#561

最大時速五百キロで走ることできる神具――処女ヴァージンにはねられたイードに、ロウルは攻撃を畳み掛ける。


倒れたイードの身体に跨り何度も拳を振るう。


しかし、ロウルの屈強を身体をイードは背筋で弾き返した。


理屈でいえば対格で負けていないのもあったのだろう。


今度はイードの猛攻が始める。


光りを纏った拳の連打が、ロウルの顔、腹部へと放たれていく。


「哀れだな、ロウル·リンギング。所詮は世界を救おうとしても甘さを捨てれなかった男。貴様のやってきたことは、大雨の中でずぶ濡れの身体を布で拭く行為と同じだ」


「それでも……人を信じれないお前よりはマシだろ?」


ロウルが反撃しようと拳を振り上げる。


しかし、届かない。


イードの身体には、けしてロウルの拳は当たらなかった。


「貴様は自分がこの者らに利用されていることに気が付かないのか? それとも亡きバイオの真似をして悦に入っているだけなら道化もいいところだな」


「そうかもれねぇ……。だがよぉ、年長者として……若い奴らに利用されてもいいって気概は持っていたいもんだよな」


「そうか……。ならば死ね」


イードが再び拳に光を纏わせると、突然背後からソウルミューが現れた。


それを払おうとしたイードだったが、側面からジャズが撃った電磁波が飛んできて怯んでしまう。


「一手遅れたなッ!」


「いくら遅れようがどうにもできんよッ!」


叫び声にイードがそう返すと、ソウルミューはジェットパックで上空へと逃げる。


仕掛けてきておいて迷わずに後退したソウルミューを見たイードは、これは何かあると思った瞬間――。


「爆発しろッ!」


いつの間に背に付けられていた小型爆弾が爆発。


背中の肉が焼け焦げ、その臭いが撒き散らされる。


爆発で怯んだイードをロウルが後ろから羽交い絞め。


さらにそこへミックスが装甲アーマードした両手でイードの身体を押さえつける。


「手を抜くなよミックスッ!」


「わかってるよ! うおぉぉぉッ!」


ロウルが思いっきり締め上げ、ミックスの両手は黒い渦のようなものを纏い、イードは呻きながらも完全に動きを押さえられてしまった。


「っく!? ロウル·リンギングだけでなく、この適合者の少年も合成種キメラの力をッ!?」


驚愕するイードは気が付いた。


今自分を押さえつけている二人は、かつてこの世界を覆い尽くしていた人型化け物――合成種キメラの力を有していると。


だが、このマシーナリーウイルスの適合者である少年はそれだけではない。


この力は、イードが崇拝するコンピュータークロエの生み出した自我を持つ合成種キメラの一人――グラビティシャドーの持つ重力を操る能力。


「貴様……その力をどこで……ッ!?」


もはや声を出すことも苦しそうなイードの前に、メイカが現れる。


そして、彼女は両手を大きく広げてそのまま大きく円を描き、その手をイードの身体に突き放つ。


すると、イードの身体がメイカの輝く両手に反応して、彼が飲み込んだ神具の欠片が少しずつその身体から抜き出されていった。


「早くしてッ! いつまでも押さえていられないよッ!」


ミックスが叫ぶ。


イードはロウルの腕とミックスのかけた重力の負荷を強引に解こうとしていた。


そのミックスとロウル二人の表情を見るに、あまり長くは動きを封じてはいられないようだ。


「焦らせないで。この術は難しいんだから……」


メイカは静かに言葉を返すと、少しでも早く神具を抜き出そうと神経を集中させる。


そこへ空からソウルミューとジャズが降りてきた。


近づいて来る二人――。


ジャズが安堵の表情を浮かべて、ソウルミューはヘラヘラと苦しそうに呻くイードに声をかける。


「どうよ、全部オレが考えたプランだぞ。イケてるだろ?」


そのときのソウルミューの顔は、いつものようにヘラヘラとしてはいるが、声色だけは張り詰めたものだった。

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