第189話 人生初乙女ゲーム
コンペが終わって、自由にショコラの配信ができるようになったけれど、ネタが全く思い浮かばない。罰ゲームの壺耐久もしなくて済むので、本当にネタがないのだ。
それとは別に彼女ができたんだから、乙女心を勉強する必要があるのではないかと思い始めた。しかし、俺のリスナー層に女性はそこまで多くない。チャンネルの視聴者層の男女比は確認できるけど、男性の比率の方が多い。視聴者に訊く企画をするのは間違っている。
その2つの悩みが見事に合致する画期的なアイディアを思いついた。思いついた瞬間、俺は天才なんじゃないかと自画自賛したくなった。そう、女性向けに作られたゲームの実況を配信すればいいんだ。
そんなわけで、女性向けゲームを色々と検索してみた。パティシエ体験できる職業モノのゲーム? これは女児向けだな。着せ替えコーデを自由に楽しめてファッションショーが開ける。服装のセンス的に小学校高学年女子が好みそうだ。低年齢層向けのゲームじゃなくて、成人女性が楽しめるものはないのか。
BLゲーム……? 18禁か。そもそも俺はプレイできないし、配信したらアカウントがBANされる。全年齢向けのもあるけど……なんだこれ、鋭利な顎だな。この顎で人を刺せるんじゃないか? 多分、師匠はBLの趣味はないだろうし、これはパスだ。
乙女ゲーム。ふむふむ。女性視点のギャルゲーみたいなものか。なるほどなるほど。これなら乙女心を勉強できるし、配信にも耐えられそうだな。よし、キミに決めた!
俺はその場の勢いで、特に内容を吟味せずに人生初乙女ゲームをダウンロード購入したのだった。
◇
「みな様おはようございますバーチャルサキュバスメイドのショコラです。本日は人生で初めての乙女ゲームに挑戦します。ネタバレが嫌なので、ゲームのパッケージしか見てません。あらすじも知らない状態ですので、本当に新鮮な生のリアクションが見れると思います」
『乙女ゲーム。やっぱり女の子じゃないか』
『ショコラちゃんは最初から女の子だろ!』
『骨格が女の子だから女の子!』
『アンチ乙! サキュバスは自由に骨格変えられるから』
サキュバスが骨格変えられる設定なんて初めて聞いたぞ。性別を自由に入れ替えることができるなら、必然的に骨格は変わるか……?
「それでは早速始めますね」
俺はゲームを起動した。メーカーのロゴが表示された後に。タイトル画面が表示された。5人のイケメンの集合絵があって、これが攻略対象かとすぐにわかった。すぐにスタートした。
クマ:ぐわあぁあん!
いきなり猛獣の唸り声のようなSEが入ると共に、大きなクマが狂暴な顔をして大きく両腕を上げて、中年男性が腰を抜かしているスチル(一枚絵)が入った。
「クマ……この前実況したホラゲもクマが出てきましたね。なんでですか。私はクマに縁でもあるんですか」
『これはクマの3Dモデルを作れというお告げ』
『セサミ以来の動物モデル来るの?』
『発売してくれたら普通に買う』
なぜか、ウチのチャンネル名物のケモノ好きは今日も元気なようだ。俺も動物系のモデルを作るのは嫌いではない。けれど、たまには人型のモデルできちんとした売上を出したいと思っている。
中年男性:だ、誰か助けてくれー!
クマのボイスというかSEは入っていたのに、中年男性の声には全く入っていない。完全なるモブキャラである。そんなに高くなかったゲームだし、モブキャラに一々ボイスは入れてないか。全キャラの全セリフにボイスをあててるゲームも最近では、たまに見かけるけど……開発費が一気に跳ね上がりそうだな。
クマ:ぐわあぁあん!
またクマの唸り声SEが入る。セリフもSEも完全なる使いまわしである。まさかとは思うけど、この使いまわしのセリフまで、シナリオライターに対する報酬の文字単価係数がかかってるんじゃないだろうな。
少女:でやぁ!
