#282

部組織ビザールの集会はまだ途中だったが、ブレイクはホテルの部屋から去っていった。


それからエレベーターを出て、まだ陽射しが強い外へと出る。


ブレイクは人通りが多い道を避け、自分が泊まっているホテルを目指した。


その宿への帰り道で彼は物思いにふける。


(この短い間に何人も死んだんだぜ……。どうなってんだよ、この国はよぉ……)


今まで戦ってきた生物血清バイオロジカルのリーダーがビザールのトップとなる――。


これまで流れた血はなんだったのか。


死んでいった同僚や斬り殺してきた敵の死は無意味だったのか。


そのことへのいきどおりがブレイクの中で渦巻いていた。


だが、ベクターがやろうとしていることは良いことである。


あの隻眼の男は、ビザールを公務員化することでバイオニクス共和国の闇をほうむり――。


さらには仕方なく暗部に落ちてきた人間や、研究所の人体実験で生まれた特殊能力者たちを守ろうとしている。


自分もこれ以上戦わなくて済む。


これで誰の命令も聞かなくてよくなる。


それは、ラムブリオンにこの国へ連れて来られてから、ずっと望んでいたことだったではないか。


妹も自分も自由になれるのだ。


だが、この後味の悪さはなんだろうか。


今まで流れた血の意味がなくなるからか。


敵だったベクターを信用できないからか。


それとも自分は、ただ戦える敵が欲しいだけなのか。


殺しのときに笑うのは自分を騙すためだ。


それが今や本当の自分を侵食して来たのか。


狂ったふりをしてきたツケを払うときが来たのか。


ブレイクには、自分の内面から湧き上がる気持ちが理解できないでいた。


「メディスンのヤツの言う通り悪いくせだ……。待てが苦手だな……オレは……」


ボソッと声をらしたブレイク。


その自嘲気味に笑う彼の姿は、とてもじゃないがバイオニクス共和国で最強と言われたハザードクラスとは思えないほど頼りないものだった。


肩を落として歩く今のブレイクには、珍しく晴れた陽の光ですら暖かく感じられないだろう。


「そこの白髪の少年。君に訊きたいことがあるんだが」


地面を見ながら歩いていたブレイクに、突然声がかけられた。


彼が振り向くと、そこは白銀髪の女性が立っていた。


年齢は二十代後半か三十代前半くらいに見え、長身で手足は細いが、胸と尻が盛り上がったグラマラスな体型をした愛想のない女性だ。


サバイバルゲームでもして来たのだろうか。


その女性が着ている服すべてが迷彩柄だった。


「なんだ? 道でにでも迷ってんだったら、すぐそこに警備用ドローンがいるからそいつに訊けよ」


「道には迷ってない。私が知りたいのは君がベルサウンドなのかどうかだ」


「チッ、サインでも欲しいのかよ」


ブレイクはうんざりした顔でそう返した。


たまにいるのだ。


ハザードクラスである自分のことを俳優やアイドルと勘違いしてサインや握手を強請ねだってくるやからが。


ブレイクは勘弁してくれと言葉を続けると、その場を後にしようとした。


だが、次の瞬間に彼は――。


「うん? その腕は……ッ!?」


白銀髪の女性の腕が機械であることに気が付いた。

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