#576

再び目覚めたニコは、目の前にいるジャズを見て嬉しそうに鳴いている。


ジャズはそんな電気仕掛けの仔羊を抱くと、自室から出ていく。


そして迷うことなく、先ほど食事を取ったリズムたちがいる部屋へと向かった。


「リズム、いる? 入るよ」


扉をノックして中へと入るジャズ。


突然戻って来た彼女に、部屋にいたリズム、プロコラット、ユダーティの三人は両目を丸くしていた。


ジャズはそんな三人に向かって言う。


「おかわりいい? なんかお腹が減ってしょうがないの」


「う、うん。いいけど……」


戸惑いながらもジャズとニコの分の食事を用意するリズム。


そしてテーブルの上に出された野菜スープや魚介ときのこのリゾットの入った食器を手に取り、一気に口へと掻き込む。


ニコもジャズの真似をして、その小さな口を思いっきり開いて食べ始めた。


「おいおい、どうしちまったんだよ急に?」


プロコラットがユダーティに訊ねると、彼女は嬉しそうに笑みを浮かべていた。


それはリズムもだ。


三人には、ジャズに何があったかはわからなかったが、彼女に以前のような覇気が戻ったのだ。


それだけで、なんだか暖かい気持ちになっている。


「ごちそうさまでした! おいしかったよ、リズム。ありがとう!」


「ちょっと!? どこへ行くのジャズお姉ちゃんッ!?」


「ちょっとアミノさんに謝って来る!」


そして、口の周りに食べかすを付けたまま、ジャズは部屋を飛び出して行った。


ポカンと呆気に取られているリズム、プロコラット、ユダーティの前には、必死に食事を掻き込むニコだけが残された。


――その後、ジャズはリズムたちがいた部屋を出ると、アミノを探した。


彼女はメディスンと共に通信設備の前にいたので、ジャズはそこで立ち止まる。


「アミノさんッ! さっきはごめんなさい! あたしが悪かったです!」


「え、えぇ……? ジャズちゃん……?」


先ほどのリズムたちのときと同じように、声を張り上げるジャズに戸惑うアミノ。


だが、メディスンのほうはどうしてジャズに覇気が戻ったのかを理解しているようで、呆けているアミノを見て笑っている。


ジャズは九十度に頭を下げた後、顔を上げてアミノを見つめる。


そのときのジャズの顔を見たアミノは、バイオニクス共和国で出会った頃の――。


何か決意を感じさせる彼女の姿を思い出していた。


どんよりとしていた瞳に輝きが戻り、刃物みたいな鋭いつり目――。


そう――今の彼女の表情こそジャズ·スクワイアだ。


「いいんです、いいんですよジャズちゃん……。先生のことなんかよりも……。ジャズちゃんが元気になってくれてよかったです……」


アミノは、そんなジャズの姿を見て涙を流してしまっていた。


理由はわからない。


何が彼女を以前のようにしてくれたのかは知らないけれど。


だけど、こうやってまた声の張ったジャズを見れて、アミノは喜びでその身を震わせている。


ジャズはそんな彼女を抱きしめると、何度も謝った。


心配かけて申し訳ないと。


八つ当たりのような真似をしてすまなかったと。


そして、二度と前のような自分には戻らないとアミノに宣言するかのように叫んでいた。


「アミノさん、メディスンさん。あたし、ここを出て皆を捜しに行きますッ!」


それからジャズはアミノのから離れると、ブロードのメッセージを見て決意したことを伝えるのだった。

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