Episode21:超常対決(Ⅱ) ~謎の女性
フレッシュキルズ・パーク。サディークとセルゲイの超常対決が行われている、少し離れた場所でやはり
金色の巨狼がその輝く体毛を逆立てると、その身体の周囲に眩い
「……!」
ユリシーズはそれに反応して素早く防御用の障壁を張り巡らせる。戦いが始まって以来、既に何度か見た攻撃だ。彼の予測通り金狼が口を大きく開けると、まるでそこから吐き出したかのように
目も眩むような雷撃が一直線にユリシーズの元に撃ち込まれ、彼の展開した障壁にぶつかって激しい放電を撒き散らした。
「ぬぅ……!」
障壁越しにかなりの衝撃を感じる。相当な威力だ。まともに当たれば半魔人のユリシーズといえども只では済まないだろう。だが彼が反撃しようとすると、それを阻むかのように肉薄してくる影が。
「把ッ!!」
「ちぃ……!!」
この金狼の
ユリシーズは咄嗟にヴェルブレイドを一閃するが、俊龍は凄まじい反射でそれを躱す。即座に追撃を掛けるユリシーズだが、そこに金狼が身体にスパークを纏わせた状態で突進してきた。
「邪魔だ!」
ユリシーズは金狼に対してヴェルフレイムで牽制を掛けるが、その間に今度は俊龍が攻撃してくる。西洋格闘技とは違う独特の体捌きで蹴りや貫手を次々と繰り出してくる。それでもユリシーズであれば一対一なら何とか対処できる。
しかしそこに再び金狼が挟撃してくる。俊龍と戦っている間に背中を金狼に脅かされるのはマズい。実質敵は2体いるようなものだ。ユリシーズは上仙を相手にする際の厄介さを存分に味わっていた。
「ぬぅぅぅぅ!!」
ユリシーズは苛立ちに唸りながら、その場に屈みこんで地面に片手を付けた。すると彼の周囲から魔界の黒炎が噴き出し、全方位に向けて爆発するように拡散した。ビアンカの護衛という任務の性質上、あまり使う事のない範囲魔術である『ヴェル・イクスプロージョン』だ。
「ぬお……!?」
金狼と2体掛かりでユリシーズを攻め立てていた俊龍が驚いたように目を瞠って、咄嗟に攻撃を中断して跳び退る。金狼も流石の身のこなしで爆発を避けて退避していた。躱されはしたが、とりあえずこれで一旦仕切り直しが出来る。
「……私と『
鍠呀というのはあの金狼の名前か。ユリシーズは不快気に鼻を鳴らした。
「リキョウの奴と『仲間』になった覚えは一瞬たりとも無いがな。お前こそ尻尾を巻いて逃げ帰るなら今のうちだぞ?」
「ほざけ。神仙の力の真髄というものを見せてやろう」
俊龍は唇を歪めると更に『気』の力を高めはじめた。明らかに何かをする気だが、それを待ってやる義理は無い。ユリシーズは奴が力を溜めている隙に一気に踏み込んで攻撃しようとするが……
――Gauuuu!!!
