第178話 地雷多くね?

 ツチノコとマッチョの動画を終えて、次は6作品目だ。丁度折り返し地点だ。俺の作品はまだ出ていない。そう思っていた矢先の出来事。見覚えのある光景が何度も何度もチェックした動画が画面に映し出された。白く輝く西洋風の城。昴さんに送ってもらった写真を参考にして、俺独自のデザインを加えた城。間違いない。俺の作品だ。


「今度こそまともに理解できる作品が来るんだろうなあ?」


 2連続で前衛的な作品が来たので虎徹さんが疑心暗鬼に陥っている。


「ふーん……城の造型は中々にセンスあるねー。でも、さっきの砂浜みたいにいきなりマッチョが出てくるなんて展開にならないといいねー。ね? 琥珀君?」


「そうですね。ははは」


 ティファレトさんが俺に同意を求めて来る。この作品は俺の作品だ。俺は、マッチョをモデリングしてないし、作品に登場させてない。


「で? この作品を作ったのはこの中にはいねえのか」


 虎徹さんが確認するが誰も名乗り出ない。それはそうだ。この作品を作ったのは俺なのだから。俺は表向きでは参加者ではないので名乗り出るわけにはいかない。


 映像のシーンが城内へと切り替わる。そこで【真珠の国の王女】とタイトルが表示された。ここからは、俺がどれだけ原作を忠実にアニメーションに落とせたかにかかっている。原作は素晴らしいものだ。きちんと再現さえできていれば、勝機はあるはずだ。


 豪華な薄いピンク色のドレスを身に纏った王女が手紙を見て、ため息をついた。その手紙を机に置く王女。次は、王女の想像している未来が表現されるシーンだ。シーンのフェードアウトが起こった瞬間、周囲の人たちが身構えた感覚が伝わってきた。多分、2つ前の夢がトラウマになっているんだろうか。


 教会の鐘が鳴り響く。純白のウェディングドレスとヴェールを着た王女。その隣には、顔を知らない王子がいた。王女は浮かない表情をして、王子と共に歩んでいく。ここの表情は特に気を遣ったところだ。王女が結婚に対して乗り気ではないことを示さなければならない。


 そして、場面は再び王女の部屋に戻る。王女は自身の描いた未来に絶望して涙を流した。


 そんな中、扉をノックする音が聞こえる。王女が扉を開けるとそこには使用人の少年が立っていた。少年は王女に食事を持ってきたのだが、王女はそれを見て首を横に振った。少年は眉を下げてその場を立ち去ろうとするが、王女が少年を呼び止めた。そのまま、少年を部屋へと招き入れる王女。そして、2人の運命は動きだした。


 王女は少年に必死に訴えかけている。少年は王女の話を聞いて口を開けて驚いている。少年は王女を必死に説得している感じを出すが、王女も全く引き下がろうとしなくて2人の議論は白熱していく。


 少年は観念したのか、俯いて拳をぐっと握った後に顔を上げて頷いた。その瞬間、王女の表情が晴れやかになり少年を部屋から追い出した。そして、少年が部屋から出て行ったのを確認すると自身のドレスを脱ごうと手をかけたところでシーンが切り替わった。着替えシーンは見せられるわけがないからな。入れるわけにはいかなかった。


 次のシーンは城外の庭園。高い位置にある王女の部屋が見えるところ。少年はそこに待機していた。2頭の馬を引き連れて、1頭は少年が乗っている。王女の部屋からロープが垂れる。お忍びの時に着用する平民の服に着替えた王女がロープを伝って降りてきた。


 少年の視線は一瞬、王女のロングスカートの裾に向かうけれど、すぐさま首を振って視線を逸らした。


 その後、王女は少年が用意した馬に乗り、2人は馬に乗って城の敷地内から出ようとする。しかし、運悪く衛兵に見つかってしまった。見つかった瞬間、BGMが変わる。先程は、静かだけど緊迫感があるBGMを流していたけれど、次は動的で激しい感じのクラシック調の音楽だ。


 衛兵はすぐ様、大声をあげる。衛兵が続々と集まってきた。BGMも相まってか慌ただしい雰囲気が出て、王女と少年の焦っている様が感じ取れる。衛兵たちは、王女と少年を捕らえようとする。が、人間が馬に敵うわけもなく蹴飛ばされたくない衛兵たちは手をこまねき、馬の脚に追いつくのは不可能。王女たちを取り逃がしてしまったのだ。


 ここのシーンは原作ではもっと重厚に描写されていたけれど、短いアニメーションにまとめるならダイジェストにするしかなかった。見つかってからの緊迫感のあるシーンを完全に再現できなかったのは、力及ばなかったところだ。


 その後、王女と少年は国中から追われる身となった。街の中には王女と少年の手配書が張られていて王女と少年は身をひそめながら街を歩いていく。そして、裏路地の例の店に入り……少年は少女になった。少年は少女になった。大事なことなので2回思った。


 少女(少年)の全身を隈なく写した。色々な角度で見せた。苦労して作った3Dモデルだ。それだけにみんなに見て欲しかった。


 少女に扮した少年と変装した王女は、そのまま2人で街の闇へと消えていく。少し、照れくさそうな使用人とクスクスと笑う王女。2人は追われている身ながらも楽しそうだった。そこでアニメーションは終わった。というか、原作がこれ以上書かれていないので続きは作れなかった。


「なるほどな」


 アニメーションが終わった後に虎徹さんがそう呟いた。なにが「なるほど」なのかは俺にはわからない。


「なあ、ミサちゃん。この作品をどう思う?」


 師匠の見解は俺も聞きたいところだ。俺の作品を見て師匠がどう思ったのか。それを知りたい。


「私はさっき答えただろ。今度は虎徹君が答える番だ」


 そう言って師匠は回答を拒否した。俺は少し残念に思い、さっきの筋肉に師匠のコメントを取られたのを恨めしく感じた。


「そうだな。3Dモデルの出来は粗削りだけど、悪くはねえし。アニメーションとして見ると、きちんと見せ場を意識して作られている感じはあったな。衛兵に見つかった時のドタバタとした感じはコメディとシリアスの両面が上手く組み合わさってたな。それと……作者の趣味かは知らねえけど、女装した少年のカメラワークに職人芸を感じたな」


 あの女装は作者の趣味では間違いないけど、それは“原作者”の方だ。アニメーションの作者の俺の趣味では断じてない。それにしても、虎徹さんからの評価も悪くないみたいだし、行けるか?


「ただ、俺の敵じゃあねえな。暫定4位ってとこか」


 暫定4位……まさか、ツチノコとマッチョが2位と3位なわけないし、虎徹さんは多分自分を1位に置いているだろう。つまり、虎徹さんの見立てでは俺は、匠さんとサツキさん以下か。


「なるほど。虎徹君の評価だとそうか。でも、私はこの作品は評価者次第では4位より上に行ける可能性も十分あると睨んでいる。そういった個人の感性のブレ次第では優勝も十分あり得る」


 師匠のフォローに思わずお礼を言いたくなってしまった。しかし、この場では言えない。全てが終わった後に言おう。


「へー。じゃあ、ツチノコとマッチョは優勝できると思うか?」


「それはコメントは控えさせてもらう」


 とりあえず、ツチノコとマッチョには負ける立ち位置ではなくて良かったと安心している。勝負は終わってみなければどっちに転ぶかわからないから油断はできないけど。


「ねえー。琥珀君。サツキちゃんの方見てー」


「ん?」


 ティファレトさんが周囲に聞こえないように、俺の耳元で囁く。その言葉通りに、サツキさんの方を見たら鬼のような形相をしていた。なんというか殺気が溢れているというか、今日1番でかい地雷を踏んだような気がする。


「しばらくサツキちゃんには触れないようにしようねー」


「そ、そうですね」


 この作品の作者が俺だとバラさなかったのは結果的に良かった気がした。

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