#863

「あぁ~負けちゃったわね。ローズ……」


ローズの最後を、アンと戦っていたフォクシーレディが見上げていた。


すでにフォクシーレディも追い詰められており、今にも倒れそうな彼女の目の前には、同じようにローズの最後を見上げるアンの姿があった。


「ロミー……すまない……。私さえしっかりしていれば……」


アンは妹の最後を見てポツリとつぶやいた。


その顔は、いつもの彼女のまま無表情ではあったが、声だけは悲壮感ひそうかんちているものだった。


ローズの放った光が消えると、アンはフォクシーレディのほうへ視線を向ける。


「お前一人になったな。それでもまだ戦うか?」


まるで人が変わったかのような低く重い声を発するアン。


言葉こそ少ないが、それはアンの脅迫きょうはくに近い声かけだった。


これ以上戦うのならばお前を殺す――。


声のトーンから、説明がなくとも感じることができるものだった。


「大事……命は大事……。それはどんな善人でも悪人でも同じだ。できることならもう戦いたくない。大人しく投降とうこうしろ、フォクシーレディ」


インストガンの先に付いたナイフを突き付け、再び降参こうさんするように言うアン。


もう自分を守っていた自律型じりつがたの機動砲台は破壊され、味方のドローン軍団も全滅。


そして、同盟を組んだストリング帝国の将軍――ローズ·テネシーグレッチも目の前でやぶれた。


さすがにもう手がきたであろうと、アンはフォクシーレディのことを見据える。


「フフフ、フッハハハッ!」


だが追い詰められたというのに、フォクシーレディは高らかに笑い始めた。


まだ何かするつもりなのかと、アンが身構えると、彼女は口角を上げながら言う。


「そうね……。あんたの言う通りよね。命の価値は平等かも……って、そんなはずなでしょ!」


そう言ったフォクシーレディは、両手を大きく広げた。


そして、アンの背後に黒いうずのような空間を出現させる。


「投降したって、どうせあたしは殺されるわ。だって世界の混乱をあおっていた張本人だしね」


「お前が罪をつぐなえるように、せめて死刑にはならないように私がなんとかする。必ずだ。だから、もうやめろ」


「あたしを誰だと思ってるのよ? エレクトロハーモニー社を一代で世界最大の会社にした、ハザードクラス、死の商人デスマーチャントのフォクシーレディなのよ? ここで投降したらあたしはあたしじゃなくなっちゃうじゃない」


「そうか。残念だ……。本当に、本当に残念だよ……」


「せめてあんただけでも亜空間に飛ばしてやるわッ!」


フォクシーレディは、アンを出現させた空間に飲み込もうとしたが、それよりも先に銃剣のナイフが彼女のひたいつらぬいた。


笑いながらドサッとその場に倒れたフォクシーレディを見下ろし、アンは悲しそうに空を見上げる。


「ノピアの言う通りだな……。私があのとき逃げなければ……。ロミー……。本当に……本当に……すまない……」

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