#180

バイオニクス共和国では、犯罪が起きること事態かまれである。


それは多くの国民たちが何不自由なく暮らしているからだ。


そのせいか、受刑者じゅけいしゃ刑務所けいむしょでの生活や更生こうせいについて国民たちの関心かんしんもが高い。


その関心とは一体どんな人間が罪を犯すのだろう、といった野次馬やじうま根性こんじょう丸出しの好奇心こうきしんからだろう。


監獄プレスリーができた当時とうじは、分厚ぶあつかべおおわれ、法律ほうりつ関係者の研修けんしゅうや、大学の研究目的以外では公開はされていなかった。


だが、最近国民からの要請ようせいを受けて、施設の一般公開に取り組んでいる。


共和国上層部じょうそうぶ矯正きょうせいの現場を積極的せっきょくてきに公開するよう、監獄プレスリー署長しょちょう通知つうちをした。


そのことがあり、たとえブレイクたちのような未成年みせいねんの学生でも、正式せいしきな手続きをすれば刑務所内に入ることができたのだった。


「それにしても事前に申請しんせいしていなかったのに、よくすぐに入れてくれたね」


正門から手続きを済ませ、刑務所内に入ると、ヴィクトリアがブレイクとジャガーに小声で言った。


三人とも見学者用のリストバンドを付けている。


これにはICチップが搭載とうさいされており、リストバンドを付けていることで、セキュリティーやドローンから囚人しゅうじんではないと認識にんしきしてもらいうためのものだ。


当然刑務所内で働いている看守かんしゅたちもこのリストバンドを付けている。


「そりゃメディスンさんにたのめば大体のことはなんとかしてくれるさ」


ジャガーは監獄プレスリーの受付に申請を出す前に、メディスンに連絡をし、前もって申請していたことにしてもらっていた。


ヴィクトリアは、さすがジャガーとメディスンであると、二人をことをたたえる。


「ホント頼りになるよね」


「当然だ。それぐらいできなきゃこまる」


「もう、なんでそんな言い方しかできないのかなぁ」


ブレイクの態度たいどに、ため息をついたヴィクトリアを見て、ジャガーはクスリと笑った。


それから三人は看守に連れられて監獄かんごく内へと進んでいく。


中には刑務作業のために小さな工場があり、多くの囚人はここで仕事をするのが日課にっかのようだ。


その工場では、今日も囚人たちが手作業で何かを作っている姿すがたがあった。


その様子を遠くから見ながらジャガーが看守にたずねた。


自分たち以外に見学者はいるのか? と。


かれた看守はジャガーたちと同じ学生たちが来ていると答えた。


そして、ただでさえめずしい若者の団体が、日に二度も来ることに感心しているようだった。


「ねえブレイク、それってたぶん……」


「ああ、間違いねぇな。生物血清バイオロジカルだ」


ヴィクトリアが小声でいうとブレイクがうなづく。


どうやら監獄プレスリーにいる生物血清バイオロジカルのメンバーも未成年であり、ブレイクたちと同じように見学者としてこの刑務所の中へと入っているようだ。


看守の後を歩きながら、三人は近くにいる者にしか聞こえない音量で会話を始める。


「お前らは、生物血清バイオロジカル監獄プレスリーに来た目的はなんだと思う?」


――ジャガー。


「誰かを脱獄だつごくさせるつもりじゃねぇのか? それ以外にこんなとこに用があるとは思えねぇ」


――ブレイク。


「でもさ。生物血清バイオロジカルのメンバーが監獄プレスリーに入れられたなんて聞いたことないよ」


――ヴィクトリアと、思い思いに発言していたが、急に前を歩いて看守が足を止めた。


どうやら刑務所内で問題が起きたという連絡だったようで、看守はブレイクたちを連れて、彼らを安全な休憩きゅうけい室に連れていこうとしたが――。


「悪いなぁ、看守さん。しばらく眠っていてくれ」


ジャガーが背中を見せた看守の後頭部こうとうぶ殴打おうだ


看守はその場で脳震盪のうしんとうを起こして倒れる。


そして、ジャガーは看守の持っていた小型の通信機器を取って、彼に成りすまし、どこで問題が起きたのかを訊いた。


看守の話し方――ボソボソと曖昧あいまいしゃべり方を真似まねて、さらに通信機器の電波が悪いような態度で訊くジャガー。


連絡してきた相手は全くうたがっておらず、今刑務所内で起きていることをすべてジャガーへと伝える。


「どうやらブレイクがいったことが当たっていたみたいだな。刑務所内のセキュリティーシステムがすべてダウンしたようだ」


ジャガーは通信を切ると、そのことをブレイクとヴィクトリアに伝えた。


そして、まず自分たち以外にここへ来ているという、見学者の居場所を探すことに決める。


同い年タメを見たら問答もんどう無用むようで斬っていいんだよな?」


「ダメ~! ダメダメッ! 見つけたら捕まえて情報を話させるんだよッ! それとエアラインとリーディンのいるとこも絶対に調べなきゃッ! これはメディスンさんからも言われてることなんだからねッ!」


「ったく、メンドーなことが多いな。もっとシンプルにいきたいもんだ」

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