#698

ブライダルの――今にも殴りかかりそう態度を見て、ジャズとニコが慌てて彼女のことを止める。


「ちょっとブライダルッ! 暴力はダメだってッ!」


「いいんだよ姉さん。少しばかり痛め付けて、こいつのアルコール漬けの頭を覚まさせてやるんだから」


「痛め付ける……? 一体どうしたのよ!? そんなのいつものあんたらしくないじゃないッ!?」


ジャズが必死でブライダルの身体を押さえつけ、ニコも彼女の足にしがみついていた。


そんな三人の様子を静観していたサーベイランスは、トコトコと歩いてソウルミューのところへと行く。


「おい、こいつ……眠ってしまったぞ。細かくいえば酔い潰れたと言ったほうが正確だがな」


サーベイランスの言う通り。


ソウルミューはだらしなくヨダレを垂らしながら、椅子に寄り掛かりイビキを掻いていた。


それを見たブライダルは、突然テーブルを蹴り飛ばすと、店から出ていく。


「待ってブライダル! どこに行くつもりなのッ!?」


「ちょっと頭を冷やしてくる。すぐに戻るから気にしないでよ」


「頭冷やすって……待ちなさいッ!」


ジャズは出ていったブライダルを追いかけようとした。


だが、酔い潰れたソウルミューを放って置くわけにも行かず、彼女を追いかけるのを諦める。


それから、ジャズはブライダルが蹴り飛ばして転がったテーブルを戻すと、周りにいた店員や客たちに頭を下げた。


ここでこういう騒ぎがめずらしいのか。


皆が気にしなくていいと彼女に言ったが、酷く驚いているようだった。


「役に立つ男と聞いて来てみれば、ただの酔っ払いか。やれやれだな」


サーベイランスが酔い潰れているソウルミューの顔を見ながら呆れていると、その隣でニコが悲しそうに鳴いた。


その後、いつまでもソウルミューを置いておくわけにもいかず、宿の人間に訊ねて彼の泊まっている部屋に行くことに。


「……どうして私が酔っ払いを運ばなければならんのだ」


「ほら気をつけてサーベイランス。バランスが崩れてるよ」


そして、ジャズたちは酔い潰れたソウルミューを二階へ運ぶことになった。


ジャズが彼の上半身を持ち上げ、身体の小さいサーベイランスとニコが下半身――両足を一本ずつ抱えて運ぶ。


サーベイランスは相変わらずだったが、これにはさすがのニコも不満そうにメェーメェー鳴いていた。


それから部屋へと辿り着き、中にあったベッドにソウルミューを寝かせる。


「うぅ、部屋の中まで酒臭い……。これは本当にアルコール漬けの日々を送ってそうだなぁ……」


ジャズが怪訝けげんな顔で窓を開けると、ニコも酒の臭いが辛いのか、自分の鼻をつまんでいる。


部屋の空気を入れ替えると、サーベイランスが口を開く。


「どうもこの男は役に立ちそうにないな。ブライダルが戻ったら、さっさと国を出よう」


「それはいいけど。ソウルミューも連れていくよ」


「……本気か? こんな奴、どう見ても足手まといだ。それに、何よりも本人も嫌がっていただろう」


「でも、リズムの会わせてあげたいし……」


「お前はそれでいいかもしれない。だが、さっきのブライダルのこともある。こいつはここに置いていったほうがいいと思うぞ。余計なトラブルを抱え込むことはない」


ジャズはサーベイランスに言葉に反論できないでいた。


たしかにそうなのだと。


そんな彼女を見たニコが、鳴きながらふと窓の外を眺めると、突然の大爆発と共に住民の叫び声が聞こえてきた。


「何があったの!?」


「まさか敵襲か? だが、ここへ来るまでにそんな気配はなかったが」


「いいから行くよサーベイランス! ニコはここでソウルミューを看てて!」


「……やはりそうなるか。本当に面倒なことに首を突っ込みたがる……」


そして、ジャズとサーベイランスは宿を飛び出し、爆発が起きたほうへと向かった。

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