#615

ジャズたちはストリング帝国の駐屯地へと向かう。


遠目からもわかるほど軍幕が並び、いくつもの帝国の装輪装甲車――プレイテックが見えた。


ある程度近づくとジャズが声をあげる。


「自分はストリング帝国軍中尉、ジャズ·スクワイアですッ!」


彼女の呼びかけに見張りの帝国兵が電磁波放出装置――インストガンを構えた。


それを見たブライダルは、掲げていた白旗をさらに振る。


こちらに敵意はありませんと、相手に伝えようとする。


「ここの指揮官は誰ですかッ!? 謁見をお願いしますッ!」


白旗が振られると、ジャズがさらに声を張り上げた。


先ほどまでゾンビのようだった者とは思えないほどの大声だ。


すると、一人の兵士が彼女たちの前まで歩いてきた。


「初めまして、ジャズ中尉。自分はマローダー·ギブソン少尉であります」


深い青色の服――ストリング帝国の軍服を着た青年がジャズに向かって敬礼した後、自分の名の名乗った。


その顔は細かい傷だらけで見た目は若くは見えるが、彼の佇まいも含めてかなりの修羅場を潜り抜けてきたように見える。


そして、特に説明もなく駐屯地内へとついて来るようにと口にし、その頭を下げた。


後をついて来るジャズへマローダーは言う。


「この陣地の指揮はセティ·メイワンズ大尉がしております」


「セティさんがッ!?」


ジャズはセティ·メイワンズの名を聞いて声を張り上げた。


それは、彼女とそのセティという帝国軍大尉が知り合いだということに他ならない。


「なんだよ姉さん? その人と知り合いなの?」


木に巻いた白いシーツをしまいながら、ブライダルが訊ねた。


ジャズは自分とそのセティとの関係について話を始める。


「セティさんは、あたしが軍学校にいた頃に目をかけてもらっていた人なんだ」


「そうなると、セティ·メイワンズ大尉は帝国内でノピア·ラッシク派ということか?」


サーベイランスがそう言うと、ジャズは首を振った。


どうやらそのセティ·メイワンズという人物は、帝国内の派閥――ノピア·ラッシク派でもローズ·テネシーグレッチ派でもない珍しい将校のようだ。


「あたしがノピア将軍のとこに行くまではよく話していたんだけど、疎遠になっちゃって……」


「ふ~ん、でもまあ、こうやってまた会えるってことは縁があるってことでしょ」


ブライダルがジャズに返事をすると、彼女たちの前を歩いていたマローダーが口を開く。


「セティ·メイワンズ大尉はこちらです。では、自分はこれで」


「あッ、ありがとう。マローダー少尉」


「いえ、仕事ですから」


そして、無表情で答えたマローダーはそのままその場から去って行った。

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