第2話 変異体ハンターは初詣の道を駆け上がる。




晴海はるみ先輩、待ってくださいよ……」


 岩場に足をかけて、太めの男性は息を切らしながら声をかける。

 その男性の格好、男性はショートヘアーにキャップ、横に広がった体形に合う青いパーカーに装着されたハーネス、ジーパンにクライミングシューズ。その背中には大きなリュックサックが背負われていた。

 その体格は、ある意味素晴らしい。


大森おおもりさん、弱音吐いていると落ちるよう」


 その上で岩場の出っ張りに手をかけるこの女性、この状況に似合わないロングヘアーに、赤色のデニムジャケットに装着したハーネス、ロングパンツにクライミングシューズ。

 そのスタイルは、まさに素晴らしい。


「でもこんなことをする必要、あるんですかね」

「大森さん、言っていたよねえ。どうせだったら普通じゃない初詣に行きたいってえ」

「確かに言いましたよ。だけど、まさか正月早々、ロッククライミングをやらされるとは思いませんよ!?」




 ふたりは、岩の壁を上っていた。




 その後ろは、海だ。




「去年、ロッククライミングをやっていなかったのが心残りだって騒いでいましたよねえ。よかったじゃないですかあ」

 晴海と呼ばれた女性は、余裕そうな表情で腕を伸ばす。

「いきなりすぎて心の準備ができていませんよ! それに、晴海先輩は確か初めてですよね!? ガイドなしで余裕そうにしか見えませんが!?」

「うん。思ったよりも簡単だよねえ。室内でやるポルダリングってやつ、あっちはあまりにも簡単すぎてやり応えがなかったから、こっちの方が多少は楽しめるけどお……おっと」

 その腕は、頂上の崖をつかんでいた。晴美は全身の体を使って、上りあがった。






「それにしても、普通に通れる坂道があるのに、どうしてこんな険しい道を残しているんですかね?」

 あとから登ってきた、大森と呼ばれていた男性は地面に尻をつけ、崖の反対側に見える坂道を見る。

「こっちで登りたい人がいるから、残っているんだよお」

 晴美は大森の背負っているリュックサックの中からペットボトルを取り出す。大森はその手をつかもうとして手を伸ばして、ひっこめた。

「あ、それ俺の……って思っていたんですけど、晴美先輩のやつを俺が預かっていたんでした」

「口はまだ付けてないから、別に大森さんが飲んだっていいけどお」

「いえ、俺は自分のを飲みますよ」


 ふたりはペットボトルを手に取り、中に入っていた液体を口の中に入れる。


「……それじゃあ、そろそろ初詣にしますかねえ」

 ペットボトルのふたを閉じて、晴海は立ち上がる。

「俺、全然願い事考えていないっすよ。考える暇なんてなかったんですからね」

「別に来るまでに考えていなくても、今考えればいいんですよう」

 歩き出す晴海に、大森は「あ、そっか」と納得したようにつぶやいた。




 崖の頂上に立つ神社の前で、晴海は海を見つめた。


「ここに神社を建てるのも、海を見ながら参拝したいって人がいるからだろうねえ」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る