2-14 届かない声
はいはぁーい。わかってますよぉ。では、『契約』は成立しました。貴方の
ナイトメアの叫びと共に、空の周囲は黒い霧に包まれる。しかし、それも一瞬のことで、桜が反応する頃には既に霧は晴れていた。
────そして、そこには
右手に身の丈ほどの大きな鎌を持ち、殺意を剥き出しにしている少女が、そこに居たのだ。大鎌は刃が漆黒に染まっているが、深い青の光を宿しており、とても神秘的な輝きを放っていた。
「……ごめんなさい、先輩。私、もっと早く決断していれば良かったんですね……。そうしたら、先輩と一緒に戦えたのに……ッ!」
「待ってって! 私は……ッ!」
空は奥歯が砕けそうなほど歯噛みし、桜を強く睨みつける。そんな空を見て、桜は顔を青くし、何とか空の誤解を解こうと声を上げる。しかし、
「問答無用ッ! はぁぁぁッ! 刃よ、狙うは西連寺桜ッ! その命、刈り取れッ! 『
そんな曖昧な桜の言葉など、空に届くはずもなく。彼女は容赦なく桜めがけて大鎌を振るう。すると、大鎌から漆黒の刃が放たれ、桜に向かって一直線に襲いかかってきた。
「ッ! 危なッ!」
桜はそれを寸でのところで避け、空を見据える。空は桜を憎々しげに睨み、再び大鎌を振るい始めた。
それから、空の一方的な攻撃が始まったのだ。空は身の丈ほどの大きな大鎌を、およそ少女とは思えないほどの腕力で振るい、攻撃を繰り出す。そしてそれを、桜がギリギリで回避する。ということが繰り返され、決着はなかなかつかなかった。
暫くして、桜の反撃がないことに、空は歯ぎしりをし、大鎌を振るう手を止めた。
「……ッ! どうして……なんで攻撃してこないッ!」
そう言い、空は恨めしそうに桜を睨んだ。そんな空を、桜は困惑した表情で見返し、辛そうに言葉を吐いた。
「……何も悪くない空を殴ることなんて、出来ない……ッ」
「巫山戯るな……ッ。巫山戯るな、巫山戯るなッ! もう全てが遅い……ッ。『
そんな甘ったれた桜の言葉を聞き、空は発狂したように叫ぶ。そして、力の限り桜へと大鎌を振り、漆黒の刃を放つ。その攻撃は、今までにないくらい速く、強烈な一撃だった。桜はその攻撃を、地面を蹴り、上空へ飛び上がることで回避する。
────いや、したはずだった。
「がぁッ!?」
ドスリッ、と、桜の背後から、先程避けたはずの漆黒の刃が、ブーメランのようにして戻ってきたのだ。漆黒の刃は桜の腹部を抉り、止まる。そしてその後、黒色の粒子となり、漆黒の刃は消えた。桜は腹部を手で押え、荒く呼吸をする。
そんな桜を、空はまるで感情のない瞳で見下ろしていた。
「そ……ら……ッ! お願いだから、私の話を聞いて……ッ!」
「……もっと早くに、先輩を殺す前に、話し合って欲しかったよ……ッ!」
桜の訴えを聞き、無表情だった空は、その表情を悲しみと怒りが入り交じったように歪めた。そして、地面を蹴り上げ、前方にいる桜へとものすごい速さで突進してきたのだ。
桜は痛む腹を押え、空の持っている鎌を狙って足を振り上げた。空は桜の蹴りに一瞬ふらつき、バランスを崩す。しかし、すぐに体勢を立て直し、後退した。
「ッ! 危なかった……」
「空ッ! お願い、話を──ッ!」
「執拗いッ! 先輩の痛み……思い知れッ!」
何度言葉を交わしても、空が桜に耳を傾けることはなかった。空に話を聞いてもらうには、まず落ち着いてもらうしかない。兎に角、空を無力化しないと……ッ。と、桜は決意し、なるべく傷つけないように、鎌を狙うことにした。
しかし、既に弱っている桜の力では、大鎌を飛ばすには、一歩及ばなかったのだ。空は大鎌を握り直し、再度桜を睨みつける。そして深く深呼吸をした後、大鎌で何度も空中を切りつけ、漆黒の刃を無数に出現させる。
「さぁ、終わりだよ。……先輩の味わった苦しみを知れッ! 私はお前の存在を否定するッ! 私の世界から消えろッ! 『
空の叫び声と同時に、無数の刃が桜に向かって襲いかかる。桜は、最初の数発こそ回避をしていた。しかし、まるで生きているかのように自在に動く刃に、次第に反応できなくなる。
「ぐぅ、速い……ッ!」
何故かこの数分のうちに、みるみると空は強くなり、桜でさえ反応できないスピードとパワーで圧倒してきた。そして刃のうちの一つが、桜の右足をまるで豆腐でも切るかのように、容易く切断したのだ。
「────ッ! ぁ……ぐ……ッ!」
桜は悲鳴をあげそうになるが、襲い来る刃を避けるため、片目を瞑り、痛みに耐えた。
桜は左足だけで刃を避けながら、打開策を考える。このままでは、全ての部位を切断されてしまう。早く、早く空を止めないと……ッ!
しかし桜は、焦ってばかりで、打開策を思いつくことはなかった。頭の悪い桜に機転が効くはずもなく、ただ為されるがまま、再び腹部を切り裂かれた。
「がァ……ッ! ぐぅ……そ、ら……やめ……てッ!」
桜の制止の声に、空はまるで耳を傾けず、刃を振り続ける。空の目には強い意志が宿っており、もはやその目は普通の少女ができる目ではない。空の目は、桜が動きを止めるまで、その死を見届けるまで、その手を休めることは無いと、確信できるものだった。
────なんとか、なんとか手を打たないと……ッ。
最期まで諦めずに、空を助ける手段を、桜は模索する。しかし、無情にもただ時が過ぎてゆくだけで、状況は悪化の一途を辿っていた。
────そんな時、不意に空が空中を切り裂いていた手を止めたのだ。そんな空の行動に一筋の光を見出した桜が、空に縋るような目を向ける。しかし、空は相変わらず冷たい表情のまま桜を睨んでいた。
「ッ! そ、空ッ! お願い、話を──ッ」
「うるさいッ! この化け物がッ! あぁもうッ! このままじゃ、埒が明かない……ッ。もうあんまり動けないみたいだし、一思いに殺してあげるッ!」
空は桜の言葉を遮り、桜に向かって猛スピードで直進してきたのだ。桜は当然回避を試みるが、左足がバランスを崩し、尻もちをついてしまった。ヤバイッ! と、桜は顔を青ざめさせるが、その間にも空は桜へ近づいて来て、このまま体を切り裂かれるだろう。
────そう、桜が覚悟した瞬間。空が突然、地面に押しつぶされた。
「────ッ!? はッ、ぐ……ッ。動けな……い……ッ」
突然の出来事に、空も桜も、ナイトメアでさえも、驚愕する。
しかし、事態はこれで終わりではなかった。突如として空と桜の間の空間が鉛直に裂け、漆黒に染まった楕円形の空間が現れたのだ。
ガシャンッ
────そして、重苦しい音色をたてて、白銀の甲冑を身に纏った
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