#767

それからブライダルたちはサイドカー付いたオートバイを走らせ、エンポリに言われるまま進んでいた。


この島には誰も住んでいないと船長が言っていたように、途中で多くの建物が並んでいたが、それらは半壊状態で人気ひとけはたしかになかった。


「ねえブレイク君、なんか元気なくない?」


ブライダルがハンドルを握りながら、後部座席に座っているブレイクに声をかけた。


元々口数が多いほうではなかったが、先ほど船が去っていったときに見せた表情からか、ブライダルはずっと気になっていたのだ。


ブレイクはなんでもないとだけ返事をし、また黙る。


そのときの彼はいつも通りに見えた。


だが、ブライダルは気になってしょうがないままだ。


「なんでもないならいいんだけどさ~。まあ、よくわかんないけど、元気出してよ」


ブライダルがそう言うと、サイドカーにいるエンポリが口を開く。


「なんだお前? こいつがなんでふさぎ込んでるかわかんないのか?」


「エンポリ君は知ってんの?」


訊ね返されたエンポリは、ブレイクを一瞥いちべつすると話を始める。


この島は、かつてアン·テネシーグレッチと共に世界を救ったヴィンテージの一人――クリア·ベルサウンドの生まれた国があった場所。


そして今から数年前に、その英雄の息子のバイオニクス共和国が最も優秀な人間として選んだハザードクラス――くろがねによってその国の人間は皆殺しにされたという。


エンポリの話を聞き、ブライダルが口を開く。


「あッそれ、私も聞いたことあるわ」


「ならわかるだろ? そのくろがねってのがこいつだって」


「うん、それも知ってる。でも、ここがクリア·ベルサウンドの故郷なのは知らなかったなぁ」


「まあ、そういうことで、そいつは胸糞悪いんだろう」


へぇーと感心しているのかよくわからない態度のブライダルを気にせずに、エンポリは話を続ける。


「俺も兄ちゃんと散々殺しまくったけど、さすがに一国まるまる潰すほどはないな。いやいや、さすがはハザードクラス、規模が違う」


「合計すれば似たようなもんじゃない? 世界最大の宗教団体で幹部やってたエンポリ君もさ。まあ、私も仕事で相当ってるから、ブレイク君やあなたとあんま変わんないと思うけどね~」


ブレイクに皮肉を言ったエンポリだったが、ブライダルの発言でその言葉の意味を失った。


エンポリの不愉快そうな顔を見て、ブライダルは二ヒヒと笑う中――。


それでもブレイクが口を開くことはなかった。


だが今まで――いや、ジャズたちと出会ってからまともに話をしなかったソウルミューが口を開く。


「くだらねぇな。人殺し自慢しあってどうすんだよ。これから世界を救いに行くんだろ……」


「おッここで喋り始めたね~。しかも、ずいぶんとまともなことを言ってますな~。ようやく酒が抜けて来たのかい、クソ兄貴?」


ブライダルがソウルミューにそう言葉を返すと、彼はまたほうけた顔をして黙り込んでしまった。


そして、今まで何も口にしなかったブレイクがポツリと呟く。


「……たぶん、近いな」

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