2009 Second Story

Episode 1:新たなる一歩

 これは、新たなる一歩を踏み出すレベッカの物語。


 新たなる住処、新たなる生活、ここはキビ。これもまた親の都合で再び足を踏み入れた地でもある。サヌキから引っ越してから数日経ったのだが、新環境に馴染むには何日もかかった。編入しても馴染めない学校、サヌキの学友が恋しくなるといった弊害を及ぼした。望んでもいない生活に馴染めないレベッカの唯一のオアシスは、コンピューターであった。これがあれば、学友だって会える。なによりもレベッカの愉快な仲間達との連絡が可能だ。


 前回のビッグイベント終了後にDr.デカボットから賜ったヘッドホン型装置「ネッドリームダイバー」を使い、仮想空間に潜った。ありとあらゆるWebサイトを仮想世界として、MMORPG感覚の体験ができるという代物であった。アバターは自分のイメージで生成される。自分の世界だってWebサイト作成ツールで作成できる。最初の地点は、ワープ装置が複数置いてある真っ白な世界であった。ワープ装置はブラウザのリンクに該当する。ワープ装置じゃなくても、ブックマーク機能を使えばいつでも移動できる。まず手始めに原作者のWebサイトへアクセスした。元々の背景が真っ黒であるように仮想も同じく黒い空間に「NBC」三文字が書かれていた看板、トップ絵が飾られていた。引っ越し前の紙切れが置いてあり、「しばらくの間休みます。探さないでください。」と寂しげな内容だった。おそらくしばらくの間、活動しないというのが原作者の休息だろう。

「そうだ、ゲームしよっ。」

 レベッカは仮想空間から上がり、アーカイブを通して手放した2000年発の64bitゲームを貪欲に遊んでいた。


 二ヶ月後、寄せ集めの仲間に会うためにレベッカは仮想空間に潜り込んだ。いち早くアンジー楓とモグに会えたが、マリア愛美は諸般の事情で会えなかった。

「よお、ビッグイベント以来だな。」

 モグは現在、祖国オーストリアにいる。日本に来るのはまだ先のことであった。

「去年のこと、楽しかったね。」

 アンジー楓は、日本のどこかの最終処分場で暮らしていた。

「思い出になるくらい最高だったよ。...愛美はカリフォルニア州に帰っちゃった。」

 どうやらマリア愛美は、外せない用事があってのことでカリフォルニア州に戻ったらしい。

「さて、何して遊ぼ。」

「スベスベマンジュウマリオでもやるか。」

「あの5年前の。」

「兄貴が作った5年前のだよ。永遠の傑作っというより兄貴の原点だがな。改良版(2006年)のが少しマシかな。更なる改良版ができるといいね。」

 案の定、11歳作のゲームなだけに、割りとすぐに終わった。

「なんか物足りないな。どうしよう。とりあえず、手軽に作れるゲーム『D.I.Y.』を借りようかな。」

 ゲーム制作ツール「D.I.Y.」が我が家にあることを思い出したレベッカは、原作者にお願いをして借りた。もちろん原作者は喜んで彼女にツールを提供した。早速ツールを起動し、その内容を目にした。原作者が作ったマイクロゲームが置いてあるのだが、どれも5-10秒で終わるものだった。他に音楽や4コマ漫画もあるが、これも同じく小粒かつ少数だ。

「私たち3人でなにか面白いものを作ろうよ。」

「レベッカがそういうなら、俺も手を貸すぜ。」

「賛成。」

 まず最初にマイクロゲーム作りから、作:原作者ゲームやサンプルゲームを参考にグラフィックや仕組み、音楽を作っていた。限られたものを組み立て、出来上がるのがマイクロゲーム。この些細な工程でレベッカ作ゲームはあっという間に完成した。約30分もかかったのだが。次はゲーム以外の音楽作りに挑戦した。使用頻度の高い音色、このツールで制作されたサンプル曲が揃えてあるので、そこまで難しくはなかった。4コマ漫画制作ツールは割りと簡単に作成できる代物でもあった。3つのツールで制作した作品は、やはり小粒かつお手軽に楽しめるほどだった。