バシっと蹴りのようなSEと共に、画面が白くフラッシュする。その直後に少女がクマを蹴っている差分が追加される。うわ、この顔見たことある。パッケージに描かれている主人公だ。
「へー。乙女ゲームの主人公ってクマを蹴り飛ばせるんですね」
『それな』
『また1つ勉強になったね』
『クマすら落とせない女にイケメンは落とせない』
クマを倒せるほどの武力が必要だとか乙女ゲームの主人公は大変だな。俺は乙女ゲームの世界に生まれなくて良かった。
少女:大丈夫ですか?
ここで、スチルが消えて森の背景に中年男性の立ち絵が表示されている構図となった。
「画面に映ってるのはただの中年男性ですね。この画面見て誰が得するんですか? さっきの主人公の女の子の立ち絵を表示させた方が華がありますよね?」
『そりゃ。乙女ゲームだし、中年も守備範囲の女性を対象にしてるんでしょ(適当)』
『主人公視点だから、主人公の姿は滅多に見えない』
「あー。そういうことですか。立ち絵が表示されるシーンは主人公の姿が見えないんですね。なるほど」
『普通に主人公可愛いのにもったいない』
確かに、適当にデザインしたようなキャラじゃなくて、きっちり可愛くデザインされているのに画面に映る機会が少ないのはもったいないかもしれない。それは、俺が男だからそう感じるのだろうか。まあ、ターゲット層的には女キャラが見えなくても問題なさそうだけど。
中年男性:助かったよ。ありがとう。キミは強いね。名前はなんて言うんだ?
ディアナ:私の名前はディアナです。
中年男性:ディアナか。ありがとう。私は、王立学院スラバドールの学長だ。
ディアナ:え? あのスラバドールですか?
ディアナ:(王族や貴族の令息、令嬢が通う学校。そこにいる生徒たちは、平民の私なんかとは住む世界が違う。勉学、武芸、芸術、あらゆる分野に秀でた才能が集まる場所。正にこの国の未来を担う者がそこにはいる)
中年男性:キミは凄い。クマを一撃で倒すなんて中々できることではない。正に才ある者だ。どうだろうか。助けてくれたお礼にキミを私の学院に入学させると言うのは
ディアナ:え? で、でも……私は平民の出ですし、学費なんてとても払えません
中年男性:なにを言うか! 命の恩人から金は取りはせん! もちろん、特別特待生として学費は免除だ、
ディアナ:学費を免除!?
ディアナ:(スラバドールは高い教育水準を保つために莫大な学費がかかる。だから、私のような平民が簡単に入れる場所ではない。でも、もしその高い水準の学校に入れるなら私の将来は約束されたようなものだ。私が学院を卒業すれば、きっと家族にも楽をさせてあげられると思う)
ディアナ:決めました! 私、入学します!
ディアナ:(こうして私はスラバドールに入学することになった――)
「え? 入る学校を決めるのに、親の許可はいらないんですか? 相談はしないんですか?」
『確かに』
『真っ当なツッコミで草』
『まあ、そこは重要なことではないし、オープニングでテンポが悪いとプレイヤーがダレるから超速展開は致し方なし』
「あー。そういう都合があるんですか。なるほどなるほど。ゲームクリエイターも苦労しているんですね」
ちょっとゲーム的な都合でシナリオのガバが見つかったけれど、とにかくゲームは進んだようだ。と言っても俺は、決定キーを押して文字送りをしているだけだけど。
そして、場面が切り替わり、立派な校舎のスチルが表示された。周囲の生徒たちも校門に入っていってる光景だ。
ディアナ:(はあ……制服のお陰で服装に差はないけど、やっぱりみんな高貴な感じがする。私浮いてないかな?)
???:あら、こんなところに貧乏くさい人がいますわね
校舎を背景に、見るからに高飛車なお嬢様という感じの少女の立ち絵が表示された。
ディアナ:誰ですか?
モニカ:わたくしの名前をご存知ないのですか? 私はモニカ。アルスター家の令嬢ですわ
「なんか変なキャラがつっかかってきましたね」
『これが悪役令嬢ちゃんですか』
悪役令嬢……そういうのもいるのか。どういう存在かはよくわかってないけど、悪役だから悪いやつなのか。
―—
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます