#852

――ミウムたちのいる場所に突如とつじょ現れた無数の機動砲台。


その渦のような空間から出現した兵器は、ラヴヘイトに追い付いたジャズとアンの上空にも出てきていた。


当然、自動で動く機動砲台は彼女を狙ってブラスターを発射。


辺りは降り注ぐ閃光で埋め尽くされた。


「これは一体何なんですかッ!?」


「あの空に見える渦……。フォクシーレディの能力だな」


ジャズが閃光を避けながら叫ぶと、アンも彼女と同じようにかわし、ラヴヘイトも声をあげる。


「あの女、まだ奥の手を隠してやがったのかッ! だが、こんなもんッ!」


ラヴヘイトは、フォクシーレディ能力――抹殺戯言キリングジョークによって現れた機動砲台のブラスターを避けずに、その身体で受け止めた。


ラヴヘイトはバイオニクス共和国の研究施設で生まれた特殊能力者である。


その能力の名は――還元法リダクション メゾット


あらゆる種類の運動エネルギーを吸収し、 自らの望む形に変換して放出するものだ。


ラヴヘイト自身が受け止めた運動エネルギーの原理を理解していないと使用ができないものだが、エレクトロハーモニー社の製品だと思われるブラスターならば、彼の頭の中に入ってる。


そのため、機動砲台が放つビームなど吸収できると思われたが、受けた瞬間にラヴヘイトは吹き飛ばされてしまった。


「ラヴヘイトッ!?」


ジャズが彼に駆け寄ると、そこで閃光が止まった。


そして、再び空から渦のような空間が現れる。


「無駄よ無駄。それは荷電粒子じゃないもの。この子たちの出すブラスターは、人間にはとても理解できない原理なのよ。まあ、エレメント·ガーディアンみたいなものだと思ってくれればいいわ」


豪華な毛皮のコートを羽織った女性――フォクシーレディの姿がそこにはあった。


ジャズは彼女を見て驚愕きょうがく


アンのほうは無表情こそ変わってはいなかったが、その内心では驚いていた。


「そ、そんなどうしてあなたがこんなところに……?」


「さあ、どうしてかしらねぇ、サイドテールちゃん」


フォクシーレディは、両目を見開いて顔を見上げてくるジャズを見て、まるで小馬鹿にするように笑みを浮かべている。


アンは背負っていた飛行装置――ジェットパックを起動させ、上空へいるフォクシーレディの目の前へと立つ。


笑うフォクシーレディを見ながら、アンは考える。


まさかメディスンたちのところから逃げ出してきたのか。


だが、目の前にいるフォクシーレディの身体には戦闘した形跡けいせきがない。


先ほど自分と戦っていたというの傷一つない。


なら、あれは影武者だったのか。


だが、たしかに自分が倒したフォクシーレディは、死の商人デスマーチャントの能力――抹殺戯言キリングジョークを使っていた。


アンはそう思考しながら、銃剣タイプのインストガンを構える。


「どうしたのかしら? あたしがここにいるのがそんなに不思議?」


「考えてもしょうがないな。もう一匹現れたのなら、また倒すだけだ」


「まあ、一匹ですって? 失礼しちゃうわ。こんなイイ女を捕まえて」


女狐めぎつねの単位は匹で間違いないだろう」


「言ってくれるわねぇ。何年も隠れていた臆病者のくせに」


「……二度とみょう真似まねができないようにしてやる」


そうポツリと言ったアンは、フォクシーレディへと向かっていった。

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