彼女のその香水のせい
小声でフランの武器の異質さを囁く。
しかし、その声は当のフランの耳には届かなかった。
「いや、何も。とにかく、君たちが見た、倒れた女は仮面を持っていて、いつでも他の死体に憑依が出来た」
昨晩のシェリーは仮面を使い、強制的に自身で魂を追い出したという訳だ。
「なるほど。だから昨日、別のマスカが抜け殻を攫ったんだな」
「そういう事だ。……そのマスカに心当たりは無いのか?」
「それが……」
全くない。フランが言おうとした時──
「ミーナさんだ」
リュクレーヌが断言する。
「へっ!?リュクレーヌ!あのマスカ、ミーナさんなの!?なんで」
あっさりと犯人を告げられてフランが慌てる。
根拠が分からないからだ。
「そんなの、俺の鼻がそう言ってるんだよ」
「鼻……あっ!もしかして」
「そうだよ。香水だ」
リュクレーヌが感じたのは気配ではなく、匂いだった。
「昨日シェリーさんの抜け殻を攫ったマスカ、ミーナさんと同じ香水の匂いがしたんだ」
抜け殻を連れ去ったマスカから、ミーナの香りがした。
オスカーが言っていた、きつくなった香水の。
「そして、俺が娼婦街でシェリーさんに会った時もほのかにその匂いがした。濃度は違うがな」
それだけじゃない。
同じ香りがシェリーからも微かにした。
娼婦街で感じたミーナの気配もとい匂いはこれだ。
「もしかして、ミーナさんがシェリーさんを殺したから匂いが移ったの?」
「そういう事。オスカーさんが言ってた、香水がきつくなったっていうのも、死臭が気になったからだ」
マスカは死体に憑依する。
通常のマスカならば、腐敗が進むことは無いが、ミーナのように他の死体に何度も憑依する場合、娼婦の死体に憑依している間に、ミーナの死体の腐敗は進む。
だとすれば、香水が急にキツくなったのも死臭を気にしたからだと考えた。
「ファントムに何度も逢っていたって言うのも、何枚も仮面を買うためって事だね」
オスカーの言っていたマントの男との逢瀬も、客であったなら納得がいく。
それも買った仮面が一枚ではない。
それなら一回だけでなく何度か会う事もあるだろう。
「何よりも、オスカーさんが言っていた雰囲気が変わった。アレは魂が変わったってことかもしれないな」
「……だとしたら、厄介だな、いったい誰の魂が憑依しているのか」
マスカがいる。だとしたらその魂は誰なのか?
マスカの魂は自分自身以外ならだれにでも憑依できる。
ミーナやシェリーに憑依できているという事はその二人は違う。一体誰なのか。
「大丈夫。そこんとこは調べてもらっている」
「それって、どういう……」
フランが聞こうとした時、電話が鳴った。
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