第14話 久しぶりの笑顔と想いと

 街から離れた一軒家に着いたサクラとユリ。コンコンと玄関の扉を叩きしばらく待っていると、家政婦が扉を開け数名の家政婦に案内されて家の中へと入っていく。家の奥にある扉を家政婦が開けると、大きな部屋の中に一人大きな窓から外を見ている女性がいた

「サクラ……久しぶりね。元気だった?」

 女性がサクラの姿を見つけるなりすぐ駆け寄り優しく抱きしめた

「うん……元気だよ。お母さん」

 サクラの声を聞いて、そっと離れて微笑むサクラの母親。隣にいたユリの方にも振り向いて優しく微笑んだ

「ユリちゃんも来てくれたのね。ありがとう」

「はい、アルノさんお久しぶりです」

 とユリも優しく抱きしめると、二人の様子を見ていたサクラが、ユリの手をつかんだ

「後からナツメちゃんとツバキちゃんも来るって……」

「そう。じゃあ、みんな集まってから話をしましょうか」

 ユリから離れてサクラに微笑みながら返事をしていると、リビングに家政婦が入ってきた。開いた扉を見て、突然サクラがユリの手を引っ張った

「ユリちゃん、私のお部屋に行こう」

「う、うん……」

 サクラにグイグイと強く引っ張られ、戸惑いつつも一緒に歩くユリ。部屋から出ようと扉に手をかけた時、

「サクラ」

 アルノに声をかけられ、扉を開けようとしていた手を止めたサクラ。ゆっくりとアルノの方に顔を向けた

「ミツバちゃんは元気?」

「……はい。今日も学校に行っています」

「そう。本を書く力があるんだから、学校なんて行かなくてもいいのに……サクラもね」

 クスッと笑って話すアルノの言葉を聞くなり、バタバタと大きな音をたてて、部屋の扉を開けるとユリの手を更に強く引っ張って出ていった二人

「サクラ、ちょっと待って」

 転びそうになりながら、引っ張られ続けるユリ。二人が部屋から出ると、ゆっくりと閉じていく扉。パタンと音が鳴ると、アルノがふぅ。とため息ついた

「変わらないわね。サクラも……」

 と呟くと家政婦達と一緒にリビングから出ていくと、



「サクラはいつの日か、私の代わりにこの本を守る事になるのよね……」

 と一人呟くアルノの目の前には、たくさんの本が無造作に置かれている

「ミツバちゃんも一緒だったら良かったけれど……」

 本を避けながら部屋の奥へと歩いていくアルノ。本棚にある一冊の本を手に取り、読もうと本を開いたとき、コンコンと部屋の扉を叩く音が聞こえてきた


「アルノ様。紅茶を用意しましたが、いかがなさいますか?」

「ありがとう。そこのテーブルに置いてて」

 アルノの返事を聞いてワゴンを押し部屋に入ってきた家政婦達。扉の側にあるテーブルに、ティーカップとポットを置いて、カチャカチャとカップに紅茶を淹れはじめた家政婦。その様子を見ていたアルノが声をかけた

「サクラ達はどうしている?」

「サクラさんのお部屋で二人で話をしているようですよ」

 姿勢を正し、アルノに返事をする家政婦。その返事を聞いて、家政婦達の元へと歩いていくアルノ。淹れたての紅茶を受け取り、一口飲むと片付けをはじめた家政婦達にまた声をかけた

「じゃあ。ナツメちゃんとツバキちゃんが来たら呼んで。少し休んでいるから」

 と紅茶を飲み干したティーカップを家政婦に渡して、また部屋の奥へと歩いていくアルノ。窓のそばにある一人掛けのソファーに座って、先程本棚から取り出した本をまた読みはじめた。紅茶の片付けを終えた家政婦達がアルノにお辞儀をしてそっと部屋から出ていった。パタンと静かに聞こえた扉の閉じる音がアルノに聞こえた。しばらく本を読んでいたアルノ。はぁ。とため息ついて本を閉じると、表紙をじっと見ていると、ふと一人呟いた

「サクラの本とミツバちゃんの本……もう少し書き終えたら、」

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