第301話 底辺ライブ配信界隈地獄説
ショコラが目指すべき道はいくつか見えてきた。企業案件は……自分から取りに行くようなものなのだろうか。正直、営業とか全然自信がない。けれど、普通は打診が来るものだと思うので、自発的に動く必要はないと思う。
地上波進出は……打診よりも無理な感じがしてならない。こっちの方が枠が限られているし狭き門だ。事務所勢でもこうした案件を取ってくるのは難しいと思う。
となると今すぐ行動できるものとしては、やはり箱の設立だろうか。となると、必要なものはキャラクターの立ち絵とその演者だ。立ち絵はぶっちゃけ、俺1人の力でもどうにかなる。けれど、演者は俺が1人2役をやるわけにはいかないので、どうしても他人の力が必要になってくる。
となると、まずは演者探しから始めよう。SNSで魂募集をするのも手だけれど、できればそうした募集をかけずにサプライズ的に発表したい。と言うことは、既にいる配信者の中から光るものがある人を見つけて、誘うのが近道か? できれば、Vじゃなくてそれ以外の配信者が良いな。Vだと既にアバターを使用しているから、そのアバターの権利問題とかあるし、場合によってはアバターを変える転生が必要だ。それを嫌がるVも少なくないし、その辺がどうしても面倒なのだ。
というわけで、早速ライブ配信をしているものをいくつか覗いてみよう。できれば、チャンネル登録者数が少ない方がいいかな。こう、原石を発掘している感じがあるし、他のスカウトマンと競合しにくいというのもある。
そんなわけで、俺はライブ配信で検索かけて伸びてなさそうなチャンネルを再生した。
「会社なんて行く必要ないんや! 改革だ!」
なんか開いた早々変な言葉が聞こえてきた。なんだこいつ。中年男性が顔出ししてなんてことを言うんだ。無断欠勤中年革命家のユダ……? チャンネル名だけで情報量多いな。
「会社なんてクソだ。クズ上司に媚へつらい、カス部下からには生意気な態度を取られて、そんな会社なんて行く必要ない。それもこれも全部政治が悪い。私はこの日本社会をぶっこわーす!」
なんか多方面から怒られそうな人だな。コメントも1件もついてないし、これ以上再生したら、危ない気配がしてきたぞ。
「実はバックレする前に会社の機密情報を盗んできたんや! 今からこの情報を公開しまーす。ワイはユダや! 会社の裏切り者のユダや!」
これ以上現代日本の闇に触れる前に、そっ閉じして別のチャンネルを開こう。流石に犯罪には巻き込まれたくない。
「握力45は低いですね。正直。やっぱり握力50は欲しいです。握力50ない男性にはじんけ……」
危ない。センシティブワードが飛び出そうになったから、危機察知してすぐにチャンネル閉じてしまった。なんだろう。こう、大手のチャンネルだとほんの一言の発言でも炎上になるけれど、失うものが何もない底辺は、何言っても炎上しない可能性が高い。なぜならば、炎上に必要な知名度がないから。完全に身内だけの空間だから、そうした環境に甘やかされているんだろう。
なんというか想像の1000倍は地獄だな! かつて、勇海さんがゲーム実況していた時に使っていた名義の緋色。あの実況もぼそぼそ言ってて聞き取れないところがあったし、仮に聞き取れたとしてもトークがクソほど面白くないという魔境だったけれど……勇海さんは人を悪く言ったり、社会に対する
動画サイトは伸びているチャンネルを優遇するアルゴリズムが組まれているといった噂がある。そりゃ……この地獄を見た後だからこそ実感出来る真実がある。伸びているチャンネルは全然安心して見ることができる。最低保証が担保されているというのは、リスナー視点ではありがたいのかもしれない。新規投稿者からしたら、苦しい環境かもしれないけれど、やっぱり金を落としてくれる層は視聴者層なのだ。そこを優遇するのは企業として当然のこと。
さて、気を取り直して別のチャンネルを開こう。今度こそまともなチャンネルであることを期待してクリック!
「くたばれぇやぁー! 社会のゴミ風情がオレに楯突くんじゃねえ!」
銃撃戦の音と共に甲高い声が相手プレイヤーを罵倒している。これ以上見なくてもわかる。地獄なやつやん。一人称がオレだけど声質は女性っぽいな。まあ、知り合いに一人称が「ボク」の女子高生がいるから、その辺は触れ辛いけれども。
「はい雑魚~。プロFPSプレイヤーのオレに勝てるわけないだろ」
チャンネル登録者数108人。同接数13人。チャンネル名はナツハ。実にシンプルなチャンネル名とプロを自称している割には少ない登録者数。ツーアウトってところか。
「うきゃっきゃっきゃっきゃ。また雑魚1匹発見。これから撃ち抜いてやんよ。きゃっきゃ」
サルのように騒いでるなこの人……コメント欄もそれに同調するかのように口汚い言葉が飛び交っている。まるで動物園。まあ、もう終盤戦だから最後まで見届けようか。
「消し炭になれやぁー!」
うわ、このサルが勝ったよ。FPSで人間に勝てるサルがこの世にいたのか。凄いな。学会に発表したら大騒ぎになるんじゃないか?
「はい。結局だーれもオレに勝てませんでしたね。それじゃあ次のマッチング行きましょう」
サルのどや顔が浮かんできそうでなんか腹立つな。このまま配信を閉じるとサルに勝ち逃げされた気がするから、サルが負けたら閉じようか。
「お、早速第一村人の雑魚発見……は?」
サルが第一村人を発見したのと同時にサルが撃ち抜かれて死亡してしまった。どこの誰かは知らないけれど、最大限のグッジョブを送りたい。
「んだよもう! オレがいきなり負けるとかありえねえ。このHiroとか言うやつ絶対に許さねえ!」
サルの癖に犬みたいに吠えているけれど、満足したので俺は配信を閉じた。
結局、底辺は底辺なりの理由があるんだなと感じただけで収穫は殆どなかったな。まあ、この中からあえて選べと言われたら、あのナツハとか言うサルか? 口は悪いけれどゲームは上手いっぽいから、可能性は感じないでもない。
◇
翌日、俺はなんとなく動画サイトを開いてみた。オススメの動画欄に例のサルのアーカイブが表示されている。たった1回しか開いてないチャンネルなのにオススメしてくるなんて……サジェスト汚染が甚だしいな。
俺は一瞬の気の迷いでナツハとか言うサルのチャンネルの概要を開いてみた。そこで俺は信じられないものを目にするのであった。
「は? チャンネル登録者数184人?」
嘘だろ。機能チェックした時は100人ちょいしかいなかったはず。それなのに、たった一晩で約70パーセント程度の伸びを見せたのか?
チャンネル開設日の日付を見て、俺は更に驚愕した。その日付はなんと1週間前の日付だったのだ……! つまり、あのサルはたった1週間で180もの人を集めたのだ。そして、昨日一気に爆伸びを見せた。
これは……放っておいてもかなり伸びるチャンネルだ。多くの動画投稿者が3桁に到達できないことを考えると、間違いなく素質がある側の人間だ。下手したら1年以内にスターになる可能性を秘めている金の卵だ。
なるほど。こういうのでいいんだよ。ナツハさん。俺はあなたを信じていた。とりあえず、今のところはまだ注目株という訳ではなさそうだから、唾を付けるのは一旦保留にしておこう。でも、Vに誘う候補としては考えてみよう。このサルのような動物園スタイルが視聴者に受け入れられるかどうか。その辺の問題もあるからな。健全な配信者だったら、すぐにでも誘いたいんだけどなあ。
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