「やってみたはいいものも、なんか物足りないな。去年と同じように昔話でも...いや、それじゃあいつものワンパターンじゃん。」

「愛美の話でもする?気になるでしょ。レベッカの知らない事情は早苗と彩香に聞いたんだけど...。」

「じゃあ、始めてよ。暇潰しにちょうどいい。」

「合点承知。それじゃあいくよ。」

 アンジー楓の口からレベッカの知らないマリア愛美の裏話を聞くこととなった。2007年10月-11月の話であった。


 彼女の母親の方のおじいさん「エネルジコ・コンブリオ」のお手伝いとして調べものをしていた。「女子大生を護衛する影」と「未来人に関する目撃情報」を調査するために、まずは前者からいくことにした。


 聞き込みによると、彼女は女子大生を護衛するとは裏腹に、鬱憤を晴らすためにへそを露出した女性を狙う常習犯らしい。その内容を把握したマリア愛美は自ら餌になって、彼女を誘いだそうと試みた。すると彼女からマリア愛美に声をかけてきた。

「この格好じゃ風邪引くよ。家に帰りな。」

「聞きたいことがあるの。いい?」

「あたしと話したいというならば、場所を変えよう。ツラ貸せ。」

 レベッカ同様、人目のつかないあの路地裏に移動させられた。

「ここなら思う存分話せる。長くなるかもしれないが最後まで聞いてくれるか?ドクターのことと、あたしのこと、どっちを先に聞きたい?」

「あなたのことに決まってるじゃない。聞かせてよ。」

 彼女の話から聞くことにした。


「私の時と同じじゃん。それに愛美が調べた情報をなぜ兄貴は知ってたのだろうか?...まさかな。私に内緒で...ううん、思い込みか。」


 原作者は仲間を集めるために、レベッカの知人を利用してでも情報を得ていたらしい。

「話はそれだけ?...そうじゃなくて、なんでへそ出し女を八つ当たりしているの?影から護衛するという噂はアテにならないし、八つ当たりをする理由になっていない。」

「...いやいや、影から護衛したのは本当さ。それと、へそ出し女を八つ当たりする理由ってもな...。」

「行方知らずのお父さんのことでしょ?悪い人にやられたからといって、そこまではしなくてもいいじゃない。あたしでよければ、いつでも相談してあげる。じいさんも兄さんも弁護士もついてるから。」

 その後、アイス早苗はレベッカに会う前までは相談コンブリオ家に相談するものも。


「それでもまた懲りずにやったんでしょ?」


 彼女の悪い癖にあきれたエネルジコは、孫娘に信頼できる人物にこの件を報せるよう依頼した。それを確認したのは原作者であり、レベッカとともに現場へと向かった。もしエネルジコがそうでもしなければ、アイス早苗はレベッカの仲間になることはなかったかもしれない。


もうひとつのケース「未来人に関する目撃情報」の調査を進めていた。


 目撃者の証言「街中で適当にうろついている。」を聞き、未来人の情報を集めていた。ところが、偶然うろついている白髪の子を発見した。

「未来人見ーつけ。こんなところでうろついていたら、オマワリに捕まっちゃうんだから。」

「ふぇえ?!お母ぁ...?いえ...見間違いかな...。」

「あたしの顔に、なにかついてるの?」

「いや、別に...。」

 マリア愛美が自分の母親であることは本当であった。本人の前には言えないが。

「それで何の用件で?」

「あなたを知りたいだけ。本当に未来人なら、これから起きる出来事を知っている範囲で話して。」

「お...あんたが知りたいとうなら、片っ端から話すよ。」

 マリア愛美に未来での出来事を可能な限り話した。レベッカに話したものと同じだった。


「私の時と同じだ。愛美のじいちゃんだけじゃなく、兄貴に目をつけられただけのことはある。...それと少し疑問があってね。私と愛美に話したものの短縮版というか、一部省略とはいえど、彩香はわざわざ電子掲示板に未来の出来事を書き込んだのかな...。いや、思い込みか。」


