#257
――ライティングとトランスクライブの話の後から数日後。
攻撃がないのならバイオニクス共和国へ戻ってもいいのではないかと彼はジャズに言ってみたが、彼女は首を左右に振って
「敵が
「敵ねぇ。俺には彼らが敵とは思えなかったけど……」
ミックスがそう返事をすると、ニコも彼に同意したのか弱々しく鳴いている。
ジャズは、そんな彼らに何も言葉を返すことができなかった。
それは、彼女もミックスたちと同じようなことを思っていたからだった。
あそこでトランスクライブがライティングの邪魔しなければ、今頃はこの戦いも終結し、脱走者たちと共に帝国へと戻っていたはずだ。
スピリッツから後で、ライティングとトランスクライブ二人の話がどういうものだったかを聞いたが。
ジャズには納得できることではなかった。
彼女もライティング同じく、ノピア·ラッシクが才能がない――利用価値がないという理由で、
(会ったこともないくせに、ノピア将軍のなにがあいつにわかるんだよ……)
表情を強張らせるジャズに、ミックスとニコは何もしてやることができなかった。
――その一方で、トランスクライブがいる
「正直、もうこれ以上は戦えないわ……」
メモライズがトランスクライブのそう
どこからか盗んできたのか。
それとも拾ってきた物を手直ししたのか。
ツギハギだらけでボロボロの
数では帝国を圧倒している脱走軍だったが、食料も薬も弾薬もすべてが足りていない。
それにこの前のライティングの話を聞いた仲間たちは、皆戦意を失い始めている。
現在の明日の食事さえ命懸けで手に入れなければいけない生活に、全員が疲労し切っていたのだ。
たとえ帝国での待遇が良くなくても、この地獄よりはマシではないか?
多くの者がそう思い始めているのが、今の脱走軍の状態だった。
「それでも……誰も逃げ出していないけど……」
弱々しく言うメモライズ。
その燃えるような赤い髪を
「みんなわかっているのさ。帝国の民になってもその中で差別されるだけだってな」
トランスクライブが言うに――。
自分も
その理由は、
つまりは宗教団体の教え――かつて暴走したコンピューターが行った世界を滅ぼすこと――。
人間を殺すこと以外は何も知らないのだ。
そんな者たちが、文化の違う人間たちに交じって暮らしていけるわけがない。
いつか弾圧されるようになり、やがては全員処分される。
トランスクライブはそう考えると、どうしても帝国に降伏することができなかった。
「オレたちにはもう道はない……。どこにも属せないオレたちは、戦って自分たちの住む土地を手に入れるしかないんだ……」
「トランスクライブ……」
メモライズは背を向けて言うトランスクライブに抱きついた。
彼女にはトランスクライブが何を考えているかがわかっていた。
このまま戦っても勝ち目はない。
だが、もうやるしかないということを。
「ありゃりゃ~? こりゃ入ってきちゃまずかったかな~」
能天気な声を共に、軍幕が開いて人が入って来る。
童顔で小柄――服は、身体の線がすごく強調される特殊な素材を使ったパイロットスーツのようなものを着ている少女だ。
トランスクライブとメモライズは、その少女を見て
そして慌てて互いに離れると、気にしないでいいと返す。
そんな二人を見て、少女はポリポリと頭を掻き始める。
「いや~それにしても遅れて悪かったね~。ちょっと別の仕事で手間取っちゃってさ~」
「こっちも……まさか本当に来てもらえるとは思わなかったよ」
トランスクライブが戸惑いながらそう言うと、少女はニカッと白い歯を見せた。
そして、おどけた様子で二人の前に立つ。
「ふふ~ん。まあ、プライダル的にぃ~、仕事っては面白くなきゃやらないからね~。あんたらの依頼は楽しそうだったからさ~」
この小柄少女の正体は、トランスクライブとメモライズが無理だと思いながらも仕事を依頼した傭兵――プライダル。
裏社会では世界的にも有名な人物である。
「さてと敵はストリング帝国だっけ?、それでぇ~ターゲット誰かな?」
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