者様。もう何も言いません。そこまで言うなら、僕はパーティを出ていきます」

「ふん、最初からそう言えば良かったんだよ。落ちこぼれには相応しいお似合いの末路だな?」


 勇者は愉快そうにニヤリと笑った。


 実のところ勇者パーティの肩書きに、大したこだわりはなかった。

 たしかにある種の特権を得ることは出来た。

 それでも「冒険者として一から名を上げたい」という気持ちも強かったのだ。



「最後に忠告です。少しは魔力に頼らない戦い方を覚えた方が良いですよ?」

「落ちこぼれに心配される間でもない。早く出ていけ!」


(なんでだろう。やけに急かすような)

(まるでこの場面を、必死で隠そうとしているみたいだ……)


 そう首を傾げながら――

 僕は勇者パーティを後にした。


 


 その想像は、実は間違っていない。

 この追放劇は、パーティメンバーに相談すらしていない勇者の独断だったのだ。

 取り返しのつかない転落への一歩を踏み出してしまったことを、愚かな勇者はまだ知らない。

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