#182

――ブレイクは、ついさっきジャガーから送られてきた刑務所内のマップを見ながら、脱獄だつごくをしようとしている人間がいる方向へと向かっていた。


そのマップを見るに、脱獄をねらっているほうの生物血清バイオロジカルは、囚人しゅうじんたちがいる監獄かんごくエリアからはかなりはなれた位置にしるされている。


すでにろうから出ているのだろう。


刑務所内のセキュリティーはすでに無力化し、おそらく動ける看守かんしゅたちは、問題が起きたほうへと向かったか、囚人たちがさわぎを起こさないように対処たいしょしているはずだ。


その騒ぎのすきをつけば、牢から出るくらいは簡単なことだろうとは推測すいそくできる。


「ここまで手のんだことをやるってことは……フフフ……フハハハハッ!」


一体誰を脱獄させたいのかはわからないが、これだけ大掛かりなことをやるほどだ。


余程よほどの人物なのだろうと、ブレイクはその口角こうかくを上げる。


「クズがクズを助けて、そのクズは結局クズに殺されんだよなッ!」


――その頃。ブレイクと別れて問題が起きたほうへと向かっていたジャガーとヴィクトリアは、目的地にたどり着いていた。


そこはこの監獄のセキュリティーの管理かんりしているところだった。


二人が管理室に到着とうちゃくしたときには、すでに何人かの看守が殺されており、出入り口付近ふきんには肉片にくへんとなって飛びった死体がころがっている。


ジャガーとヴィクトリアが警戒けいかいしながら中へ入ると、そこには――。


「ジャガーにヴィクトリアッ? まさか、キミたちも来ていたんですね」


エアラインとリーディンがいた。


エアラインのほうは二人に笑みをかべているが、リーディンは無愛想むあいそに振り向くだけだった。


ジャガーはどうして二人が監獄プレスリーにいるのかをたずねると、エアラインが二人の前に出る。


「実は生物血清バイオロジカルつかまってしまいましてね。この混乱こんらんを利用して逃げたんですよ」


それからエアラインは、自分たちがてきに捕まっていたということを話し始めた。


二人がイーストウッドからのめいを受けてマンションへと行ってみると、そこには生物血清バイオロジカルが待ちかまえており、抵抗ていこうする隙もなく捕らえられてしまった。


だが、幸運こううんにも監獄プレスリー侵入しんにゅうするために頭数が必要だった生物血清バイオロジカルは、エアラインらを拘束こうそくしたまま連れ去る。


そして、周りからは見えないように自由をうばわれ、ここまで連れて来られたのだという。


「すぐにでも組織と連絡を取りたかったんですけど、何せここは刑務所。通信つうしん手段しゅだん確保かくほできなくてこまっていたんですよ」


「そっかぁ。なんにしても、二人が無事で何よりだったよぉ」


ホッとむねで下ろしたヴィクトリアは、無愛想に立っているリーディンに抱きついた。


ブレイクよりは先輩せんぱいとはいえ、まだ新人といっていいリーディンにしたその行為こういは、ヴィクトリアが彼女のことを気に入っているということがわかる。


まだ付き合いがあさいというのに、随分ずいぶんれ馴れしい態度だ。


その抱きつかれたリーディンのほうは、しかめっつらをしながらも特に抵抗しないままだった。


まるでそこらにいる不機嫌ふきげんそうに通行人をにら野良猫のらねこのような顔をしているリーディンだったが。


おそらく何度もあったことなのだろう、リーディンはヴィクトリアに抱きつくなといっても無駄むだだということがわかっているようだった。


「話はそれだけか?」


そんな二人を気にせずに、ジャガーがエアラインにせまる。


何か威圧的いあつてきな態度の彼に対し、エアラインは困った表情を向けている。


そして、ジャガーは拳銃けんじゅうタイプの電磁波でんじは放出ほうしゅつ装置そうち――オフヴォーカーを彼に向けた。


「ちょ、ちょっと待ってジャガーッ⁉ 冗談じょうだんはやめてくださいよ」


「冗談? オレはうそをつくのも他人たにんをからかうのも大好きだが、人に銃口を向けてふざけるようなことはしねぇよ」

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