第340話 兄のかたきをママで討つ

「賞金稼ぎのみんなー。こんびな~。今日は前回の雑談枠で言った通り、ショコラママと対決をしたいと思います!」


 事務所外のコラボは色々と手続きが大変だけど、ビナーのマネージャーが調整してくれたお陰で意外とあっさり決まった。


「みな様おはようございます。バーチャルサキュバスメイドのショコラです。ビナーの母です。いつも娘がお世話になっております」


「ショコラママ。今日は来てくれてありがとうね」


「いえいえ、こちらこそ、スケジュールの調整とか本当にありがとうございます」


「マネちゃんが頑張ってくれたお陰だからね。ショコラママがお礼言ってたって報告しておくね。さてと……本日対決するゲームは……ボウリング! と言っても実際にやるわけじゃなくて、ゲームのボウリングだけどね」


「いいですね。ボウリング。もちろん、罰ゲームのことは忘れてませんよね?」


「忘れるわけないよ。ショコラママにあんなことやこんなことを言わせるためにがんばるんだから。知らない人のために解説すると、負けた人は勝った人が指定したシチュエーションボイスを言わなければならないってルールなの」


『罰ゲームたすかる』

『丁度ボイス切らしてた』

『ASMR?』


「残念ながらショコラママの環境が整ってないせいでASMRはなしかな。ごめんね。条件を平等にするためにも私が負けた場合もASMRはやらないの」


『なんだよ。言ってくれたらショコラちゃんにマイクプレゼントしたのに』

『欲しいものリスト作ってくれたらいくらでも買うよ』


「ちょっと、そのASMRへの執着はなんなんですか。もう!」


 今のままのマイクでも十分やっていけるから、ASMR用のマイクはいらないかと思っていたけれど……ここまでリクエストの声が多いなら買わざるを得ないのかな。まあ、ネコミミを発売したことによる諸々の利益で買えなくもないけれど。


「そろそろ始めようかな。部屋立てるね」


 ビナーが部屋を立てて、そのルームにショコラを招待してくれた。俺はその招待を受けてビナーのルームに入る。


「入りました」


「お、ショコラママのMeミーがそっくりじゃないですかー!」


 このゲームは色々なスポーツのゲームが収録されていて、Meと呼ばれるアバターでプレイすることができる。そのMeをショコラの姿に寄せて作ったのだ。自由に3Dモデルを作るのはもちろん楽しいけれど、Meのように色々な制約がある状態でデフォルメキャラを作るのも中々に悪くない。やはり、こういうので楽しんでしまう時点で俺は本質的にクリエイター気質の人間なのかもしれない。


「いいなー。私も自分そっくりなMe作りたいな」


「バタフライマスクのオプションってありましたっけ?」


「なかったね」


『これは開発に作ってもらうしかないな』

『バタフライマスクがないビナーとかビナーじゃない』

『本体がないならビナーである意味がないからね』


 最早バタフライマスクが本体扱いされているビナー。正直、ビナーのモデリングをした時にはウケるかどうか不安な部分もあったけれど、蓋を開けてみたら好評だったのが救われた。


「ショコラママってボウリングのスコアって最高いくつ出したことあるの?」


「そうですね。110くらいでしょうか」


『思ったより高かった』

『高っ!』

『女子で100超えてるのは凄いね』


 女子じゃないから別にそこまで驚かれるような数字じゃないんだよな。


「ふふん。勝った。私は最近170を超えたんだ」


「え!?」


『草』

『こんなの半分ゴリラじゃん』

『ビナーは身体能力オバケだからしょうがない』


 確か……真珠もつい最近170超えたって言ってたよな。まさか……! いや、そんなはずはない。けれど、これが指し示している事実は1つだ。


 最近の女子は平然とそれくらいのスコアを出せる! もしかして、若い女子の間でボウリングがブームだったりするのか? なんか110でドヤってたのが恥ずかしくなってきたぞ。


 なんか始まる前から負けた気分になってきた。今から喉の調子でも整えておくかな。罰ゲームでどんなことを言わされるんだろう。あんまりエッチだったり、媚びすぎているのは嫌だな。


「じゃあ、ボウリング最高スコア170の私に無謀にも挑んできたショコラママを返り討ちにするゲームが始まります」


 ビナーも勝った気でいるな。どうにかしてわからせてやりたいけれど、どうすればいい。


「先行は私からですね。行きます!」


 俺はボウリングの玉を投げた。玉は案外真っすぐ進みピンを倒す。続いて第2投も順調で合計7本と初手にしては、まあまあの成績を残した。


「ふふん。ショコラママ、いいのかな? そんなスコアで。私の実力を見せてあげる」


 ビナーが不敵な笑みを浮かべながらボウリングの玉を投げた。そのボウリングの玉はカーブして……ガターとなった。


「え?」

「え?」


『????』

『何が起こった?』

『!?』


 俺は混乱した。ビナーも混乱している。リスナーも何が起きたか理解してない。170スコアを取ったと散々自慢したビナーがまさかの芸術的なガター。


「い、今のはハンデ! そう、ハンデなのです! まあ、最初だから? ストライクでもスペアでも変わらないかな? って。2投目に全部倒せば問題ないから」


 ビナーの声が明らかに震えている。ビナーも想定してなかった事態が起きたのかもしれない。


 ビナーがもう1度投げる。玉は徐々に溝に近づいていき……そのまま1本も倒すことなく、溝へと吸われて行った。


「えー……」


 ビナーが明らかに困惑している。リアルのボウリングでは170超えのスコアを叩き出したのに。


「もしかして、ビナー様。ゲームだと弱くなるのでは?」


「!?」


 確かに実際に投げるボウリングと照準を合わせるシミュレーターみたいなゲームとは勝手が違うのかもしれない。というか、むしろ運動神経が良すぎる分、その調整を筋肉が覚えていて、反射的に正解の動きをするのか? だとしたら、ゲームのボタン操作だとそれが発揮されなくて、このような体たらくになっているのかもしれない。


 その後もゲームは続き、この調子のまま進んだことで、最終的なスコアはショコラ108、ビナー43というダブルスコア以上の大差をつけてショコラが勝利をした。


「これは完全に予想外だった……うう、悔しい」


 なんか知らないけど運動神経良い芸人であるビナーに勝ててしまった。


「ビナー様。お約束通り、あのセリフを言ってください。罰ゲームの内容を今からメッセージに送ります」


「あー……やだなあー、でも負けちゃったから仕方ないか」


 覚悟を決めたビナーは俺が考えたシチュエーションを演じ始めた。


「どうやらもう逃げ場はないみたいね……おめでとう賞金稼ぎ君。あなたの勝ちだよ。あなたとの命がけの追いかけっこ楽しかったな。でも、捕まったのが他でもないあなたで良かった。好きな人に捕まるんだったら悔いはない……覚悟はできている。さあ、あなたの手で私を捕まえて」


『こんなの捕まえるに決まってる』

『馬鹿野郎、ここはあえて逃がしてからの『どうして私を逃がしたの? まさか……』ってフラグを立てるところだろ』

『賞金目当てで警察にビナーを突きだす奴いる? いねえよなあ? あ、捕まえてからのお持ち帰りしまーす』


 なんか寝る前に適当に書いたセリフなのに、無駄に好評だな。まあ、ビナーの演技力もあるんだろうけど。


「あー、もう。恥ずかしい。うぅ……本来ならショコラママがこの屈辱を味わうはずだったのに」


「ははは。まだまだ母親越えはできないようですね。またいつでも挑戦してください」


「もちろん。絶対にショコラママに恥ずかしいセリフを言わせてみせる!」


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