第329話 収益化記念炎上

 無事にカスタードとホイップのチャンネルの収益化申請が通り、これからは活動することで金銭が貰えるようになった。収益化が通るのとそうでないのとでは活動に対するモチベーションが違ってくる。きっと暁さんも喜んでいることだろう。


 収益化を記念して同じ箱のメンバー3人で記念生放送をすることになった。このタイミングでナツハさんの庭園の改修も終了したのでそのお披露目もこの記念生放送で行う予定だ。


「お屋敷の中から失礼します。バーチャルサキュバスメイドのショコラです。本日は、カスタード様とホイップ様のチャンネルの収益化が通ったのでそのお祝いをしたいと思います」


『おお、おめでとう』

『これからはホイップちゃんに貢げるんですか?』

『カスタード君の養分になれると聞いて』


「丁度、庭師のモンブラン様もお庭を整備し終えたみたいですので、新しい庭園をバックに色々と語り合いましょう。それでは、庭園に移動しますね」


 ショコラがジャンプするアクションをすると、場所がお屋敷の中からお屋敷の庭に移った。確かに今までの殺風景な庭と違って、中々に芸術点が高い庭に仕上がっている。葉が切りそろえられている木々は主張しすぎずに庭全体に溶け込んでいる。噴水も作られていて、全体的な見映えも整えられている。


「おお、綺麗なお庭に仕上がりましたね」


「ありがとうショコラ。炎上対策に噴水の水を用意したんだけどどうかな?」


「この噴水は私の炎上対策ですか……流石の私もこのめでたい放送で炎上事件は起こさないので安心してください」


『え?』

『炎上を見に来たのにないの?』

『新参へ。これはショコラちゃんのフリだから、炎上はあります』


「どうやらコメント欄のショコラブは訓練されているようでございますね」


 本日の主役がしれっと登場した。


「ホイップ様。おはようございます。本日は収益化が無事に取っておめでとうございます」


「ありがとうございますショコラ。あなたのサポートのお陰でもありますわね」


『ショコホイてえてえ』

『新しいカップリングが出来てますねえ』

『ショコビナ派だったけれど、最近はショコラちゃんがネグレクト気味でビナーとの絡みがないのが辛い』


「ちょっと。ネグレクトキャラを押し付けるのはやめて下さい。大人の事情でビナー様に絡みにいくのだって大変なんですからね」


『相手は企業勢だからね。コラボするならその辺の調整もしっかりやらないといけないから』


「そうなんですよね。まあ、最近は私も色々と忙しかったですからね」


 コンテストの作品制作や箱を立ち上げるための作業とか本当に大変で、他のVとコラボをしている暇はなかったのだ。


「今日はお祝いの席ということでバーベキューの道具一式を用意した。肉や野菜を串焼きにしながら次の企画に移ろうか」


 モンブラン……というかナツハさんが用意してくれたバーベキュー道具一式の3Dモデル。本物に近いリアル志向で、中々に出来が良い。モンブランが火を入れる作業をしている。


「さて、モンブランが火を起こしている間、わたくしがひそかに募集しておりましたショコラちゃんに言って欲しいセリフ。それをショコラに言ってもらう企画ですわね。わたくしのお願いを快く受け入れてくれたショコラに感謝です。あは」


 いつの間にか流れでショコラが視聴者から募集したセリフを言う流れになった。俺としては本日の主役のホイップが言うべきだと思ったのだけれど、ホイップのお願いという名目なら、主役のお願いを叶えないわけにはいかない。そんなちょっと歪な形のお祝いとなった。


「それでは、ショコラの画面に言わせたいセリフを表示しますわー。えい」


「えっと……これを言うんですね。こほん……ご主人様ぁ。お仕事お疲れ様です。今日くらいは私に甘えてもいいんですよ? ふふ、いい子いい子よしよし」


 どこに需要があるのかわからないセリフを感情を込めて言う。普段の俺ならばお願いされたところで絶対に言わないセリフだ。けれど、今の俺は賀藤 琥珀という存在ではなく、ショコラのガワを被っている。だから、割と抵抗なくこんな恥ずかしいセリフも言えてしまうのだ。


『あ……』

『昇天しそう』

『ママー!』


「愛情の中に色気が混ざった良い塩梅のセリフをありがとうございます。ご馳走様でした」


「そういう解説はやめてください。正気に戻ったら死にたくなります」


「きゃは、恥ずかしがってはダメですわ。こういう演技は思いきりが大事なのですから」


 演技か……俺には縁遠い世界だな。俺は役者とか俳優だとかそういうのには感情的に向かないのかもしれない。どうしても恥を捨てきれない部分があるのかも。


「では、続いてのセリフをお願いします」


「はい……ふふ、ご主人様は私が好きなんですか? 全く、自分が雇っているメイドに欲情するなんていけない人。でも、そんなご主人様のことが……す・き」


『これはセクシーキャラ名乗っても許されますわあ』

『ショコラちゃんってセクシーキャラだったんですね』

『今までポンコツ扱いしてごめんなさい』


「何言ってるんですか。私は元からセクシーキャラだったじゃないですか」


「そう思っているのはショコラだけですわ。でも良かったじゃないですか。今日のこの配信でセクシー路線もいけるってイメージがつけて」


 ホイップの雑な励ましを受けるもなんか釈然としない。なぜ、ショコラはセクシーなイメージが根付かないのか。これは早急に解決すべき事案なのかもしれない。


「では、次のセリフいきますよ。こほん……ご主人様。四つん這いになってください……ふふ、メイドに命令されて素直にこんな恥ずかしい恰好をするなんて。変態さんですね。ふふ、犬みたいですね。可愛いワンちゃん」


 なんか一気にHENTAI度が上がった気がする。これまでも大概だったけれど、これはライン擦れ擦れだろ。そう思っていた矢先のことだった。


「ウワァン!」


 どこからともなく現れたセサミがショコラに飛び掛かった。


「きゃ!」


 ショコラがセサミに押される形で倒れる。その衝撃で、モンブランが用意していたバーベキューセットが倒れてしまい、火の物理エンジンが仕事を始める。


「え、ちょ、なに? 何が起きてるんだ?」


 混乱するモンブラン。固まるホイップ。そして、事態を理解したショコラ。セサミに例のシミュレーターを付けたまま庭の隅っこに放置していたのだ。ショコラに対して懐いてない設定だから今までは配信を妨害することはしなかった。でも、犬は言葉に反応するようにできている。そのトリガーをショコラは引いてしまったのだ。【可愛いワンちゃん】その誉め言葉に反応したセサミは一気にショコラに懐いて突進攻撃をかましてきた。それがことの真相だった。


 燃え盛る炎。整備された庭園がどんどん侵略されていく。炎上、炎の勢いと煙が増して配信画面は悲惨なことになっている。


「あー! アタシが整えた庭園がー!」


『草』

『やっぱりこうなるのか』

『セサミGJ』


 こうして、ホイップの収益化を祝う配信なのに、炎上オチがついてしまった。折角の祝いの場を台無しにしてしまって申し訳ない。後日、暁さんに謝罪したところ「面白いからオッケーです」と快く許してくれた。


 ちなみに折角作った庭園を燃やされたナツハさんは少し拗ねていた。燃やされるために庭を作った訳じゃないと正論を言っていたものの、バーチャルの世界だからこそすぐにロールバックできるのでそこまで被害は甚大ではなかった。それ故にすぐに許してもらえたけれど……まあ、もう炎上はこりごりだ。次からはちゃんと指さし確認して「ヨシ!」と言おう。

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