第34話 何も知らないままでいるよりも

「ミツバ!ミツバ!」

 名前を呼ばれて、ゆっくりと目を開けると、ミツバの側に心配そうに見ているナツメとツバキがいた。少し顔を動かして辺りを見渡すと、見慣れてきたサクラの家のリビングと二人を見て、ゆっくりと体を起こしていく

「ミツバ、大丈夫?」

 慌ててミツバを支えながら声をかけるナツメ。ソファーに座り直して、まだ少しボーッとしている

「突然倒れたんだよ……具合悪い?」

「ううん……大丈夫……」

 と、ツバキと話をしていると、カチャっとリビングの扉が開いて、ユリがリビングに入ってきた

「サクラは?」

「熟睡して起きないよ。無理に起こすと怒るし……」

 と、ナツメに答えながらミツバの隣に座ると、まだ少しボーッとしつつも目が覚めているミツバを見てホッと胸を撫で下ろして、優しくミツバの背中をさすった


「ミツバも少し休む?サクラの隣のベット使っていいから」

「うん……少し休もうかな」

 ユリと手を繋いで、サクラが眠る部屋へとゆっくりと歩いていくミツバ。パタンと閉じた扉の音と共にリビングから、ふぅ。とため息が聞こえてきた

「ミツバ、思い出してきているね」

「思い出させようとしてるんだから……それでいいよ」

 ツバキの言葉を聞いて、ナツメが少し力強めに言い返した。ナツメの言葉で少しうつ向いて何も言わなくなったツバキを見て、気持ちを落ち着かせようとテーブルに置かれているお菓子を取って食べはじめた

「でも……。アルノさん許してくれるかな?」

「本のためって言えば大丈夫だよ」

「ナツメ……」

「サクラが何があったか教えてくれないなら、ミツバから聞くしかない。仕方ないんだよ」

 すぐに言い返されて再び何も言えなくなったツバキ。ナツメの食べてるお菓子を取って少し、しょんぼりと食べていると、カチャっと音が聞こえて、リビングの扉が開いた



「ミツバ、すぐ寝ちゃったよ。サクラの隣で寝てる」

 と、サクラの部屋から戻ってきたユリが二人にそう言うと、少し静かになったリビング。それを打ち消すようにナツメがパンっと手を叩いた。その音と共に現れたナツメの本。その本をナツメが少し寂しそうに見ている

「やっぱり……。昨日よりも消えかけてる……」

 と自分の本を見つめポツリ呟くナツメ。ツバキも本を出すと、ナツメと同じく今にも消えそうになっている本。すると、ユリも本を出して二人に見せた

「私の本も、破けやすくなっているの……」

 と、ユリの本は、本の隅やページが少し破けている。それを見たツバキが、あたふたとうろたえはじめた

「アルノさんに早く言わないと……」

「ダメだよ。サクラ達から話を聞いてからじゃないと」

「でも……」

 ツバキがナツメに何かを言おうとした時、ナツメが突然立ち上がりベランダの窓を開けた

「二人とも、出るよ」

「えっ?どこに?」

 ベランダに出だナツメを慌てて追いかけるユリとツバキ。

そんな二人を置いて消えそうな本を大事に抱えて、ナツメはふわりと空を飛んでいった。しばらくすると、大慌てて追い付いた二人に微かに聞こえるほどの小さな声でナツメが呟いた

「本を書きに……少しでも、本が消えないようにしなきゃ……」

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