#721
――レジーナが宮殿を襲ってから数日後。
リュージュ女王は病によって亡くなった。
結局、彼女は昏睡状態から回復することはなく、誰にも何も告げることなくこの世を去る。
その後、オルゴー王国は王女であるレジーナ·オルゴーが国を継ぐことになった。
それは、リュージュ女王が残した遺言――ホログラムによる映像から彼女の言葉が残されていたからだった。
レジーナのやった宮殿への襲撃や数々の反乱行為に心配する者もいたが。
先ほど述べたリュージュの遺言やサーベイランスが宮殿に根回ししていたため(レジーナの考えが間違っていないことを伝えていた)、大きな問題もなく女王へとなることができた。
「よし、これで準備オッケー。みんなはどう?」
オルゴー王国での騒ぎも収まり、出発の準備を終えたジャズが仲間たちに訊ねた。
その顔や体は、レジーナとの一騎討ちで負ったケガのため、包帯だらけとなっていた。
「クソ兄貴のほうは車に積み込んだし、いつでも出れるよ~」
ブライダルが返事をすると、ニコはメェーと鳴いて返した。
だが、サーベイランスだけはブツブツと何やら呟いている。
「……また無駄な時間を過ごしてしまった。私が宮殿内で動いていたのはなんだったのだ……。帝国とオルタナティブ·オーダーの決戦が近いというのに、これでは……」
「ほら、いつまでも文句言ってないでさっさと行くよ」
「遠回り……遠回り……。こんなことでは、世界の混乱を収めるのはいつになるのだ……」
ジャズは、そんな機械人形を見てため息をつくと、その身体を担いで運ぶ。
だが、そんなことでサーベイランスの言葉は止まらず、担がれてもブツブツと呟き続けていた。
「待ってジャズ·スクワイア……いや、ジャズッ!」
ジャズたちが宮殿を出ると、彼女の後ろから声が聞こえた。
そこには、王女らしい――いや、女王が身に付ける
ジャズは振り返り、彼女の姿を見て微笑む。
「これはレジーナ女王。あたしたちのことなんて、わざわざ見送りしなくてもいいんですよ」
「そうもいかんだろうが。……それと、私のことはレジーナでいい……。あとその他人行儀な話し方をやめろ」
「ですが、一国の女王様に……」
「私が許すと言っているのだ! いいから敬語はやめろッ!」
レジーナはそう言うと、ジャズに近づいた。
そして、訊きづらそうに訊ねる。
「……あのとき貴様は……いやお前は私の顔を殴らなかったのは何故だ?」
ジャズは身を震わせながら言う彼女に、笑みを浮かべながら答える。
「なら、あなたはどうして銃を使わなかったの? 剣だけの勝負じゃなければ、あなたはあたしに勝っていたと思うけど?」
「そ、それは……。だが、そんな手心を加えなければお前が勝利していたはずだ!」
「気のせいだよ。それに、あの勝負はもう終わったんだから、いつまでも気にしてちゃダメ」
ジャズはそう言うと、レジーナに手を振って彼女の前から去っていく。
「英雄の再来ジャズ·スクワイアよッ! この命が続く限り、私はお前の友だ! そしてオルゴー王国は、ストリング帝国にもオルタナティブ·オーダーにも属すことなく、お前にのみ力を貸すことをここに誓うッ!」
ジャズは、そう叫んだレジーナのほうを振り返ると、ありがとうと言って微笑んだ。
そして、再び手を振って歩き始める。
その後をニコが追いかけ、サーベイランスとブライダルも続いた。
まだ不満そうなサーベイランスに、ブライダルが声をかける。
「そういつまでもムスッとしなさんなって。これはこれで結果オーライじゃない」
「じゃあなにか? 私たちはわざわざクソの役にも立たない酔っ払いを回収して、友だちを作るためにここ数日を費やしたのが良い結果だとでも言うのか?」
「前者は無駄だと思うけど、後者はいいんじゃね? だって何かあれば協力してくれそうだし」
「そんなバカな話があるか……。あぁ……せっかく一国を手に入れるチャンスだったと言うのに……。うちの大将はまた遠回りをした……」
そんなサーベイランスにニコが大きく鳴いた。
その鳴き声は「いつまでも文句を言うな!」と言っているようで、不満そうだったサーベイランスもしょんぼりと黙ってしまう。
それから車に乗り込み、ジャズたちがオルゴー王国から出ると――。
「やっと出てきたか……」
彼女たちの前にフードの少年が現れた。
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