#559

――バイオニクス共和国で永遠なる破滅エターナル ルーインの襲撃が始まった頃。


イードは到着したメゾンマルジェラの乗ってきた大型航空機の前に立っていた。


弟子あるメゾンマルジェラから連絡がないことを不可解に思った彼は、儀式の準備がされているところからわざわざ歩いてきたのだ。


イードはたった一人だった。


共を誰も連れずに――いや、すべての信者は共和国で戦っているのだろう。


弟子たちが神具と奇跡人スーパーナチュラルをここまで運んで来るのを待っているだけの状態だった。


「メゾンマルジェラは使命を果たしたな」


大型航空機を眺めながらイードが呟くと、空から髪短い女性――メイカ·オパールが現れる。


メイカは緑色に埋め尽くされた草原に足を付けると、イードの背中を睨みつけていた。


「おい、法衣ゴリラ。あたしのことを覚えている?」


イードはゆっくりと振り返ると、メイカの姿を見た。


そして落胆したような表情になると、その丸太のような大きな首を左右に振った。


「私の弟子は死んだか……。こうも立て続けに大事な者を失うと、さすがに堪える……。だが、神具はここへ運んでくれたようだな」


イードはそう言うと顔を上げ、メイカの目を見つめた。


すぐに彼女の右目が神具クロノスであることわかったのだろう。


悲しそうな顔をしながらも、その表情で弟子の健闘を讃えている。


「娘よ。目的は復讐か?」


「負の連鎖は止めなければならない……。あたしはそれをうに越えた。マスターの使命はあたしが果たしてみせる」


「短い間で随分と成長したものだ。まるで別人のようだな」


薄っすらと笑ったイードに向かってメイカが歩き始める。


「せいぜい後悔するがいいわ。時の領地タイム·テリトリー最強のマスターがあんたの相手になるんだから」


イードは、ゆっくりと歩を進めて来るメイカに、周囲の光景を見るように言った。


二人が今いるところは山間部にある高原。


一面に広がる棚田たなだがあり、遠くには美しい山々や滝などの自然景観が広がっている。


「今年の収穫は終えているが、どうだ? 見事なものだろう?」


「ええ、少しだけど。里を思い出す光景ね」


「言われてみるとそうだな……。……もう、世界でこういう場所はかなり減ってしまったが」


そう言ったイードが空を見上げると、メイカは彼の目の前で立ち止まった。


距離にして約二メートル。


互いに攻撃を仕掛ければ届く距離だ。


「つまりは、すべての人間が死ねば緑は戻るってことね」


「ああ、もはや人類はこの地球ほしを喰い尽くしてしまった。だからこそ私はクロエを受け継ぎ、世界の再生を始めたのだ。今日まで……その、道のりにはとても強固な意志が必要だった。しかし、それももう終わる……」


「そうね。もうすぐ終わる……。“あたしたち”があんたの野望を打ち砕くからねッ!」


「“あたしたち”だと?」


メイカが声を張り上げて身構えた瞬間――。


イードは突然上から振ってきた大型航空機に押し潰された。

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