#285

再び向かい合うブレイクとミウム。


ミウムは先ほど――最初に彼と対峙したときとは違い、ジリジリと間合いを詰めていく。


ブレイクはそんな彼女を見て、付け入るすきがないと思っていた。


どこをどう攻めても自分の顔にミウムの拳が当たるイメージしか湧いてこない。


(くッ!? こいつに勝てる気がまったくしねぇ! なんで、こんな……)


「私の強さを感じるなら安心しろ。それは、お前も十分に強いということだ」


ミウムの強張っていた無愛想な顔が、元の冷たいものへと戻っている。


逆にブレイクの表情は歪み、彼は戦う前から怖気おじけづいていた。


《おいおい、感じるってのはマズいぜミウム。あのくらいの年齢の男子はみんなそういう言葉に敏感なんだ》


「そういうものなのか? 私は別に刺激するようなことは言っていないはずだが」


だが、それでもブレイクの中で恐れよりも怒りが勝った。


それは、相手にコケにされた経験が少ない彼にとって、ミウムとルーツーの会話は侮辱ぶじょくでしかなかたからだ。


「テメェら……バカにしてんじゃねぇよッ!」


自分が倒されるイメージを打ち消し、ただ正攻法――真っ直ぐにミウムへと向かっていく。


伸縮式の剣を中段に構えながら、彼女を目掛けて閃光のような突きを繰り出した。


しかし、そんな弾丸をも超える速度の突きもミウムには当たらない。


ブレイクは避けられることがわかっていたのだろう。


避けられたなら当たるまで剣をつき続けるだけだといわんばかりに、そこからマシンガンのように突きを放っていく。


そして、コンピューターのプログラムのように規則的な攻撃がミウムへと降り注いだ。


「来るところがわかっている攻撃などトレーニングと変わらない」


《見事な突きの連続だがよ。良い子ちゃんの剣技じゃミウムには一生届かねぇぜ》


剣を握ったその日から――。


ブレイクが鍛錬を欠かしたことはなかった。


その積み上げてきた技術はすでに剣聖と呼ぶにふさわしい。


おそらく現在の彼とまともに打ち合える剣士は、世界でも数えるほどしかいないだろう。


だが、その何千何万――いやそれ以上に振り続けたブレイクの剣は、悪くいえば太刀筋が真っ直ぐ過ぎるのだ。


普段は口も素行悪い彼だが、その太刀筋はこの世の誰が振る剣よりも真面目だった。


とある事情から故郷の人間をすべて斬り殺した過去を持つブレイクだが、その剣の技術だけは清廉潔白と呼ぶにふさわしい。


しかし、それでもミウムには届かない。


彼女から見ればたとえ閃光のような太刀筋でも、規則正しく向かってくるやいばでしかなかった。


もう少しブレイクに余裕があれば他の戦い方もできただろう。


それだけの経験も実力も彼にはある。


しかし、ミウムから感じる妙な懐かしさが、彼にその余裕を与えてはくれなかった。


(ダメだッ! ただやってきたことだけやってもこの女には通じねぇッ!)


剣を突きながら思うブレイクに、ミウムは声をかける。


「どうしたベルサウンド。お前の力はそんなものか? そういえば二匹の犬、いや刀はどうしたんだ? ベルサウンドの者には受け継がれているはずだろう?」


「くッ!? リトルたちのことも知ってんのかよ!?」


ブレイクがそう言うと剣速がかすかに落ちる。


ミウムはそのわずかな遅れを見逃さなかった。


その長い手足を活かし、ブレイクの間合いの外から拳を叩き込む。


「あの状態から咄嗟とっさに剣を戻したか。さすがだな。それでこそ最強と呼ばれるだけのことはある」


「皮肉にしか聞こえねぇな……。ここまで歯が立たねぇのはロウルのおっさん以来だ、クソっタレがッ!」


「お前の実力は十分理解した。そろそろこっちからも行くぞ」


そう言ったミウムは、ひるんでいるブレイクへと飛び掛かった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る