#645

スピリッツとアバロンはすぐに背筋を伸ばすと、ローズへ敬礼。


ローズはそんな二人の間を割って前へと進む。


彼女が二人のところに来たということは、ついにストリング帝国の主力部隊がこの場に到着したということだった。


ローズの後ろにいた兵からの報告によれば、ウェディングはまだ後方の部隊と戦闘中らしい。


「敵に好意を持つのは理解できる。だが、崇めてどうする? それはもう好き嫌いを超えているぞ」


アバロンとスピリッツに、吐き捨てるように言うローズ。


彼女の後ろに流した大きな三つ編みを揺れる様子は、まるで周囲を威圧するシュリンプ――生きたエビのように動いていた。


二人の前に出たローズは、向かってくる帝国兵たちを斬り殺し続けるクリーンの姿を見て、その口を開く。


「状況は?」


誰よりも早くアバロンが答える。


「現在クリーン·ベルサウンドによって谷の出入り口を塞がれ、前に進めないといった状況です」


「そんなことは見ればわかる。私が知りたいのはこうなった理由だ」


ローズの冷たい言い方にアバロンは身を震わせると、スピリッツが彼女に説明を始める。


ジャズ·スクワイアを乗せたプレイテックを追跡中に、突然一台のオートバイが現れた。


その後、オートバイに乗っていた舞う宝石ダンシング ダイヤモンドウェディングは追撃部隊を一人で迎撃。


ジャズを乗せたプレイテックは谷へと入り、その出入り口にクリーンが立ち、先へは進めなくされている。


「それから、マローダー少尉がクリーン·ベルサウンドに単騎で仕掛け、わしも続き、その後は現在のような状況に……」


「フン。ようは相手が健気な少女だったというだけで、負けてやったということか」


「いえ、けしてそのようなことは……」


「そうなのか? 私にはそう聞こえたぞ」


ローズは振り返ってスピリッツを睨むと、再び戦っているクリーンのほうを見た。


帝国兵の返り血を浴び、そこには真っ赤に染まった少女が一人立っている。


すでに向かってきた軍勢はすべて斬り殺したようだ。


クリーンの周りには、彼女に斬り殺された死体が山のように転がっていた。


「クリアの娘か。なるほど、たしかに見事だな。剣の腕だけなら私よりも上だろう」


「ローズ様ッ!」


血塗れのクリーンを見て鼻を鳴らしたローズ。


そんな彼女の前にアバロンがひざまずいた。


そして、彼は顔を上げてクリーンとの一騎討ちの許可をローズにう。


「スピリッツ少佐は無駄に兵を失わないようにと動きましたが、それが私のミスによりこのような状況に……。どうかッ! どうかこの失態をつぐなわせてくださいッ!」


悲願するアバロン。


ローズは振り替えって彼を見下ろす。


「この場の指揮官はスピリッツだ。お前が責任を感じることはない」


「しかし、私が勝手に軍を動かさねばッ!」


「いいから、そこで見ていろ。お前らが崇めていた健気な剣神を、私自ら消し去ってやる」


ローズはそう言うと、クリーンのところへと歩き出した。

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