「……ち、邪魔だ、犬コロ!」
そこに金狼鍠呀が立ち塞がって妨害してくる。ユリシーズはヴェルブレイドを薙ぎ払って追い払おうとするが、鍠呀は獣とは思えない身のこなしでそれを躱すと、こちらに雷の弾をいくつも飛ばしてきた。
ユリシーズがその対処に足を止めている間に俊龍は準備を終えていた。
「……出でよ、『
俊龍の呼び声に応えて、その場に
「……っ。お前……2体同時だと!? リキョウの奴から聞いてるぞ。2体以上の仙獣を召喚すると上仙といえども『気』を急速に消耗するのは避けられないと」
「……! ち……知っていたか。仁め、余計な事を。だがまあいい。私もいつまでも貴様と遊んでいる暇はないのでな。
「何だと……?」
ユリシーズの指摘に一瞬忌々し気な表情となった俊龍だが、すぐに気を取り直して口の端を吊り上げた。ユリシーズがそれを訝しむ暇もあればこそ……
「橿貂! お前は『ファーストレディ』の確保を優先しろ! 気絶させて部下達の所へ運ぶのだ!」
「……っ!! おいおい、そう来るか!?」
ユリシーズは目を瞠った。だが敵の目的はユリシーズを斃す事ではなくあくまでビアンカの捕縛なので、上仙ならではの手数の多さを有効活用してきたという所か。
*****
「え……!?」
一方でやはり目を剥いたのは、ボディガード達の超常の戦いに巻き込まれないように距離を置いて、さりとて単身で逃げる訳にもいかず物陰に身を伏せていたビアンカだ。俊龍が黒い鼬を召喚してこちらを指差すと、何と彼女の捕縛を命じてきたのだ。主人の命令に従って黒鼬……橿貂が一直線にこちらに向かってくる。
「ち……ビアンカ!!」
「おっと、貴様の相手は我々だ」
咄嗟にビアンカの元に戻ろうとするユリシーズだが、その間に俊龍と鍠呀が立ち塞がる。1体ならともかく2対1となると流石のユリシーズも容易くは突破できない。その間にも橿貂が距離を詰めてくる。
(う、嘘でしょ!? でも、こうなったらやるしかない!)
ビアンカはアルマンの霊具に身を固めて覚悟を決めると橿貂を迎え撃つ。だが仙獣の強さは、一緒に戦う事が多い白豹の麟諷の戦いぶりを間近で見ているのでよく解っている。
(わ、私に勝てるの……!?)
少なくとも麟諷と戦えと言われて勝てる気は全くしなかった。仙獣の強さは中級悪魔に比肩すると思っていいだろう。即ち勝てるとしたら、それこそユリシーズやサディーク達のような超人だけだ。
ビアンカが思わず縋るような目でユリシーズを見ると、彼は微妙な表情はしていたものの焦ったり動揺したりしている様子が無かった。
「ち……まさかこんなに早く使う羽目になるとはな」
彼は俊龍達と睨み合いながらも、大きな溜息を吐いた。
「悪い、ビアンカ。前に俺は
「え……?」
ビアンカはこんな場合ながら彼は何を言っているのかと怪訝な表情になった。だがすぐに橿貂が襲い掛かってきたのでそれどころではなくなった。
「くっ……!!」
ビアンカは敵うはずがないと知りつつも悲壮な覚悟で構えを取る。そんな彼女に黒鼬が飛び掛かろうとして……その身体に、どこからか飛んできた
「えっ!?」
「何……!?」
ビアンカと俊龍が同時に目を瞠った。ユリシーズは俊龍達と相対しており橿貂を攻撃する隙はなかった。そもそも今の火球は彼が得意とする黒火球ではなく、
勿論現在進行形でセルゲイと戦っているサディークでもない。では一体誰が今の火球を放ったのか。
火球による奇襲を喰らった橿貂だが、黒鼬は大きなダメージを受けた様子無く空中でクルッと一回転しながら器用に着地した。そして……
その視線を追って目を向けたビアンカは再び瞠目した。そこにはヒスパニック系の容姿をした1人の
その体勢と、橿貂がその女性を威嚇している事から、彼女が今の火球を放ったという事らしい。
(え……だ、誰!?)
ビアンカは混乱した。少なくとも彼女は全くこの女性に見覚えが無かった。ピアスやタトゥーなどを施していて髪もまだらに染めており、服装も品の無いギャング風のファッションだ。こんな人物は知り合いにいないと断言できる。
それに手から火球を放つなど尋常ではない。状況の分からないビアンカが唖然としていると、ユリシーズがその女性に向かって叫んだ。
「俺はこっちで手一杯だ! お前はその鼬からビアンカを護れ!!」
「畏まりました、
その女性は、ギャングじみた外見からは想像も付かないような
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