 最初の書き込み日時は2007年11月11日であった。

「雪郎司令官...って、あたしの兄さんじゃん。なんで司令官に?」

「詳しいことは言えないけど、ひいじい...いや、エネルジコの意志を継いだ大物よ。」

「...未来のじいさんはどうしているの?」

「あのね、私は言える範囲内にしか語らないようにしている。これ以上の詮索は控えて。」

 ミント彩香は知りたがる彼女に心配をかけないように気遣っていた。未来でのおじいさんは既に...湿った話はこれぐらいにして、マリア愛美はミント彩香に未来の出来事を電子掲示板に書き込むよう奨めていた。

「今、話したことを電子掲示板に書き込んだら?といっても、既にジョンに先を越されたけどね。別の世界線からやってきた人なので、あなたの世界とは違うよ。片方だけじゃ足りないし、せめてジョンを真似てでも、あなたの世界の出来事を書いて。」

 ジョンの世界はミント彩香の世界とは異なり、必ず同じものだとは限らない。せめて真似てでも、電子掲示板にこちらの出来事を書き込んだ結果、その数か月後、原作者に目をつけられ仲間入りにされたのであった。


「ひとまず裏話はこれくらいかな。」

「愛美が動いてなかったら、退屈な日々を送っていたかもしれない。感謝しないとね。他の裏話はないの?」

「俺の知り合いの話はどうだ。気になるだろ?」

「リサななのことか。是非聞きたいな。」

 次はモグからリサななのことを聞くこととなった。


 黒澤奈々、色っぽい目つきが特徴な黒澤家の女性であり、プロレスラーとして活動している。スイス生まれ、日本育ち。オーストリア出身のモグとは隣国の友、彼と絡むほど仲がいいらしい。好きな食べ物は納豆、レシュティ、ビール。しいたけが苦手らしい。それと鶏肉アレルギー体質。タバコを嫌う。2年前より既にアイス早苗と接触済。


「へ、そうなの?...早苗に会う前の話ということは、まだしょうもない案件が続けていた頃かな。あれでしょ。女子大生を影から守るといっておきながら、へそ出し女を狙う。リサななの外見に当てはまるね。アイス早苗に会った目的はなんだろうか?」

「俺にはわからねえ。確かなことは、氷女の素性を知るためとか、父親である黒田博士の経歴を知るためにドクターの屋敷に潜入したとか。」

「...ドクターの屋敷に黒田博士の研究資料なんかあったっけ?娘の写真が置いてあるわけあるまい。もしかすると、真の目的としてコソ泥だったり。」

「それはねえよ。詳しいことは俺には知らねえ。『彼女の口からはここまで』、つまり俺に言えない事情だということか。レベッカはどうだ、氷女に何か聞かなかったのか?」

「私の場合はね、早苗の過去しか聞いてない。まぁ、早苗チームを組んだりとかしてるだろうね。私とモグとアンジー楓三人チームのように。」

 レベッカ達チームのように、アイス早苗もリサななとカラダデカイを加えてスリーマンセルで構成されているのであった。


「俺の知り合いの話はここまでといったところか。不透明な部分もあるのだが...ちょうどいい暇潰しだったろ?」

「ああ、おかげさまでやることのない退屈は凌げた。私の知らない背景を知って得したと思う。」

 レベッカの時間帯は22時になったことに気づいた。

「もうこんな時間。」

「俺のとこが14時で、レベッカのとこでは22時。どうりで時間差が大きいってわけだ。」

「そろそろお開きしてもいい?」

「レベッカがそういうなら、そろそろ解散しよう。」

 一同はレベッカに従い仮想空間からログアウトした。一日中、仮想空間で自分の仲間と遊んだり、おしゃべりしたり、何か物足りなくて退屈な日々だった。


 この先いつかやってくる不穏や試練、そして避けられない運命が待ち受けていることを、その時のレベッカはまだ知らない。

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