地味夫婦の生態

 せっちゃんが、僕の隣で幸せそうな寝息を立てている。


 この間まで、僕らは別々の布団で寝ていた。

 せっちゃんが、「イビキが出ると恥ずかしい」と言っていたから。


 家具を揃えてくれた社長も、ダブルベッドまでは買っていない。

 せっちゃんが布団派だと知っているからだ。


 でも、最近は布団を一緒にしている。

 イビキはどっちも出るんだから、ちっとも気にならない。

 もう新婚と言えるような新鮮さはないけど、一緒にいるのが楽しい時間は増えた。


 翌朝、二人で同じお弁当を作る。


「相変わらず、茶色いですね」

 お弁当の出来を見て、せっちゃんは苦笑いをした。


「もっとキャラ弁とか、学習した方がいいのでしょうか?」

「でも、僕たちらしくない?」


 あまり飾らない、肩の凝らない関係みたいで。


「一回さぁ、手作りにこだわりすぎて、お店の卵焼きをマネしようとしたじゃん。あれはひどかったよね」

「でしたね!」


 料理にハマってしまい、僕はあやうく会社に遅刻しかけた。

 それ以来、「もう、こだわるのはよそう」と判断したのである。


「一緒に作ってくれるだけでも、うれしいよ」

「そう言ってくれると、こっちも作りがいがありますね」


 帰宅後、僕は炊飯器の他に、万能調理器も動かす。

 下処理した具材を、万能器にブチ込んだ。


 今日は、せっちゃんの帰りが遅い。

 せっちゃんの部署で、新入社員の歓迎会があるという。

「待たなくていい」とメッセが来たので、先に帰って料理を支度した。大変なんだな。


 僕たちは、どっちもお酒を飲まない。

 なので、誰も飲み会に誘わないのだ。

 とはいえ、新歓といえば出席せざるを得ない。


 かといって、おつまみばかりでは満たされないだろう。

 一応、食事は用意しておく。

 食べなければ、明日のお弁当に入れればいい。


「ただいま」

「おかえりなさい」


 僕は、万能炊飯器を止める。


「今日のゴハンは何ですか?」


 フタを開けると、ケチャップソースの香りがキッチンに広がった。


「煮込みハンバーグです」

「わーい!」


 せっちゃんも僕も、万能炊飯器で調理をする。

 出来映えは、手作りと変わらない。

 家電で誰でもおいしいゴハンが作れるなんて、考えられなかった。


「いただきまーす!」

 スウェットに着替え終えたせっちゃんが、手を合わせる。


「よく食べるね。飲み会では食べなかった?」

「別腹です。というか、乾き物ばっかり出て……」


 新歓はトークがメインで、お店も小料理屋だったそうで。

 空腹に耐えかねて、一時間ほどで適当に理由を付けて帰ってきたらしい。


 腹を満たすため、せっちゃんはモリモリとハンバーグを平らげる。


「ごちそさまでした。食器洗いますね」

「一緒にやろう」

「ありがとう」


 二人並んで、食器を洗う。


「他の皆さんは?」


「カラオケに行くそうです」

 黙々と、せっちゃんは皿をスポンジで擦っていた。


「あのー。康夫さん」

「どうしたの、せっちゃん?」



「一緒にお風呂なんていかがでしょう?」



「ええええええ!?」

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